景気回復で雇用情勢も改善
―2010年の独労働市場総括
連邦雇用エージェンシーは1月4日、2010年のドイツ労働市場について「好調な景気回復にけん引された格好で、年初の予測を上回る改善をみせた」との総括を発表した。2010年のGDP成長率は実質3.6%増(対前年比)と、前年の4.7%減という落ち込みから急回復したが、この回復と連動して雇用情勢も改善し、失業率(注1)は年初の8.1%から7.5%まで低下した。
東西統一以来の景気回復率
ドイツ連邦統計局が1月12日に発表した2010年の国内総生産(GDP)の成長率は、実質3.6%増と、経済危機前の2006年の3.4%増を超える回復となった。これは1992年に統一ドイツの統計を取り始めて以来、史上最高の伸びである(図1)。ドイツのGDPは経済危機の影響で、2009年に4.7%減という戦後最大の落ち込みを記録したが、2010年には外需による輸出増で力強い回復ぶりをみせ、労働力需要も上昇した。
図1.ドイツ国内総生産(GDP)の伸び率の推移(1992~2010年)
注:物価調整済、対前年実質増減率(%)
出所:Statistisches Bundesamt , Wiesbaden 2011
失業者、18年ぶりに一時300万人割れ
政府は経済危機後から、労働時間貯蓄制(注2)などドイツで普及している柔軟な労働時間制度を積極的に活用しつつ、操業短縮手当制度(注3)の拡充策を行い、急激な失業率の悪化や雇用減少の緩和に努めてきた。2010年の労働市場は年初から失業率の改善が続いたが(図2)、政府は慎重な姿勢を崩さず、2009年11月末に延期した操業短縮手当の拡充を、再度2010年4月に延期するなどの予防措置を講じた。相次ぐ拡充策の延期に悪影響を懸念する声もあったが、2010年第2四半期には、GDP2.2%増(前期比)と、東西統一以来最大の伸びを記録するなど急速な景気回復が明らかになり、失業率の改善に貢献した。その後10月には、一時的に失業者数が300万人を割り込むなど、18年ぶりの失業水準にまで回復した。
図2.ドイツの失業率推移(2010年)
注:季節調整値
出所:連邦雇用エージェンシー
このほか2010年は、登録失業者の年間平均数が324万4000人と前年よりも約5%(17万9000人)減少した一方で、求人の年間平均数は35万9000件と前年より約19%(5万9000件)増加した。さらに、社会保険料支払い義務のある職に就いている労働者数をみると、6月に前年同月比で約1.2%上昇した後、10月には49万8000人と前年同月比で約1.8%上昇するなど、経済危機前の水準をとり戻した。
危機以降、EU諸国の平均失業率が10%に高止まりする中で、このようなドイツの雇用情勢は「雇用の奇跡(Job Miracle)」と呼ばれて注目を集めた。
「雇用の質」への懸念
ただ、こうした労働市場の改善に関して「雇用の質」の低下を懸念する声もある。連邦統計局の2010年8月11日の発表によると、2009年の若年層(15~24歳)の就業形態を2000年と比較すると、正社員の割合が約25%も減少しており、逆にパートタイムや契約社員などの非正規の割合が急増(約42%増)している。これについて統計局では、求人自体に短時間労働、契約社員、ミニジョブなどの非正規が増えたことが要因だと指摘している。
ドイツ左派党(Die Linke)のザビーネ・ツィマーマン(Sabine Zimmermann)議員も、ドイツの失業改善について「非正規労働者が増加しているだけだ」と警告する。報道(Deutsche Welle)によると、同議員は「2010年は失業者や労働者にとって良い年とは言えない」と語り、「いわゆる"雇用の奇跡"と呼ばれる2010年の労働市場の内容は、職業訓練生やパートタイムなどの低賃金労働が増えただけのことである。十分な給与を得られる正規従業員の職はますます過去のものになっており、有期など一時的な職業に就いている労働者の割合は前年同月比で32%も増加した」として、ドイツ労働市場の改善の「質」に関して疑問を投げかけている。
注
- 本稿における「失業率」は、全て季節調整値を用いている。
- 労働時間貯蓄制とは、労働者が口座に労働時間を貯蓄しておき、休暇等の目的で好きな時にこれを使えるという仕組みである。従来の均等配分時間原則とは大きく異なり、通常の労働時間を変動的に配分することを可能にする。一日の労働時間、週の労働時間は一定期間の幅で変動させることが可能である。
- 操短手当は、労働市場政策の一つである。企業が経済的要因等から操業時間を短縮して従業員の雇用維持を図る場合、連邦雇用エージェンシーに申請すると「操業短縮」に伴う賃金減少分の一部(減少分の60%、扶養義務がある子供を有する場合は67%)が補填される。操短手当自体は1969年に創設されたものだが、2008年秋以降の世界的な経済危機に対応するため時限措置で制度拡充を図ってきた。
参考資料
- Bundesagentur für Arbeit “The Labour Market in December and the Year 2010” (2011年1月4日付)、“Der Arbeits- und Ausbildungsmarktin Deutschland” (2010年11月)“、Statistisches Bundesamt Deutschland “Fast jeder zweite 15- bis 24-Jährige ist erwerbstätig”(2010年8月11日付)、Volkswirtschaftliche Gesamtrechnungen(2011年1月12日付)、Deutsche Welle(2011年1月4日付)
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