日曜の労働解禁法が成立

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  • 国別労働トピック:2009年8月

フランス上院(元老院)は、7月23日、小売店の日曜営業の規制を緩和する法案を可決した。通称「日曜労働の解禁」とされる同法案は、サルコジ大統領の「働きたい者がより働き、より稼ぐ」というスローガンの象徴ともいわれ、大統領が成立に向けて強い意欲を示していた。昨年12月に半ば強引に法案を国会に提出したが、全国規模での日曜営業の常態化につながるとする野党の強い反発だけでなく、与党UMP(国民運動連合)内からも「フランス文化の崩壊を招く」などと慎重論が出るなど審議は難航した。

1月には審議の無期延期を決定したが、7月1日からの臨時国会で審議を再開した。15日の下院(国民議会)の採決では、賛成282票、反対238票で可決したが、上院では165対159という小差での可決となった。可決後、法案の違憲性を主張する野党・社会党が憲法評議会に提訴したため、法案の成立、施行は憲法評議会の審議を待つことになる。

法案では、現行法で年5回のみ(クリスマスやバーゲン時等)と定められてきた日曜営業の例外規定を拡大。パリ、リール、マルセイユ周辺の観光客が多い約15の商業地帯に関して通年の営業を合法化した。なお、日曜勤務の労働者への代替休日や手当などは労使の交渉に委ね、明文化は避けた。法案による新措置の概要は以下の通り。

小売食料品店

日曜日の営業を13時までに延長(現行は12時まで営業可能)

例外的措置

デパートなど日曜日は通常営業していない施設について、市長が例外的に年に営業許可を与える回数は、これまで通り年5回に維持。ただし、この場合、従業員は通常の日額賃金の少なくとも2倍に相当する賃金と代休を得ることができる。

観光地及び温泉街

全小売業種が日曜日に営業可能(これまで営業が許可されていたのは、スポーツやレジャーに関連する店)。

例外消費慣習地域(PUCE)の設置

100万都市圏を中心に、例外消費慣習地域(PUCE)を設置する。市議会の要請に応じて、県知事が設置の決定を下す。PUCEに定められた地域は、全業種で日曜営業が可能となる。これまで不法に日曜営業を行っていた店舗が多い地域の営業活動の合法化が目的。対象となるのは、パリ、リール、マルセイユなどの大都市とその近郊の約15地域のみ。ただし、リヨンについては、同法案に強く反対しているため、PUCEの対象から外された。

日曜の労働

新たに設置されるPUCEでは、日曜に就業する場合の代償として、最低でも平日の2倍の賃金と代休が従業員に与えられる。修正案では、従業員が日曜労働の代償として得られるものに関して、使用者と従業員で交渉を行うことが義務付けられた。ただし、こうした措置は、観光地域や恒久的例外分野(映画館等のレジャー施設、病院、レストランなど)として、既に日曜労働が許可されている業種における日曜労働に対しては適用されない。

日曜の労働の拒否

新たに設置されるPUCEでは、日曜労働は希望する従業員が行うのが原則であり、従業員は日曜労働を拒否することもできる。従業員が日曜の労働を拒否したことを理由に解雇されることはない。失業者にとっては、日曜日の労働の拒否は、求職者リストからの除名の理由にならない。

除外地域

モゼール県、バーラン県、オーラン県は新措置の対象にはあたらず、地元の各県の職業法の措置に従う。

ちなみにフランスでは、キリスト教の「安息日」にあたる日曜日には、原則として「労働してはならない」ことが1906年に労働法典で定められた。しかし、労働法典には180もの例外措置が盛り込まれており、交通機関、病院、ホテル、飲食業、文化・スポーツレジャー施設、そして法定指定観光地域などは、例外として日曜日の営業が認められている。大都市郊外の大型ショッピングセンターなどは、営業申請をして認められれば、期限付きで営業許可が与えられる。INSEE(国立統計経済研究所)によると、現在740万人が日曜日にも働いており、そのうち日曜日の労働が慣例化している人は340万人にのぼる。サルコジ大統領は、こうした現状にあって「日曜日は労働してはならない」という規定は、あまりにも現実からかけ離れており、「日曜日の営業の拡大は雇用機会につながり、労働者の所得増や消費の拡大、ひいては景気回復をもたらす」と主張してきた。

同法案の可決を受けて、労働者の力(FO)とフランス民主主義労働同盟(CFTC)は、「日曜労働の常態化に繋がる」「週末に消費者が大型ショッピングセンターに流れ、小規模店舗の営業が苦しくなり雇用がなくなる」と、法案への異議を唱えた。野党・社会党は、「新たに設置されるPUCEと、従来から日曜営業が許可されている地域とで、条件の差があるのは、不平等である」とし、法律や条約の違憲審査を行う憲法院に法案の合憲性の審議を求めて提訴した。

憲法院は8月6日、反対派の主張を退け、法案の大部分を有効とした。ただし、法案では、年5回までの日曜営業の決定権を市長・村長に与えるとしながらも、パリについては市長ではなく知事に権限が与えられており、憲法院はこれについては「違憲」とする判断を下した。これを受けて同法は、パリ市の例外規定に関する条項を削除したうえで8月11日、官報に公示された。これによりフランスでは、8月16日より、日曜営業が可能となった。

参考

  • フランス下院(国民議会)HP、Liaisons Sociales、Le Monde

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