連邦政府、外国人専門職の受け入れ制限を緩和
連邦内閣は7月16日、専門職不足に対処するため、高技能・高学歴労働者の受け入れ制限を緩和する行動計画を閣議決定した。計画は、EU新規加盟国出身の大卒専門職への労働市場の完全自由化や、就労許可を得るための最低年収制限の引き下げ、EU域外国からの大卒専門職の受け入れ制限緩和――などを盛り込んでいる。マリア・ベーマー統合担当相は、「専門労働力の移住を円滑化し、海外の資格認証を弾力化することは、経済発展や社会的統合プロセスの促進の鍵だ」などと述べ、行動計画を積極的に支持する姿勢を示した。
EU加盟国出身者に労働市場を完全開放、域外出身者の年収制限引き下げ
今回の行動計画が示した規制緩和の方針は、以下の5点に集約できる。第1に、2004年以降にEUに加盟した各国の大卒専門職については、これまで実施していた国内求職者の優先審査を廃止し、労働市場を完全自由化する。第2に、最低年収制限を上回る稼得収入があるEU域外国出身の大卒専門職については、同水準の年収を保障する雇用がドイツ国内で確保できれば就労できる。第3に、稼得収入が最低年収制限を下回るEU域外国出身の大卒専門職については、当該職種の標準的稼得収入があれば就労可能だが、国内求職者の優先審査を実施する。第4に、高資格人材の獲得で他国との競争を優位に進めるために、大卒専門職の就労許可条件としている最低年収額を8万6400ユーロから6万3600ユーロに引き下げる。第5に、海外にあるドイツ系の大学などの卒業者の職業訓練および雇用についてはドイツ人と同じ扱いとし、制限を課さない。第5に、EU新加盟の中欧・東欧8カ国(マルタ、キプロスを除く)および2007年加盟のブルガリア、ルーマニア出身の単純労働者受け入れ制限に関する経過措置を延長する――。なお、行動計画は2009年1月1日から実施する。
これと併せ政府は、専門労働力のニーズへの対応策として、(1)国内労働力の職業訓練の強化、(2)女性及および中高年の就業率の向上、(3)移民の背景をもち、既にドイツに在住している人々の技能向上――を積極化する方向。さらに、高技能労働力の実態や中長期的な需要をより正確に把握する目的で、専門労働力市場に関する調査も実施する予定だ。
なお、単純労働者の受け入れ制限は、2004年にEUに新規加盟した中欧・東欧8カ国(ポーランド、チェコ共和国、スロヴァキア、スロヴェニア、ハンガリー、エストニア、ラトヴィア、リトアニア)については2011年4月30日まで延長。また2007年加盟国(ブルガリア、ルーマニア)については、受け入れ制限の失効は2012年となる。
深刻な技術者不足が背景に
今回の行動計画の背景には、深刻化する技術者不足の現状がある。連邦雇用エージェンシー統計を活用したケルン経済研究所(IW)の推計では、適格な応募者不足により空席補充ができないエンジニアポストが現在7万5000~9万5000ポストに及んでおり、前年比で30%以上増加している。また、ZEW研究所の推計は、2014年までにエンジニア不足が16万人に及ぶと推計。ドイツ経済研究所(DIW)の予測では、2020年までに最大で27万人の専門職不足が生じるとされている。企業レベルの取り組みをみても、早い段階で学生と交渉機会を持ち、インターンシップや奨学金の提供により人材確保を図ったり、従来は職業経験を必要としたポストに「テクニカルオフィサー」として若手を採用するといった努力が重ねられている状況だ。
産業界はこれまで、技術者やコンピュータープログラマーなど高技能労働者の慢性的な不足を再三にわたって訴えてきた。今回の政府のイニシアチブも歓迎はしたものの、依然として消極的な緩和に過ぎず、優秀な人材の定住を促すにはまだまだハードルが高いとの認識が強い。
もっとも、技術者不足は移民の受け入れのみで解決できるわけではない。ドイツ人学生の技術・工学への関心の低下も解消すべき要因のひとつだ。また、かなりの女性技術者が技術者以外へ転職している状況や、技術者初任給が2001年以降低下傾向にあることを指摘し、賃金その他の労働条件の改善を求める声もある。技術立国として知られるドイツが、激化する人材獲得競争にいかなる打開策を見出していくのか注目される。
資料出所
- 連邦政府発表資料(2008年7月16日)
- Spiegel Online(2008年7月8日)
- Deutsche Well(2008年7月16日)
- FT.com(2008年7月14日)
- Bloomberg.com(2008年7月16日)
参考レート
- 1ユーロ(EUR)=168.91円(※みずほ銀行ウェブサイト2008年8月7日現在)
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