移民よりもイギリス人の若者の雇用を
―雇用年金相、移民労働者への依存を批判

カテゴリー:若年者雇用外国人労働者

イギリスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2011年8月

ダンカン=スミス雇用年金相は7月に行なった講演の中で、企業に対して移民労働者よりもイギリス人の若者や失業者を雇用することを求めた。イギリスで昨年中に創出された雇用の半数以上が移民労働者によって占められていたという。

同相は、企業にはイギリス人に平等な機会を与える責任があるとして、企業が移民労働者に依存する現状を批判。若者などの雇い入れを約束するならば、そのための訓練を行なうと述べた(注1)。

イギリス人に優先的に雇用を提供すべきであるとする主張は、前労働党政権のブラウン首相も行なったところだが、その際には当時野党であった保守党からをはじめ、多くの批判を招いた(海外労働情報2007年12月参照リンク先を新しいウィンドウでひらく)。EU域内の労働者については、原則として全ての加盟国で自由に就労し差別を受けない権利が付与されており、イギリス人を優先することはEU法に反する。このため、法的には実現は不可能であることがその理由だ。

ただし、同相の発言をめぐり経営側から生じている反発は、単に法的な問題にとどまらない。イギリス商業会議所(BCC)のフロスト事務局長は「企業には高度なスキルを持った労働者が必要だが、多くの企業にとってそれは移民労働者の雇い入れを意味する。企業は読み書き計算やコミュニケーションの能力を持った労働者を求めているが、イギリス人の若者には往々にしてこれが不足している」と述べている。背景には、連立政権が現在促進しているEU域外からの移民労働者の制限により、人材確保がより困難になっているとする経営側の不満があるとみられる。EU域外からの専門技術者などの受け入れに関する数量制限が、この4月から本格的に開始されたほか、留学生の受け入れや滞在中の就労に関する制限についても7月から導入したところだ。さらに現在は、家庭内労働者の受け入れ禁止や、定住・家族呼び寄せなどに関する規制強化や権利の制限などの方策が検討されている。

なお統計局の移民関連統計によれば、移民労働者は不況期に減少した後、2010年には再び急速に増加しており、とりわけ東欧諸国からの移民の増加が大きく影響しているとみられる(海外労働情報2011年6月参照)。また、6月末に公表された人口統計は、移民の純流入数(流入数から流出数を除いたもの)の増加や自然増(出生数から死亡数を除いたもの)などで、イギリスの人口が2010年6月までの1年間に47万人増(合計では6226万2000人)と半世紀ぶりの増加幅となったことを示した。

図 出身地域別移民の純流入出数(流入-流出)(単位:千人)

図 出身地域別移民の純流入出数(流入-流出)

  • 注:各年とも、9月までの12カ月間の累計。
  • 出典:Provisional International Passenger Survey (IPS) estimates of long-term international migration, Office for National Statistics

参考資料

2011年8月 イギリスの記事一覧

関連情報