CNEが廃止へ、ILO決定が影響か
―労働市場改革法案が閣議決定

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  • 国別労働トピック:2008年4月

労働市場の改革法案が3月26日、閣議可決した。従業上の地位によって異なっていた試用期間の統一、特定プロジェクト向けのCDD(期限の定めのある雇用契約)の新設などが盛り込まれている。これらは、政府決定に先立つ労使協議で合意された内容。このほかに、法案では2005年に導入されたCNE(従業員20人以下の企業を対象に、2年間の試用期間中に従業員を解雇できる雇用契約)の廃止を打ち出した。政府はCNEについて、「雇用に柔軟性を持たせることができ、新たな雇用を創出できる」と強調してきたが、ILO(国際労働機関)は「2年もの長期の試用期間はILO条約(注1)に反する」との決定を下していた。今回の政府の決定はこのILO決定が影響したとみられている。急浮上したCNEの廃止に、労使とも驚きの表情を隠していないという。

長期化した労使交渉

労使対話の優先路線を強調するサルコジ大統領は、労働市場改革に関する法案作成に先立ち、労使による交渉を指示。労使は、労働契約や解雇法制、雇用にかかわる公共サービスなどに関して、2007年9月から交渉を続けてきた。労使交渉の最重要テーマとなったのは労働契約改革。複雑な雇用契約の存在が、フランスの労働市場の硬直化を招いているとするサルコジ大統領は、常に労働契約改革の必要性を主張してきた。企業に対しては解雇規制を緩和するとともに、従業員の失業期間中の生活を保障するという内容の労働契約の導入に積極的で、これは北欧諸国で実践されている「フレキシキュリティ(flexsecurite)」の原則に則った考えであると政府は説明している。

使用者側は、労働契約改革の具体案として試用期間の延長を主張した。企業のニーズに応えるために、労働契約にかかわる規則の緩和・簡素化を求める使用者側は、「十分な長さをもつ一貫性のある試用期間」が必要とし、従業上の地位により異なる試用期間を半年から1年くらいにするとした。この期間はCNEの試用期間の2年よりは短いが、現在の実態よりも長い。これに対し労組側は、「使用者側にだけ有利な提案」だと猛反発した。

試用期間の延長のほかに、使用者側が「ある特定の目的の実現のために結ばれるCDI(期間の定めのない雇用契約)の導入」も提案した。この雇用契約は、建設業の工事請負契約と同じように、特定プロジェクトの完了をもって解消する。あらかじめ期限を設けないためにCDIの形をとるが、解雇は容易になる。そのため、この案にはCFTC(フランス・キリスト教労働者同盟)が、「労働者にさらなる不安定性を強いる契約」と強く反発した。

労使交渉は、サルコジ大統領が当初予定していた3カ月の期限を過ぎても、合意に達しなかった。そこで政府は最終的な期日を設定。労使がこの期日までに合意に達しなかった場合には、サルコジ大統領が独自案をもって交渉に介入することとした。

その期日である1月15日、3使用者団体MEDEF(フランス企業運動)、UPA(手工業者連盟)、CGPME(中小企業経営者総連盟)と、4労組CFDT(フランス民主労働同盟)、CGT-FO(フランス労働総同盟・労働者の力)、CFTC(フランス・キリスト教労働者同盟)、CFE-CGC(管理職組合総同盟)が、一定の合意に達した。なお、最大労組のCGT(フランス労働総同盟)は、合意内容が使用者寄りであるとして署名を拒否した。

試用期間の上限整備などで労使合意

労使の合意案は、主に(1)労使合意の契約解消の導入、(2)試用期間の上限の法整備、(3)特定プロジェクトのCDD(期間の定めのある雇用契約)の3つの柱で構成されている。

第一の労使合意の契約解消の導入は、これまでの慣行に法的基礎を与えるものだ。労働契約の終了には、使用者による解雇、従業員による辞職、契約期間の到来などのケースがある。フランスでは、使用者による解雇については、特に手続きが厳格かつ複雑に法律で決められており、煩雑な手続きを避けるために、使用者と従業員が協議した結果、示談書を用いて契約を終了するということが、しばしば行われてきた。

こうした状況から、合意案では新たに「労使の合意による契約解消」を導入し、これまでの慣行に法的基礎を与えた。使用者と従業員の双方が合意した契約解消に関する協定を、使用者は県の労働局に届ける。これは15日以内であれば、使用者、従業員ともに取り消しを申請できる。この期限内に契約解消を撤回する申請がなければ、県の労働局長は契約解消について最終的な承認を下す。契約を解消された従業員は、失業給付および解雇補償金を受け取ることができる。

第二は、CDI(期間の定めのない労働契約)の試用期間に上限を定めた。現行の労働法は、CDIの試用期間の上限を定めていない。業種別労働契約で定められている場合がほとんどで、さらに従業上の地位によって期間は異なる。一般的に、事務職員1カ月、現場労働者1~2週間、管理職3~4カ月、技師・職工長2カ月、上級管理職3カ月程度といわれている。

今回の労使合意案では、事務職と現場労働者は1~2カ月、技術者・職工長は2~3カ月、管理職は3~4カ月へとそろえることになった。なお、試用期間の更新については1回のみ可能だが、その可否は業界ごとの合意に委ねている。

また、学生が最終学年中に企業で行う研修は、その企業に研修終了後正式に採用された場合、試用期間とみなすことにした。

第三は、あらかじめ定められたミッションの終了に際して、雇用契約も自動的に終了するというCDDを新設する。これは、建設・公共事業セクターでは既に実施されているもの。管理職と技術者のみを対象とし、契約の更新はできない。契約期間は18カ月から36カ月で、おおよそ契約期間は契約中に明示する。契約終了の2カ月前に、従業員にその旨を通知しなければならない。契約の中途解消の場合は、使用者は従業員に全報酬の10%に相当する「不安定補償金」を支払わなくてはならない。当該従業員は、失業給付も受給できる。

急浮上したCNEの廃止

こうした労使合意を受けて、政府が作成した労働市場改革に関する法案が、3月26日、閣議決定した。法案には、労使交渉では議論されなかったCNEの廃止が盛り込まれた。法案によると、CNEに関する条項は全て廃止し、新法の施行と同時に現在有効のCNEを即時に一般のCDIに転換する。CNEは2005年夏に、緊急雇用対策としてド・ヴィルパン首相が導入した特殊雇用契約。企業側は、有用な人材をフレキシブルに採用できるとして歓迎したが、2年間という解雇可能期間について議論が絶えなかった。国内の労働裁判所は「CNEは違法」と判断、控訴院もその見解を支持した。さらに、国際的にも労組のCGT-FOがCNEの不当性をILOに申し立てていた。

政府は、「雇用に柔軟性を持たせることもでき、雇用の拡大にも貢献できる」とCNEの有効性を主張してきたが、ILOは「自由に解雇できる期間が2年もの長期に及ぶことは、フランス政府が主張するように『理にかなっている』とはいえない」との決定を下した。

今回のCNEの廃止については、「ILOの決定を受けたもの」と政府は説明しているが、労使双方にとってもここまでの完全な方針転換は想像もしていなかったといえる。中小企業の経営者団体であるCGPMEは、CNEを即CDIに転換するという政府の決定に強く反発している。CNEによって、企業は経営状態が悪化した場合や従業員がその仕事に合わないと判断した時に解雇することが可能となり、新たな人員を雇用しやすくなった。現在のCNEを即CDIへ移行することになれば、解雇や採用の手控えが生じ、雇用悪化につながると主張している。

当初からCNEに反対していた労組は、今回の廃止を歓迎する一方で、「CDIへの移行を避けるために法律制定前に、駆け込み的に従業員を解雇しようとする全企業を裁判所に訴える」と、企業側の動きを牽制している。

CNEについてはその契約終了に関する調査がなされていないため、現在CNEによる就労者数は判明していない。しかし、新法によるCNEのCDIへの移行は、数十万人が対象となるとみられている。政府には、新規のCNEによる採用を禁止するだけで、現行のCNEについてはそのまま期間満了を待つという選択肢もあった。しかし、中小企業が混乱に陥るのもいとわず、ある種遡及効果のある断固とした手段を、政府は選んだといえる。

今回の法案は、CNEの廃止以外は、労使合意案では幅をもたせた形となっていた試用期間を、事務職員及び現場労働者2カ月、技師・職工長3カ月、管理職4月カ月と上限のみ定める等の微修正はあったものの、労使合意案の内容にほぼ忠実なものとなっている。法案は、4月15日から17日にかけて国民議会で、5月6日及び7日に上院で議論される。

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