基本養老年金の受給水準引き上げを決定

カテゴリー:高齢者雇用勤労者生活・意識

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  • 国別労働トピック:2010年2月

国務院常務会議(温家宝総理主宰)が昨年12月22日に開催され、退職者の基本養老年金の受給水準引き上げを決定した。同時に全国統一の「基本養老保険関係移動継続制度」(都市部企業従業員対象)が実施される運びとなった。

退職者の基本養老年金の受給水準は2005年より5年間連続して引き上げられているが、高齢者の生活水準の向上を図るためには、引き上げを継続して実施する必要があると判断された。今回の決定の主な内容は、(1)引き上げ幅は2009年の企業退職者1人あたり月平均基本養老年金の10%前後とし、全国1人あたりの月平均増加額は120元前後、(2)1950年代退職の上級科学技術者、熟練労働者、商工業従事者など退職時期が早く基本養老年金が相対的に低い者、辺鄙な地域の企業退職者などに対しては優先的に引き上げを実施、(3)退役後転職した元軍幹部で基本養老年金が比較的低い企業退職者に対しては関連規定に基づいて適宜調整――など。

中国都市部の年金制度はかつて、必要な財源はすべて事業所が負担し労働者は保険料を納める必要がなかった。しかし1980年代以降の年金保険制度改革は、企業保険を社会保険に転換させることに重点を置き、保険料を国、事業所、労働者が共同で負担する方向で改革が進んだ。

年金受給額はここ数年上昇しており、都市部の年金生活者に限って言えば一般住民に比べほとんど遜色のない生活水準を保っているといえる。ところが、年金受給額には大きな格差が存在するため、比較的裕福な生活を保障されている高齢者がいる半面、貧しい生活を強いられている底辺の高齢者も数多く存在するといわれる。都市部の年金生活者は基本的に元政府機関、国有企業、大型集団企業の定年退職者であるが、この中でも給付水準は異なり、最も高いのが元政府機関の退職者で、企業の退職者は相対的に低い。

さらに農村部の高齢者についてはほとんどこうした制度の恩恵に浴しておらず、都市部との格差は依然大きいといえる。こうした状況を踏まえて政府は1992年、「農村社会養老保険の基本案(試案)」を制定、公布した。同試案は法的拘束力を持たずほとんど地方政府の自主的実施に委ねられてきたが、その後まもなく制度に内在する構造的欠陥が露呈し、実施状況は停滞してきた。その結果、同制度の実施地域と加入者は少数にとどまり、受給が開始された高齢者の毎月受け取れる年金は極めて少額なものであった。

しかしながら農村部の公的社会保障に対するニーズは大きく、制度の改善を目指して2006年頃から北京市、天津市、江蘇省、浙江省寧波市、安徽省、山東省、四川省成都市、貴州省貴陽市、陝西省といった地域で「新型農村社会養老保険制度」が導入された。その後、国務院はついに2009年9月1日「新型農村社会養老保険試行の展開に関する指導的意見」を公布、全国レベルにおける「新型農村社会養老保険」の試行を本格的にスタートさせた。政府はこれにより今後農民の生活水準が向上し、都市部と農村部の格差が徐々に縮小され、農民の老後の心配がなくなると発表している。しかし現在、中国全土の農村部の60歳以上の高齢者人口は1億人を超える。都市部と農村部の格差を縮小という大命題の裏に、財源の確保等運用面では難しい局面も予想されている。

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  • 海外委託調査員

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