長期失業者を雇用した企業に助成など
―政府、景気・雇用対策の具体策発表

カテゴリー:雇用・失業問題人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2009年2月

政府は、年末に示した景気・雇用対策の枠組みをベースに、具体策を打ち出し始めた。1月に発表した雇用対策は、失業期間が6カ月を超える失業者を雇用した企業に対する労働者一人あたり2500ポンドを上限とする助成金の支給と、10万人の雇用創出を目指す公共投資が柱。さらに、政府が近年力を入れている徒弟制度の一層の充実や、中小企業や自動車産業向けの資金調達支援策などで、景気後退と雇用状況の悪化に歯止めをかけたい意向だ。

9~11月期、解雇者数22万5000人

統計局が発表した第4四半期のGDPの速報値は、対前期比でマイナス1.5%と前期に続き縮小、特に製造業は4.6%減と厳しく落ち込んでいるほか、流通・宿泊・飲食店業でも2.4%減など、農林水産業を除く全ての産業部門でマイナスとなった。前後して発表された9~11月期の雇用関連統計では、失業率が6.1%(対前期比0.4ポイント増)とほぼ10年ぶりに高い水準に達したほか、失業者数が192万3000人で前期から13万1000人増加し、また08年初めから加速的に増加している解雇者数も、95年の調査開始以降で最高の22万5000人(対前期比7万8000人増)となった。雇用者数は前期から2万6000人減少している。うち、男性はフルタイム労働者が2万人減、パートタイム労働者が2000人増加した。一方、女性フルタイム労働者は5万1000人減、パートタイム労働者は4万3000人増と増減の幅が大きく、女性フルタイム労働者の減少が目立つ。

年明け以降も、企業による大規模な人員削減計画の発表が相次いでいる。倒産により小売大手ウールワースの2万7000人の従業員が職を失ったほか、1000人以上規模の削減計画だけでも、バークレイズ銀行の4600人、鉄鋼業のコーラスの2500人、メリルリンチの1900人、日産の1200人、小売大手のマークス・アンド・スペンサーの1200人などが、現地メディアで報じられている。このほか、数百人規模の削減計画も、製造業や小売業などを中心に多数にのぼる。さらに今後は、企業が新規採用を抑制することによる若年層の雇用状況の悪化が予想されている。また、徒弟制度(apprenticeship)により訓練生として就業している若者が、訓練期間の途中で解雇されるケースが建設業などで多数生じているという。

一方で、小売業を中心に大幅な増員計画を打ち出す企業も出てきており、テスコの10000人、アズダの7000人、セインズベリの5000人、モリソンズの5000人、ウェイトローズの4000人など、いずれも新規店舗の開設や店舗拡張が理由だ。うち、アズダは3000人を長期失業者から雇用するとの方針を明らかにしている。

公共事業実施で10万人の雇用創出

政府は、昨年末に予算編成方針(Pre-Budget Report)で示した景気・雇用対策の枠組みをベースに、施策の具体化の作業を進めている。年明けに発表した雇用対策の柱の一つは、長期失業者を雇用した企業に対する助成金の支給だ。失業期間が6カ月を超える失業者を企業が雇用する場合、対象となる失業者の就業に対する困難の度合いに応じて、一人あたり2500ポンドを上限とする助成金("golden hello")を支給するほか、起業を希望する失業者に対する訓練費用の支給などと併せて、4月から2年間で5億ポンドの予算を投じる。

もう一つの柱は、10万人の雇用創出を目指す公共事業の実施だ。2年間で100億ポンドを充てて、学校や病院の修復、鉄道網の拡張、ITネットワークの整備などを実施する計画で、環境対策に向けた代替エネルギー開発のための投資なども含まれる。

このほか、政府が近年力を入れている徒弟制度の一層の拡充も発表されている。1億4000万ポンドをかけて3万5000人分の徒弟制度の受け入れ枠を拡大する計画で、うち2万人分を公共部門で賄う。徒弟制度に関する政府の来年度予算は10億ポンド近くにのぼり、今回の拡充案が実施されれば、来年度には全体で25万人以上の徒弟労働者が訓練を開始することになる。

さらに内務省は、EU域外からの外国人労働者の雇用に関する制度の厳格化により、国内の労働者に対する職業紹介を強化する方針を示している。現行制度は、専門技術者のEU域外からの募集に際しては、原則として国内・域内向けの4週間の求人活動を義務化しており、うち2週間を募集期間に充てるべきことを定めている。しかし実態としては、イギリス国内の求職者の目に触れにくい業界誌に求人広告を出すことで、実質的には国内労働者の採用を回避して廉価な外国人労働者を雇い入れようとするケースが、看護師や建設現場労働者などの採用でみられるという。内務省はこういったケースに対応するため、ジョブセンター・プラスを通じた募集を2週間実施することを雇用主に義務付けるとしている。

一方、景気対策としては、年末の付加価値税率の引き下げ、年明けの史上最低水準となる1.5%への利下げに続き、企業の資金調達に関する支援プランを打ち出している。これには、最大200億ポンドまでの銀行の中小企業向け融資に対する政府保証のほか、自動車産業への23億ポンドまでの融資保証(高度な技術開発や低炭素化対応などの投資に限定)などが含まれる。

再就職・再訓練を柱の対策に大方は評価

政府は一連の施策について、前保守党政権との姿勢の違いをアピールしている。前政権は80年代の景気低迷の時期に、衰退産業から解雇された労働者を失業隠しの目的で就労不能給付(健康上の理由などから、就業が困難な人々に対する給付制度)の受給者にしてしまい、結果として彼らが労働市場に戻るのを妨げたが、今回の不況への政府の対応は、失業者の速やかな再就職や再訓練を通じて国内の50万人分の求人の充足に効果的に結び付けようとするもの、というのが政府の主張だ。

失業者を福祉制度に長期間留めることを回避しようとする政府の方針について、有識者の間では賛同の声が多いという。政府が重点を置く「失業から6カ月」という時期が、就業意欲の喪失や健康面の問題などから失業者の再就業を困難にし始める時期といわれていることもその理由の一つだ。

また、人事労務に関する専門組織である人事開発協会(CIPD)も、雇用や教育訓練に対する公的な助成、公共事業の拡大を通じた雇用創出などの必要性を認めており、民間部門が低調な時期には、公共部門の活性化を通じて民間部門を刺激する必要があるとコメントしている。CIPDは会員企業に対して、人員削減のコストは解雇手当の支払いばかりでなく、将来的に雇う労働者の訓練や残留した従業員の士気の低下によって生産性を押し下げるなど高額になり得るため、回避するよう呼びかけているという。

イギリス労働組合会議(TUC)も、一連の施策に賛意を示している。ただし、政府との間で合意があったとする解雇手当の法定額の引き上げに関して、実現が遅れていることに不満を表明しており、引き続きこれを要請しているほか、解雇により失業した人々には、速やかに訓練や職業紹介などの支援を行うべきであるとしている。加えて、政府が雇用対策と並行して準備を進めている福祉制度改革(各種給付制度の受給者のほとんどに、求職活動や職業訓練など就業に関連する活動への参加を義務化するなど、制度を厳格化)については、不況により毎週数千人が職を失っている中で、受給条件を厳しくすることは良い結果を生まない、と強く批判している。

一方、野党や企業の間には、厳しい批判もある。例えばイギリス商工会議所(BCC)は、長期失業者の雇用に対する助成は、採用を予定していない企業に対するものとしては少額すぎるとしている。また野党からは、そもそも助成がなくとも就職していたはずの労働者の雇用に対する無駄な支出になり得るとの声もある。同様に、公共投資を通じた10万人の雇用創出についても、1カ月で失われる程度の雇用にしか相当しないとの指摘や、提供される仕事が継続的で良質なものになり得ないこと、さらには公共事業の委託先が入札を通じて決定される結果、外国企業や外国人労働者に仕事が流出しかねない、といった批判もある。経営者団体のイギリス産業連盟(CBI)は、失業状態にある人々への対策も重要だが、むしろ失業者の増加を防ぐ施策が必要であると述べ、そのためには企業の資金調達の支援や企業の負債に関する政府保証などの策に注力し、金融市場が再び機能するよう努めるべきであるとコメントしている。

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