欧州議会、オプトアウトの廃止へ
―労働時間指令改正案を可決

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  • 国別労働トピック:2009年1月

欧州議会は12月、労働時間指令改正案を可決した。先に各国政府が合意した改正案に対して、焦点となっていた週48労働時間の上限に関するオプトアウト(適用除外)の廃止や、職場外での待機労働時間などを労働時間とみなすなどの規制強化を修正案として盛り込んでいる。指令案の成立には理事会の合意が必要となるが、これまでオプトアウトの維持を強く求めてきたイギリスなどの間で反発が必至とみられ、成立が危ぶまれている。

各国政府による妥協案を修正

オプトアウトとは、週労働時間の上限である48時間を超えて働くことを、雇用主と雇用者の合意によって認めることを指す。労働時間指令改正案は、2004年の欧州委員会による原案公表から4年にわたり議論が膠着状態に陥っていた。焦点となったのは、オプトアウトの是非で、イギリス政府がその存続を強く主張していた。並行して議論が進められていた派遣労働指令案にやはり一貫して反対していたイギリスは、派遣労働指令案への協力と引き換えに、オプトアウト維持に関する合意を加盟各国から取り付けたといわれる。結果として、派遣労働指令は9月の欧州理事会(EU首脳会議)、10月の欧州議会で相次いで可決され、6年越しの協議を経て成立に至った(当機構ウェブサイト2008年11月の記事参照)。

一方、同じく欧州理事会で合意され、欧州議会での採択に委ねられることとなった労働時間指令改正案に関しては、欧州議会は当初からオプトアウトの維持に強い反対の姿勢を示していた。指令案の検討にあたった議会の雇用・社会問題委員会は、理事会案に対してオプトアウトに関する条項を削除する修正案をもって応じた。また併せて、欧州司法裁判所の2003年の判決をうけて、制度改正が必要となっていた待機労働の扱いについても、「不活動的労働時間」(inactive on-call time―職場外で呼び出しを受けるために待機している時間)を労働時間とみなすかどうかを各国の裁量に委ねるとした理事会案に対して、これを明確に労働時間と位置付けたうえで、労使間の合意などにより除外することを認める修正を盛り込んだ。欧州議会は、委員会の修正案を421対273の大差で可決した。

理事会の合意、難航の可能性

議会での可決をうけて、指令案は議会と理事会の代表で構成される調停委員会(conciliation committee)での合意プロセスに委ねられる形となった。委員会で理事会の合意を得て指令案が成立すれば、加盟各国は3年以内に法改正などを行わなければならない。しかし、理事会が合意する可能性については、悲観的な見方が強い。

2005年の原案の改定でオプトアウト廃止を盛り込んだ欧州委員会は、欧州議会はオプトアウト利用国がここ数年で15カ国(注1)に拡大していることに留意すべきであるとして、当初の立場に固執するよりも、喫緊の課題である待機労働に関する規定などの早期改正をはかるべきではないかとの疑義を投げかけている。これに対して、雇用・社会問題委員会で議会修正案をまとめたセルカス議員は、「欧州委員会は、理事会の支持に回るのをやめて、仲介者としての役割を果たすべきだ」と批判的だ。

EUレベルの労働組合であるETUCは、「ソーシャル・ヨーロッパが健在であることを示した」として、前後して可決された派遣労働指令案、欧州協議会指令改定案とならぶ成果と称賛している。一方、使用者側のビジネスヨーロッパは、オプトアウトは企業にとって需要の変化に対応するための重要なツールであるとともに、労働者にとっても自らの労働時間を調整してより高い収入を得るための自由を与えるものであるとして、議会は長年の議論を経て成立を目前にした指令案を廃案の危機にさらしている、と批判している。待機時間の扱いを厳格化することについても、医療関連の公的サービスの劣化を招くとの警告を発している。

また、オプトアウト維持を国内の使用者側に約束して、派遣労働指令に関する妥協を引き出したとみられるイギリス政府も、欧州議会の修正案可決に強い失望を表している。マクファデン雇用担当大臣は、景気の低迷の影響から、むしろ追加的な労働による収入の増加を求める労働者の自由を奪うオプトアウト廃止は「誤り」だとしている。使用者団体のCBIも「多くの人々は、キャリアや金銭面あるいは会社の困難な状況を支援したいといった理由から、より長く働きたいと考えている。彼らが選択するなら、より長く働くことができるようにすべきだ」として、6月の担当相理事会での合意の尊重を求めている。

一方、イギリス労働組合会議(TUC)は、議会の修正案に賛辞を送っており、「長時間労働によって温存されてきた低賃金や低生産性の改善に取り組まなければならない」としている。

参考

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