経済危機に対して、労使民政が協調体制へ
―オランダ型「ワークシェアリング」の導入に向けた合意

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2009年3月

政府は従来の労使政に市民団体の代表を加えた「労使民政・非常経済対策会議」を設置し、追加の緊急経済対策を検討していた。同会議は2月23日に、オランダのワッセナー合意をモデルとした、賃金抑制による雇用創出に合意したと発表した。しかし、左派の民主労総(KCTU)が同会議から離脱したため、この合意の先行きには懸念材料も少なくない。

鉄鋼大手などで賃金凍結も

李明博大統領は2008年2月25日の就任から丸1年を迎えた。国民は当初、同大統領が公約に掲げた「大韓民国747」(実質GDP成長率7%、10年後に国民1人当たりの所得4万ドル、世界第7位の経済大国入りを目標)や雇用創出年間50万人に期待を寄せ、初の財界出身大統領の経済再建に向けた手腕に賭けた。しかし、米国に端を発する金融危機などの影響で経済環境は急速に悪化し、その間大幅なウォン安の進展も重なり景気のさらなる低迷につながった。

直近の雇用情勢の数値では、雇用創出件数(就業者数の対前年比)が2008年12月に約5年ぶりに前年比マイナス(1.2万人減)を記録したが、2009年1月も雇用“喪失”が続き、マイナス10.3万人(0.4%減)となった。失業率は同1月3.6%(前年比0.3ポイントの悪化)、失業者数は84.8万人(前年比9.5%増)を示している。金融危機の影響による実体経済の悪化がいよいよ雇用情勢の悪化に拍車をかけたものとみられる。

こうした中で、産業界では経済危機に立ち向かうため、ワークシェアリングの導入や賃金凍結を決める大手企業も出始めている。鉄鋼大手のポスコは2月17日、企業の負担を労使で分かち合うために、経営側は役員報酬の一部を返還し、組合側は2009年の賃上げ要求を凍結することを決めた。賃金交渉に費やす時間を技術開発など企業の競争力を高めることに振り向けるべきとの考えで労使の意見が一致したとされる。また、製造から金融・流通など幅広い業種を手がけるハンファ・グループは民間企業で初めて、役員や企業幹部の報酬削減により新規大卒者の採用増を行う、事実上のワークシェリングを導入することを明らかにした。同グループは、役員年棒の10%カットを原資に年間300人程度の新規雇用を行うとしている。

民主労総、会議から離脱

政府サイドも、すでに「労使民政・非常経済対策会議」(従来の労使政の枠組みに市民団体なども参加)を立ち上げ、経済危機に対する追加の緊急経済対策の立案を急いでいたが、2月23日の同会議において、オランダ型のワークシェリング(ワッセナー合意(注1))を取り入れた、賃金抑制による雇用創出を目指すことで労使政民が合意したと伝えられる。これに基づき、労働側は賃金の凍結や減額などに合意する一方、経営側は雇用維持に努めることを約束する。これに対し、政府は賃金抑制を行った企業に同削減分の損金算入を認めるほか、中小企業振興基金を通じた低利融資も実施する予定である。その他、非正規労働者などの低所得者層向けの対策の充実も図るとしている。

このような労使政の協調体制が構築される中にあるが、この合意から左派の民主労総(KCTU)が離脱したため、同傘下の産別労組「金属労組」は今年も大幅な賃上げを要求してくるという懸念材料は依然残っている。近年の金属労組系の労使紛争の増加には労働部も憂慮しているところであり、紛争件数の増加及びその長期化が低迷する経済情勢に及ぼす影響には引き続き注視していく必要がある。

資料出所

  • 統計庁Web、労働部Web、NNA、毎日経済新聞Web

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