大統領が2010年の最重要課題は雇用と年金制度改革と強調
2010年2月15日、主要労使組織代表を招集し「社会アジェンダ会議(réunion d’agenda social)」(注1)を開催したサルコジ大統領は、2010年度に対処すべき課題について、雇用問題と年金制度改革を最優先する意向を明らかにし、「我々の一人一人がその立場 ――労使・政府・政党―― の如何に関わらず、自らの責任と向き合わねばならない。雇用と年金の問題は、いずれも(大統領任期の)5年間で解決できる問題ではない。それは、右派か左派か、与党か野党か、労使か政府かという問題でもない。フランス国民の一人一人に関わる問題である」と述べた。
同会議は、サルコジ大統領が就任以来、首相・関係閣僚と共に年初に開催しているもので、国が対処すべき課題について、その討議の方法及びスケジュールなどを労組及び使用者団体代表を交えて議論することを目的としている。
会議には、全国レベルで代表性を認められている、CGT(フランス労働総同盟)、CFDT(フランス民主主義労働総同盟)、FO(労働者の力)、CFE-CGC(フランス管理職総同盟)、CFTC(フランスキリスト教労働者同盟)の5労組と、MEDEF(フランス企業運動)、CGPME(中小企業総連盟)、UPA(手工業者連盟)の3つの使用者団体が参加した。
最優先課題は雇用
サルコジ大統領は、景気回復プランなどで金融危機によるダメージを他の国々より抑えることができたとしながらも、経済回復の勢いは未だ弱く、雇用情勢が非常に厳しい一年となることが予測されることから、雇用問題を2010年度の社会アジェンダの最優先課題とする意向を明らかにした。大統領は、4月にも再び主要労使代表を招き、ヴォキエ雇用相とラガルド経済相を議長とする会議を開催し、これまでに実施された雇用対策の評価とともに、不要な対策の中止や有効な対策の強化及び新たな対策の導入について検討する予定を示した。
労使側からは、失業保険給付の受給権が切れた求職者の救済措置への取り組みを求める声があがった。受給権が切れた求職者は毎年80~85万人にのぼるとされるが、2010年にはこの数が100万人に達すると雇用局(Pôle emploi)は予測している。この問題について、大統領は「誰一人見捨てられることはない」と述べ、雇用相が(1)手当受給権の切れた失業者の数および状況を正確に把握する、(2)彼らの意欲の回復と再就職を促す方法を検討する、ことを目的とした労使協議をセッティングすることになった。
年金制度改革は労使協議の実施を強調
大統領は、もうひとつの最優先課題として、退職年齢の引き上げを主とする年金制度改革の実施を挙げた。その背景には、赤字が300億ユーロにものぼるという深刻な財政状況がある。政府によれば、現在は1人の年金受給者を1.8人の年金保険料納付者が支えている計算だが、それが2020年には1.5人、2040年には1.2人になると予測される。
大統領は、金融危機により事態はさらに厳しい状況にさらされているとしたうえで、これまで実施してきた制度改革は不十分であったと言わざるを得ないと述べるとともに、「年金制度改革をこれ以上先延ばしにできないことは明らかである。我々の子や孫たちが、当然の権利である年金を受給できるよう、今年中に制度改革を断行する決意である」と断言した。その一方で、「いかに急を要する事態とはいえ、重要な課題であるからこそ労使との協議に時間を十分に割きたい」とし、「社会的パートナー(労使)を尊重する」という方針に変わりはないことを強調した。
政府側は制度改革のスケジュールについて、ダルコス労働相及びヴォルト公務員相のもとで年金政策指導評議会(COR:Conseil d’orientation des retraites)(注2)の報告書を土台とした労使協議を4月から開始し、その結果をもとに政府が起草した法案審議を9月にはスタートするというスケジュールを示した。
労組は強引な改革実施を危惧
政府側はこの他に、2010年の重要課題として、今後数十年間にわたって直面することになるであろう介護問題(question de la dépendance)について労使とともに取り組むこと、零細企業における「代表性の問題」(注3)に関する法案を作成し今秋の採択を目指すこと、公務員制度の改革について公務員組合とアジェンダ会議を開催することなどを明らかにした。
今回の会議の目的は具体的な政策を示すことではなく、まず「政策を実行する日程とその方法を決定すること」であると明言する大統領に対し、労使代表は「悪化し続けている社会・経済状況における優先事項は、雇用促進政策及び賃金政策である」とし、年金制度改革を最重要課題とする政府の方針に不満を示した。特に労組側からは、3月の地方選挙後に年金制度改革が強引に進められことを危惧する声があがった。
注
- フランスでは、労働立法及び改正の際には、労使との事前協議を行うことが「社会的対話の近代化に関する2007年1月31日の法律第2007-130号」により定められている。このため政府は、労働・雇用・職業訓練に関する立法・改正を検討する場合、労使代表組織に対して、現状判断、追求すべき目標および主要な選択肢を示す改革方針案を含む文書を労使代表に通知しなくてはならない。特に、サルコジ大統領の就任以降、「社会的パートナー(労使)を尊重する」という方針が強調されており、大統領が社会的パートナーを官邸に招き、政労使が共同で取り組む議題について表明し、意見交換を求めることが頻繁に行われている。エリゼ宮(大統領官邸)で開催された労使との会合は、2009年度だけでも10回近くに及び、経済・社会に関する重要な決定の全てに労使が関わっている。
- 議員、労使代表、専門家及び国の代表者から成る政(公)労使三者構成機関。専門家による年金制度に関する調査の実施、法案への提案・見解を示すことを目的として、 2000年に設立された。
- これまで、フランスにおいて労働組合の代表性は、5つの主要労働組合(CGT、CFDT、FO、 CFE-CGC、CFTC)の「疑うべくもない代表性」という前提に基づいていた。しかし、2008 年8月20日の法律で「代表選挙制」が導入されることになり、今後は職場での選挙結果に基づき代表組織が決定されることになった。企業との交渉に参加するためには、選挙を通じて組合代表を任命しなければならない。しかし、零細企業で働く400万人の労働者は未だにこうした「代表性」に参加できないという実情が問題となっていた。
資料
- フランス政府報道官発表資料 CLÉS ACTU N°172 – 19 février 2010
- Les Echos(2010年2月15日)
- Le Monde(2010年1月15日)
参考レート
- 1ユーロ(EUR)=121.25円(※みずほ銀行
ホームページ2010年3月4日現在)
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