2つの失業率
金融危機の影響は中国雇用市場にも及んでいる。人的資源・社会保障部が1月に発表した08年の失業率は4.2%。これまでのデータを見ると、この失業率は1997年のアジア金融危機以降2番目の高い値で、ピークの2003年の4.3%をわずかに下回る水準となっている。しかし、これは都市部の登録失業率に過ぎず、この数字には農村住民及び下崗(レイオフ)労働者等は含まれていない。
一方、中国社会科学院は現在の失業率はすでに9.4%に達しているという見方を発表した。これは政府発表の数値の2倍以上に相当する。同院人口・労働経済研究所の張副所長が「新規大卒者の就職が特に深刻で、09年新規大卒者610万人中150万人の就職が困難になると見られる、しかしさらに厳しいのは農民工問題」と指摘するように、農民労働者の問題はより深刻である。現在中国の農村部にはまだ1億人を超える余剰労働力があると見られており、これらを含めると失業率はさらに跳ね上がる可能性もある。
人的資源・社会保障部のスポークスマン尹氏は記者会見で、社会科学院の調査結果が妥当なものであるか否かについて正面から言及することは避けたものの、「調査失業率と登録失業率は統計方法・指標の定義・統計の範囲がいずれも異なり、直接比較することはむずかしい。しかし国際的に見て失業率の計算には厳格な基準があり、一定規模のサンプルがあることを前提として科学的に調査が行われることが望ましい」と述べ、政府発表の失業率が全面的な市場の実態を反映したものでないことを暗に認めた。その上で、「しかしデータのみを見ると、社会科学院により数度行われた調査結果は、だいたい政府発表の都市部登録失業率を1ポイントほど上回っている。二つの失業率が反映する雇用と失業の変化の傾向はおおむね一致している」と述べ、各失業率が同様の傾向を示していることは間違いないと強調した。さらに同氏は「中国は労働力資源の状況と失業状況を適時に、真実に基づき統計に反映するため、2005年から7回にわたって労働力調査を行っている。しかし経験の積み上げが足りないことから、更なる統計手法の整備、改善が必要」と政府がすでに労働力調査に着手していることを明らかにし、できるだけ早い時期に正確な調査失業率を導入する意欲を示した。
国内外の一部研究機関は以前から中国の現行の都市部登録失業率に疑問を投げかけてきた。登録を前提とする失業指標は雇用情勢を正確に反映せず、マクロコントロールのための的確なデータが提供されない恐れがある。中国は1970年代末から経済体制改革を開始し、計画経済から市場経済への転換を進めてきた。市場経済への転換がはかられることになってはじめて、「失業人口」が政府の年度統計公報の視野に含まれるようになったのである。現在の失業登録制度は1980年代に始まって現在に至っているが、農村住民は一貫してこの統計には含まれてこなかった。農村部労働者の雇用問題に対応するためにも、市場を的確に反映したデータの構築が望まれるところである。
資料出所
- 海外委託調査員、sina新聞中心(1月20日付)
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