高齢者パート就労促進制度をめぐり連立政権内で対立
―社民党の延長案に反発、首相は拒否強調

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  • 国別労働トピック:2008年8月

2009年末に期限切れとなる「高齢者パート就労促進制度」の扱いをめぐって、連立与党間の対立が加熱している。同制度は、高齢者の就業促進を目的とし、高齢者をパートとして雇用した事業主に対し、政府が助成金を支給するという仕組み。社会民主党(SPD)はこのほど、この制度の延長案を提案した。これに対し、連立政権を構成するキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は猛反発し、政権内の軋みが目立っている。財政負担が大きいうえ、この制度が政策目的に反して、労働者の早期退職に活用されているという実態が目につくためだ。同国で最強の金属産業労組(IGメタル)もこの制度を活用している。CDU党首のメルケル首相は、「事実上の早期退職インセンティブの延長は認められない」とSPDの提案を拒否している。

パート雇用の事業主に助成金

高齢者パート就労促進制度は1989年1月に導入された。高齢者の就業率を高めるのが目的で、フルタイムではなくパートという就労形態で、年金生活へ段階的に移行させるのを目的としている。また、高齢者がフルタイム就労から退くことで空いたポストに失業者や養成訓練生を受け入れ、新たな雇用を創出するのも狙いの一つとしている。

同制度では、事業主が次の措置を講じた場合に、連邦雇用庁が当該事業主に助成金を支給する仕組みとなっている。(1)事業主が雇用する満55歳以上の労働者の労働時間を半分に短縮してパート就労に移行させる、(2)空いたポストに失業者・職業訓練生を雇用する、(3)新たなパート就労者は労働時間の半減に伴い賃金も従来の半分の額となるが、事業主はその額に20%加算した額を新たな賃金水準とする、(4)半減した賃金の19.9%を「社会保険料」として労使折半で負担するのに加え、賃金加算分の80%に対する19.9%を「特別年金保険料」として新たに事業主のみが負担する――。

上記の事業主に対し、連邦雇用庁は賃金の20%加算分と「特別年金保険料」を助成する。労働者は加算賃金分に対する所得税と「社会保険料」が免除される。55歳から65歳までが制度を活用できる年齢で、助成金の支給上限期間は6年間。また、対象となる労働者は、高齢者パート就労開始前の過去5年間に、少なくとも3年間失業保険を含む社会保険料を納付していた者に限られる。なお、制度は当初、フルタイム労働者のみを対象としたものとしてスタートしたが、女性に対する間接差別を避けるため、2000年にパートタイム労働者も対象とする方向で改正されている。

目立つ早期引退に活用の実態

しかし、制度の運用実態は当初の政策意図に必ずしも沿うものとはなっていないようだ。例えば、57歳の労働者が63歳までの6年間の高齢者パート就労促進契約を事業主と結んだ場合に、60歳までの3年間をフルタイム就労とし、残りの3年間を有給休暇とし、ならしてパート就労とすることも可能で、労働協約によってこうした形態を採用する企業が大半を占めた。前半と後半をはっきり分けるこの「ブロックモデル」は事実上の早期引退につながり、制度の想定した「継続的パート就労モデル」とは違った性格を帯びることになった。

連邦雇用庁が助成した高齢者パート就労促進制度活用者数をみると、2000年時点で約3万3000人程度に過ぎなかったものが、2003年には約8万人、2005年には約9万人と着実に増加。2007年には10万4350人に達し、助成総額は約14億ユーロに及んだ。さらなる増加が見込まれる2008年には、15億ユーロの予算が計上されている。

SPD、2015年まで延長提案

今回のSPD案は、2009年末で期限切れとなる現行制度を、申請可能年齢を55歳から57歳に引き上げたうえで、2015年まで延長するというもの。また、これと並行して、2010年から部分年金(満額年金の3分の1、2分の1、3分の2の3種類)の支給開始年齢を現行の63歳から60歳に引き下げるとともに、副収入の上限額(現行制度では400ユーロ)を廃止する方向だ(注1)。SPDはその理由として、(1)制度導入により1998年時点で37.7%であった高齢者の就業率が2007年第4四半期には52.5%にまで上昇し、政策目的を達成している、(2)2012年から満額年金支給開始年齢が65歳から67歳に引き上げられるため、それ以前に就労の継続が困難である労働者への配慮が必要である、(3)助成金を受けているのは高齢者パート就労全体の3分の1に過ぎず、事業者側にもメリットがある (注2) ――などを挙げている。

メルケル首相、SPD案を断固拒否

SPDは、延長案を踏まえ、連立パートナーであるキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)に対し今国会会期中に必要な立法措置をとるよう求めていた。だが、財政負担の大きい同制度の継続を目指すSPD案は、猛烈な批判を浴びる展開となった。ポーファラCDU幹事長は「非効率かつ極めて高コストな制度だ――僅か10万人に14億ユーロを支出している。我々はもっと柔軟な労働協約による解決を求める」と主張。フーバーCSU党首も、「連立協定で、早期退職に歯止めをかけると決めたはずだ」などと反発している。また、野党FDP(自由民主党)のニーヴェル幹事長も、「SPDモデルでは、助成金給付を長期化させるだけ。高齢者の早期退職を促し、専門労働者不足が悪化する」と述べ、被保険者の受給額と支給開始時期の関連性を検討した上で、60歳以降、受給開始時期を自己決定できる独自モデルを代替案として提示した。ただし、労働者の間ではこの制度の延長を望む声が大きいため、ユニオン側のCDU労働者側代表グループはあからさまに反対はできず、SPD構想に一部理解を示している。

とどめを刺したのはメルケル首相(CDU党首)だ。「SPD案は、CDU/CSUには受け入れ難い。連立協約で同法の期限を定められている。早期退職や高齢者パート就労を助成するインセンティブはもはや存在しない」などと述べ、SPD案を断固拒否する意向を明らかにした。

金属産業では、パート労働者の賃金に34%加算する労働協約を締結している(20%を連邦雇用庁が助成、残り14%を事業主が負担)。IGメタルはこの協約の継続を求めているが、経営側は難色を示し、6月末に交渉が決裂した。同労組は要求デモを開始し、今秋の賃金交渉の時期までに経営側が歩み寄りの姿勢を見せなければストを辞さないとの態度を示している。

SPDは党決議まで踏み込んだ以上、様々な手段を講じて実現まで持ち込みたい意向だ。連立政権内では、このところ最低賃金関連法が労働問題の最大課題だった。最賃論争の陰に隠れていた高齢者パート就労制度の問題が、今後大きく取り上げられるだろう。

参考

  • 委託調査員報告
  • 厚生労働省(2007)『海外情勢報告』
  • Focus Online(2008年6月8日)
  • Welt Online, (2008年6月8日、6月30日)
  • FR-Online(2008年6月30日)

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