移民よりもイギリス人の若者の雇用を
―雇用年金相、移民労働者への依存を批判
ダンカン=スミス雇用年金相は7月に行なった講演の中で、企業に対して移民労働者よりもイギリス人の若者や失業者を雇用することを求めた。イギリスで昨年中に創出された雇用の半数以上が移民労働者によって占められていたという。
同相は、企業にはイギリス人に平等な機会を与える責任があるとして、企業が移民労働者に依存する現状を批判。若者などの雇い入れを約束するならば、そのための訓練を行なうと述べた(注1)。
イギリス人に優先的に雇用を提供すべきであるとする主張は、前労働党政権のブラウン首相も行なったところだが、その際には当時野党であった保守党からをはじめ、多くの批判を招いた(海外労働情報2007年12月参照)。EU域内の労働者については、原則として全ての加盟国で自由に就労し差別を受けない権利が付与されており、イギリス人を優先することはEU法に反する。このため、法的には実現は不可能であることがその理由だ。
ただし、同相の発言をめぐり経営側から生じている反発は、単に法的な問題にとどまらない。イギリス商業会議所(BCC)のフロスト事務局長は「企業には高度なスキルを持った労働者が必要だが、多くの企業にとってそれは移民労働者の雇い入れを意味する。企業は読み書き計算やコミュニケーションの能力を持った労働者を求めているが、イギリス人の若者には往々にしてこれが不足している」と述べている。背景には、連立政権が現在促進しているEU域外からの移民労働者の制限により、人材確保がより困難になっているとする経営側の不満があるとみられる。EU域外からの専門技術者などの受け入れに関する数量制限が、この4月から本格的に開始されたほか、留学生の受け入れや滞在中の就労に関する制限についても7月から導入したところだ。さらに現在は、家庭内労働者の受け入れ禁止や、定住・家族呼び寄せなどに関する規制強化や権利の制限などの方策が検討されている。
なお統計局の移民関連統計によれば、移民労働者は不況期に減少した後、2010年には再び急速に増加しており、とりわけ東欧諸国からの移民の増加が大きく影響しているとみられる(海外労働情報2011年6月参照)。また、6月末に公表された人口統計は、移民の純流入数(流入数から流出数を除いたもの)の増加や自然増(出生数から死亡数を除いたもの)などで、イギリスの人口が2010年6月までの1年間に47万人増(合計では6226万2000人)と半世紀ぶりの増加幅となったことを示した。
図 出身地域別移民の純流入出数(流入-流出)(単位:千人)
- 注:各年とも、9月までの12カ月間の累計。
- 出典:Provisional International Passenger Survey (IPS) estimates of long-term international migration, Office for National Statistics
注
- なお、雇用年金相の発言に先立って、連立政権下で貧困対策の検討を委任されている労働党のフィールド議員は現地紙とのインタビューの中で、連立政権成立からこれまでに国内で創出された約40万件の雇用うち、87%を移民労働者が占めたと述べている(公式統計に基づくデータとしているものの、根拠は明示されていない)。この比率は、約8割といわれる労働党政権下での実績を超えている。なお同議員は、連立政権が6月から導入した就業支援施策「ワーク・プログラム」について、長期失業者に対してより厳しい姿勢で臨むべきであると批判している。
参考資料
2011年8月 イギリスの記事一覧
- 移民よりもイギリス人の若者の雇用を―雇用年金相、移民労働者への依存を批判
- 未熟練業務の民間委託などで官民の賃金格差が拡大―統計局
関連情報
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