柔軟な働き方、企業・個人に浸透
―政府、3年ごとの「ワーク・ライフ・バランス調査」発表

カテゴリー:労働条件・就業環境多様な働き方勤労者生活・意識

イギリスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2008年2月

政府が昨年公表した「ワーク・ライフ・バランス調査」によれば、フレックス労働やパートタイム労働など、働く時間や日数、場所などを柔軟に決める働き方は、企業にも労働者にも浸透しつつあり、仕事と家庭生活の調和は重要であるとの認識も広まっている。ただし同調査では、こういった制度が従業員の定着や生産性などに良い影響をもたらしていると感じる企業が減少していることも同時に明らかになった。

背景

労働党政府は90年代末から、柔軟な働き方の普及に向けて法制度の整備やキャンペーンなどを実施してきた。その背景には、女性の労働市場への参入が進むにつれて、育児などの義務を負った労働者が増えたことが大きい。また、欧州先進国のなかでも長い労働時間の削減や、相対的に低い生産性の改善に向けた取り組みの必要性が盛んに議論されるようになったこともその一因だ。この10年の間で、出産・育児休暇や父親休暇、介護休暇、子供を持つ親に柔軟な働き方を要求する権利などの法制化が行われてきた。その効果もあり、柔軟な働き方に関する制度を整備する企業や、これを利用する雇用者は順調に増加しており、労働時間も減少する傾向にある。政府は、企業が柔軟な働き方を導入するメリットとして、(1)採用可能な人材の幅が広がる(2)従業員の定着率やモチベーションが高まる(3)ストレスが減って欠勤率や離職率が改善する(4)生産性が向上する――などを挙げている。

こういった制度改正の普及状況や、企業・労働者の意見などを把握するため、政府は2000年から3年ごとに「ワーク・ライフ・バランス調査」を実施している。同調査は、雇用者調査と事業所調査から構成されるが、最新の第3回調査(2006年実施)の結果は、雇用者調査が昨年3月、事業所調査は同12月に、それぞれ公表された。以下、両調査結果の概略を紹介する。

労働時間の現状

まず雇用者調査の結果から週の労働時間をみると、男性が平均41.32時間、女性が31.81時間となっている(注1)。女性では30時間以下の43%、男性では36~40時間の38%がそれぞれ比率が高い。また男性の22%、女性の8%は、法定労働時間にあたる48時間を超えて働いている。長時間労働の傾向が強い層は、男性、管理職・専門職(事業所調査によれば、64%の事業所が、3年前に比べて管理職・専門職の仕事量が増加したと感じている。なお、非管理職については38%。)、収入が多い層(年4万ポンド超)、建設業や運輸通信業の雇用者、またパートタイム労働以外の柔軟な働き方の制度を利用している層など。逆に30時間以下の層は女性、若年層、収入の低い層(年1万5000ポンド未満)、サービス・販売職、流通・小売・ホテル・レストラン業の雇用者に集中している。また世話の必要な子供を持つ雇用者では、全雇用者の平均と比べて短時間・長時間層の比率が相対的に高く、男女の差がより一層明確になっていることが理由と考えられる。

雇用者全体の69%は、現在の労働時間に満足しており、26%は現在よりも短時間で働きたいと回答している。

制度の整備状況

事業所調査は、柔軟な働き方に関する制度のうち主要な6種類について、整備状況をきいている。いずれの制度も持たない事業所は全体の4%と低く、事業所の92%がパートタイム労働(前回の2003年調査時は81%)、74%が期間限定労働時間短縮(同40%)、59%がジョブ・シェアリング(同39%)、55%がフレックス労働(同38%)、41%が圧縮労働時間制(同19%)を導入しており、在宅勤務制度を導入している事業所も26%(同22%)にのぼる。全般的な制度の普及と、複数の制度を整備する企業が増加している状況がうかがえる。

利用状況

雇用者の利用状況はどうか。過去二年の間に、働き方の変更について申請を行った雇用者は、全体の17%(女性22%、男性14%)で、2003年調査から変わっていない。申請を行った者のうち、60%は申請内容どおり承認され、18%が部分的に承認、17%が却下されている(男性23%、女性13%)。また、職場で利用可能な制度をたずねた設問では、パートタイム労働(69%)、期間限定労働時間短縮(54%)、フレックス労働(53%)、ジョブ・シェアリング(47%)などで比率が高い。ただし、それぞれについて利用可能と回答した雇用者のうち実際に利用した比率が高かったのは、フレックス労働が49%、在宅勤務が44%(利用可能と回答した比率は23%)、パートタイム労働が38%、学期間労働が36%(同37%)などで、制度が整備されている比率と利用されやすさは必ずしも一致していない。なお、柔軟な働き方を選択する理由としては、生活しやすくなる/効率的になる=21%、仕事の性質や種類から=19%、育児の必要=18%、自由時間の増加=15%、家族と過ごす時間の増加=14%、などと回答している。

主な制度の概要(パートタイム労働・在宅勤務を除く)
期間限定労働時間短縮 連続した一定の期間(例えば6カ月)労働時間を短縮し、その後通常の時間に戻す。
ジョブ・シェアリング パートタイム契約を結んだ二人の労働者が一つのフルタイムの仕事を分担する。
フレックス労働 勤務時間を労働者が決定する。通常は合意された一定のコアタイムを含む。働いた時間分の賃金が支給される。
圧縮労働時間制 通常よりも短い期間内での総労働時間数を契約する。例えば週5日勤務から4日勤務に変更し、総労働時間は同じ(5日分)とする。
学期間労働制 子供の学校の休暇中は無給休暇を取ることができる。
年間労働時間契約制 年間の総労働時間数を契約し、それに基づいて週の労働時間を決定する。

企業・従業員の意識

両調査では、設問が提示するステートメントへの賛否により、柔軟な働き方に関する意識についてたずねている。これによれば、事業所の92%と雇用者の94%が「従業員は仕事と生活のバランスが取れている時に最もよく働く」という考え方に同意しており、ワーク・ライフ・バランスの重要性は大半の企業・雇用者に認識されているといえる。しかし、事業所の73%は「従業員は業務に支障が出る場合、働き方を変えられると期待すべきではない」に、また67%は「様々な働き方の従業員に対応するのは簡単ではない」にも同意しており、企業の複雑な立場がうかがえる。

事業所に対して、制度の導入による影響をたずねた設問には、良い影響が感じられたと回答した事業所が多く、従業員との関係(employee relations)で58%、従業員のモチベーションで57%、採用・定着率の双方について42%、生産性について41%などとなっている。ただし、いずれの項目についても前回調査に比べてその比率は5~10ポイント減少しており、その分、影響はなかったとする事業所の比率が増加している(注2)。

一方、柔軟な働き方を利用した雇用者の側では、89%が柔軟な働き方の利用によって良い影響があったと回答しており、多くは自由時間や家族と過ごす時間の増加を理由として挙げている。その反面、悪影響があったとする雇用者も44%にのぼり、賃金の低下を主な理由に挙げている。また、柔軟な働き方を利用した同僚を持つ雇用者も、54%がなんらかの良い影響を挙げている一方で、悪影響があったとする雇用者も38%おり、仕事を肩代わりしなければならなかった、必要なときに同僚がいなかった(いずれも6%)、などを理由としている。

現在の仕事・働き方(仕事内容、労働時間、雇用の保障、賃金)全般について、雇用者全体の87%は満足していると回答しており、この比率は上昇傾向にある。特に女性は、男性と比べて「非常に満足している」と回答する比率が高い(女性34%、男性23%)。同様の傾向は、パートタイムとフルタイム(それぞれ37%と27%)、柔軟な働き方を利用している雇用者としていない雇用者の間にもみられる(33%と22%)。

参考

参考レート

関連情報

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。