派遣労働指令が成立、労働時間指令改正案は協議が難航

カテゴリー:非正規雇用労働法・働くルール労働条件・就業環境

EUの記事一覧

  • 国別労働トピック:2008年11月

欧州議会は10月下旬、派遣労働者と正規労働者の間の均等待遇などを定めた派遣労働指令案を可決し、指令は6年に及ぶ協議を経て成立に至った。加盟各国は、今後3年間で国内法制化を完了しなければならない。一方、併せて協議が進められていた労働時間指令の改正案については、待機時間の扱いなどでより強力な規制を求める欧州議会の反対で、議論が難航している。

欧州議会、指令の早期成立を優先

派遣労働指令は、欧州委員会が2002年に原案を提出して以降、イギリスの強い反対により協議が頓挫していたが、今年5月にイギリス政府が国内の労使に働きかけて合意を取り付けたことにより、EUレベルの協議が進展した。イギリスは、ここ数年問題となっていた労働時間指令に関するオプトアウトの維持と引き換えに、派遣労働指令の成立に協力する旨、6月の雇用・社会政策相理事会で取引を行ったといわれる。理事会は、派遣労働者に対する権利付与の時期を各国の労使協定等に委ねることなど、イギリスに配慮した修正を指令案に盛り込んで合意し、指令成立は欧州議会にゆだねられた(当機構ウェブサイト2008年7月の記事参照)。

欧州議会は10月、理事会案を無修正で可決し、指令は成立に至った。指令案の検討にあたった議会の雇用・社会問題委員会が、速やかな指令成立を目指すべきだと議会に提言したことによる。同委員会はその理由として、派遣労働者は各国で増加傾向にあるが、加盟各国の派遣労働法制のばらつきが大きいこと、他の労働者に比べて劣悪な賃金や労働条件であることが多いことなどを挙げている。

派遣労働指令は、労働時間、時間外労働、休憩・休息、夜間勤務、休暇・祝日、給与(pay)を均等処遇の範囲として規定する。加えて、出産・育児休暇の取得、正規従業員の求人に関する情報、社内食堂などの共用施設の利用、教育訓練の機会などについても、正規従業員と同等の権利を保証している。ただし、例えば企業年金や法定水準を上回る傷病手当、あるいは持ち株制などを含むかどうかなど、均等処遇を必要とする給与の範囲については各国の法制・労使協定等に任ねられる。同様に、指令は派遣労働者に対して就業初日から均等取扱いの権利を付与することを基本としつつ、「派遣労働者に十分な水準の保護が提供される限りにおいて」、各国の法制や労使協定により一定の猶予期間を設けることを認めている(法制・労使協定 には、当該の期間を明示しなければならない)。

なお指令は、雇用創出や柔軟な働き方の促進という観点から、加盟各国の労働者派遣業に対する規制は、派遣労働者の保護という目的に照らして妥当なものに限定すべきだとの立場を明示している。このため、3年を目途に、労使との協議を通じて規制内容の見直し作業を実施することを各国に求めている。

欧州議会での採決に先んじて行われた討論では、複数のイギリスからの議員が指令に反対する立場を示した。経験の浅い労働者に同じ賃金を支払うことは従業員の士気を低める可能性があり、また競争力の低下を招きかねないことから、雇用状況が悪化している今、指令を成立させるべきではない――などがその主張だ。

労働時間指令改正案には大幅な修正要求

一方、イギリスが派遣指令への協力と引き換えに維持できると見込んでいた労働時間指令に関するオプトアウトは、雲行きが怪しい状況にある。理事会の合意した労働時間指令改正案に対して、左派議員を中心に、欧州議会が冷淡な態度を示しているためだ。

雇用・社会問題委員会の委員が10月はじめ、理事会の改正案に関する検討結果として委員会に提出した報告は、労働者保護を強く打ち出した修正を求めている。その一つは、イギリスが主張する労働時間の上限に関するオプトアウト(適用除外)の廃止で、欧州議会は以前からこれを強く求めていた。もう一つは、併せて争点になっていた呼び出し労働(on-call work)における「不活動的待機時間」(inactive on-call time―例えば、職場外で携帯などによる呼び出しを受ける可能性がある待機時間)の扱いに関するもので、加盟国ごとの裁量を認める理事会案に対して、欧州裁判所の判決に沿ってこれを一律に労働時間とみなすべきだとの修正を提案している(当機構ウェブサイト2008年7月の記事参照)。

委員会は、理事会案と真っ向から対立するこの修正案に各国政府の理解を取りつける必要があると判断し、委員会案の確定を一端延期したものの、11月はじめにはこれを最終案として議会に諮ることを決めた。欧州議会の採決は12月半ばに予定されているが、修正案は可決される見通しが強い。現在、議会と欧州理事会の間では非公式に協議が進められているとみられるが、議会の採決に先立って合意が成立しない場合、労働時間指令の改正は来年に予定される欧州議会選挙以降に先送りされる可能性もあるという。

イギリス政府は、断固としてオプトアウトを守る姿勢だ。ビジネス・企業・規制改革省のマンデルソン大臣は、「オプトアウトを失えば、食料やエネルギーが高騰する中で、労働者が所得を引き上げる可能性を失う。また、金融危機によって企業が苦境に直面している時に、労働市場にさらなる硬直性を持ち込めば、米国の需要低迷から欧州に関心を向けている中国やインドに仕事を奪われるリスクを冒すことになる」と述べている。また経営者団体のCBIも、長時間働きたいと考える労働者の選択の幅を狭め、所得を減少させるとともに、企業が需要の変動に効果的に対応する妨げとなるとして、議会は6月の理事会合意に沿って議論すべきだと主張している。

一方、TUC(英国労働組合会議)は、委員会の決定を歓迎している。イギリスの長時間労働の傾向は、労働者の身体的・精神的健康に悪影響を及ぼしており、長時間労働している労働者の多くは本来、家庭生活とのより良いバランスを望んでいる、と述べている。

参考資料

2008年11月 EUの記事一覧

関連情報