追加景気対策で雇用維持企業を支援
―自動車各社、操業短縮制度の活用へ

カテゴリー:雇用・失業問題非正規雇用労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2009年2月

連邦政府は1月12日、外需の冷え込みや雇用情勢悪化への懸念の広がりを受け、2010年までの2年間に総額500億ユーロ規模を投じる追加景気対策を行うことで合意した。公共投資や減税、雇用維持企業への支援などが柱で、2月半ばまでの国会通過、7月からの実施を目指す。昨年11月に決めた500億ユーロ規模の財政出動と合わると、欧州諸国で最大規模の財政出動となる。雇用対策では操業短縮制度により従業員の雇用を維持した企業に対し、社会保険料負担の半減を盛り込んだ。追加景気対策が決まった翌週から、主に自動車大手各社などが、制度導入の考えを相次いで公表している。

制度導入企業の社会保険料負担半減

今回の追加景気対策で連邦政府は、操業短縮制度の導入により従業員の解雇を避け、雇用を維持する場合、使用者側の社会保険料負担を半減する方向を示した。同制度の活用を希望する企業は、雇用庁に申請を行い、同庁の審査を経て認可を受ける(注1)。申請条件は、(1)給与支払停止を伴う大幅な操業停止(具体的には、経済的かつ不可避な事由に基づく一時的なもので、当該操業停止により全正規従業員の少なくとも3分の1の月収(税控除前)が10%以上減る場合)(2)正規従業員1名以上の事業所(制度の適用は事業所内の一部局のみを対象とすることも可能)(3)社会保険料負担を伴う雇用の継続(4)労働協約、事業所協定あるいは個別雇用契約における労使合意(加えて従業員代表委員会がある企業では、その同意)――である。同制度を導入すると、操業短縮時間分の賃金支給は必要だが、社会保険料負担は半分に軽減される。これと並行して政府は、短時間勤務の対象となった労働者、いかなる資格も持たない若年労働者、ならびに長期にわたって養成訓練機会を探していた若年者に対する教育・訓練支援に対し、2009年~2010年の時限措置で約20億ユーロを追加注入し、再教育・継続訓練を拡充するほか、雇用庁に5000人の増員措置を講じる。

11月に公表された景気対策では、今年1月から1年間の時限措置として、操業短縮の対象となった労働者の賃金減額に対する給付を6カ月から18カ月間に拡大する措置を盛り込んでいた。当該労働者は時短分の賃金が減額するが、従前の賃金水準の60%(扶養児童がいる場合は67%)を政府が給付する。給付期間中に追加訓練する措置も講じている。

派遣会社には厳格な制度適用要件

同制度の活用は原則として正社員を対象とし、僅少労働者、派遣労働者、副業従事者、年金・疾病・失業給付受給者、雇用庁が実施する全日継続教育プログラム参加者を対象外としている。だが、派遣労働者比率が高い自動車産業の操業短縮の影響で、とりわけ同産業への人材派遣を専門にする派遣業者への打撃が大きいため、政府は11月05日、行政通達により例外的に派遣業者が制度活用の申請を認める要件を示している。具体的には、派遣元企業が、(1)派遣契約で定められた派遣先での就業が減産や受注制限により終了している(2)当面の間同分野での受注もその他の分野での人材派遣需要も期待できず、当該派遣労働者が「緊急の経営上の必要性に基づく正当な解雇」(解雇制限法第1条)の対象となる可能性がある(3)派遣元企業が当該派遣労働者の雇用を継続する――を証明すれば、申請が認められる。

活用企業、相次ぐ

追加景気対策が決まった翌週には早くも、自動車産業を中心に操業短縮制度の活用を公表する企業が相次いでいる。フォルクスワーゲン社では4工場の従業員2万6000人が、BMW社では国内工場の従業員6万1000人が対象となる見通しだ。自動車部品メーカー大手のボッシュ社も、従業員9000人の操業短縮を公表した。ダイムラー社では昨年から操業を一時停止していたシュトゥットガルト工場およびシンデルフィンゲン工場での生産を1月12日に再開し、これと同時に従業員約3万人を対象に操業短縮制度を導入した。同社は、このほか6工場にも同制度の活用を拡大する方向だ。GM子会社のオペル社も、制度導入の方針で労組側との協議を進めている。このほか、トラックメーカーのマン社、鉄鋼大手のテュッセン・クルップ社、バイエルスドルフ社、ヴェッカー社も操業短縮時間制を活用する方針を示している。

操業短縮時間制を導入する事業所には、その旨公告することが義務付けられている。この公告をもとに雇用庁が1月29日に公表した資料によれば、時短給付対象労働者数は、昨年12月に40万4000人(このうち、景気悪化を理由とする給付対象労働者数は29万5000人)で、前月比で24万人増(同15万8000人増)、前年比では30万2000人増(同28万6000人増)だった。雇用庁は、今後数カ月、時短勤務の対象となる労働者数が一層増加するとの予測を示している。なお、雇用庁が同日明らかにした失業指標によれば、1月の失業者数は348万9000人(前月比38万7000人増)で、失業率は前月比で0.9ポイント上昇し、8.3%となった。

減税、健康保険料引き下げなど消費刺激策も

今回の追加景気対策はさらに、総額180億ユーロの公共投資・研究開発や消費刺激策も盛り込んでいる。公共投資は主に、保育所、学校、病院、道路、鉄道、ブロードバンド網などの整備に向ける。研究開発については、中小企業の環境・エネルギー分野や環境配慮型自動車技術開発への助成を拡充する。他方、消費刺激策の柱は、約90億ユーロ規模の減税だ。所得税の最低税率を15%から14%に引き下げ、基礎控除額は09年、10年に各々170ユーロ引き上げる(09年:7834ユーロ、10年:8004ユーロ)。また、子供のいる世帯を対象に子供一人当たり100ユーロの特別一時金を支給するほか、09年7月から子供のいる失業給付II受給者に対する児童手当を増額する。さらに、健康保険料率(労使折半)の引き下げ(15.1%→14.9%)や環境配慮型の新車買い替えに対する2500ユーロの支給(09年末まで)も掲げている。

資料出所

  • 連邦政府発表資料、Deutsche Well、Earth Times、Bayerischer Rundfunk各紙、委託調査員月次報告。

参考レート

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