経済政策に論点が移行
―次期大統領候補の指名選挙
民主・共和両党の次期大統領候補者指名選挙は、年明けに始まった。キャンペーンの争点は、当初、イラク問題やテロ対策などであったが、景気悪化の情勢を反映して、雇用問題を軸とする経済問題に移っている。
雇用対策が勝敗のカギに―ミシガン州での共和党予備選
次期大統領候補者指名選挙は、1月3日、民主党のアイオア州での選挙を皮切りに、5日のワイオミング(共和)、8日のニューハンプシャー(民主)と続き、1月15日、ミシガン州で共和党大統領候補指名選挙が行なわれた。そのキャンペーンにおいて争点の中心になったのが経済問題であった。とりわけ雇用対策に関する発言が勝敗を分ける要因の1つとなった。
ミシガン州は自動車産業の衰退によって多くの雇用機会が喪失したこともあり、失業率が7.6%と全米で最悪の水準にある(表1参照)。デトロイトや中小の工場が位置するミシガン州南西部では工場閉鎖とレイオフによって1980年代半ば以来、50万人規模の雇用が喪失したとされる。
こうしたミシガン州について、マケイン候補は討論会において「戻ってこない仕事もある」と発言し、これがロムニー候補によってやり玉に挙げられ、連日メディアで大きく取り上げられた。ロムニー候補は「わたしはすべての人に雇用を創出する」と強調し支持を獲得していった。
マケイン候補の実際の発言では、「ある分野の仕事に関しては、ミシガン州から喪失してしまった。それは戻ってくることはないだろう。戻ってはこないが、ただ現実を直視しなければならない。ただ、私は職を失った労働者を支援していく方策を推進できると信じている」というものであった。ロムニー陣営の批判に対して、マケイン候補は「真実を言ったまでだ」「ロムニー氏は間違った希望を語っている」と反論し、失業者への職業訓練拡充プログラムなど現実的な施策を急ぐべきだと主張したものの、有権者の支持は得られず、ロムニー候補39%、マケイン候補30%という結果となった。なお、ハカビー候補の得票率は16%。
アイダホ州 | 3.0 |
サウスダコタ州 | 3.0 |
ワイオミング州 | 3.1 |
ハワイ州 | 3.2 |
ネブラスカ州 | 3.2 |
ユタ州 | 3.2 |
ノースダコタ州 | 3.3 |
~ | ~ |
オハイオ州 | 6.0 |
カリフォルニア州 | 6.1 |
ワシントンDC | 6.1 |
アラスカ州 | 6.5 |
サウスカロライナ州 | 6.6 |
ミシシッピ州 | 6.8 |
ミシガン州 | 7.6 |
最低賃金制度も争点に―ネバダ州での民主党予備選
民主党の米大統領候補者指名選挙が、1月19日、ネバダ州で行なわれた。そのキャンペーンでも経済問題が争点となった。
ネバダ州はヒスパニック系住民の占める割合が23%に及ぶ。全米平均を大きく上回り6位の高い水準にある(表2参照)。ヒスパニック系の有権者は景気の影響を受けやすく、サブプライム住宅ローンの焦げ付き問題でも生活に影響を受けた者が多い。そうした中、民主党各候補は演説において経済問題に関する訴えかけに多くの時間を割いた。
ヒラリー・クリントン候補は、債務者の救済策として利息凍結案などを主張し、サブプライムローン問題で住居を失った者に対する立ち退き90日の延長や相談窓口の設置、失業保険給付の延長や職業訓練の促進を訴えかけた。また、社会保障とりわけ医療は民間では担えないとして、国による健康保険制度の創設を訴えた。さらに最低賃金水準ついても引き上げるべきであると強調した(注1)。クリントン候補は、先のブッシュ大統領による緊急景気対策の発表に先立ち、1月11日、700億ドルの緊急景気対策と、400億ドルの追加的景気対策を提案した。サブプライムローン問題で住宅ローンの支払いが困難になった低所得層を支援する300億ドルの基金創設などを挙げている。
エドワーズ候補はネバダ州における集会で国民皆保険と、最低賃金をインフレに連動させて引き上げるべきであるという主張を展開した。ちなみに、エドワーズ候補はWSJ紙1月3日付に掲載した意見広告で、(1)近年、賃金格差が大幅に広がっている(2)1979年以来、最低賃金の実質価値は30%下落している(3)4700万人のアメリカ人が健康保険に加入していない――などを政策課題として取り上げている。
オバマ候補はラスベガスの集会で、中所得者層向けの減税策やサブプライム住宅ローンの焦げ付きの影響を受けている人々への救済を訴えかけた。具体的には立ち退き猶予の支援や生活必需の税や費用を援助するための100億ドルの基金を創設することを提案している。また、失業率など重要な経済指標が悪化しつづけるならば、350億ドルの追加的減税策をすべできだという見解を示した。さらに、物価上昇に合わせて最低賃金の毎年の引き上げを検討すべきだと主張した。オバマ候補もクリントン候補の景気対策発表の後、14日、労働者や年金受給者を対象に一律250ドルの戻し減税や一時給付の実施、失業保険給付の増額などを内容とする総額1100ドルの景気対策を発表している。
オバマ候補は労組を中心に支持を獲得したが、女性票やヒスパニック系の幅広い支持を獲得したヒラリー候補が勝利した。
ニューメキシコ州 | 43.42 |
カリフォルニア州 | 35.21 |
テキサス州 | 35.13 |
アリゾナ州 | 28.50 |
ネバダ州 | 23.54 |
フロリダ州 | 19.49 |
コロラド州 | 19.46 |
ニューヨーク州 | 16.11 |
ニュージャージー州 | 15.23 |
合衆国平均 | 14.40 |
出所:米国センサス局ウェブサイトより作成
注
- ただし、時間給労働者の中の最低賃金水準で就労する割合に関する統計資料でネバダ州は、2.1%と全米平均の2.2%をわずかに下回り、38位であることから、最低賃金レベルで就労する労働者がことさら多い州というわけではない。
参考
- New York Times, Jan.12, 15, 16
- Los Angels Times, Jan. 15, 16, 17, 18, 19
- Wall Street Journal Jan. 11, 14,
- Las Vegas Sun, Jan. 12
- Las
Vegas Sun, Jan. 18
- Las Vegas Sun, Jan. 19
- 各候補のホームページ(アルファベット順)
- 民主党
- ヒラリー・クリントン候補のキャンペーン・ホームページ
- エドワーズ候補のキャンペーン・ホームページ
- オバマ候補のキャンペーン・ホームページ
- 共和党
- ハカビー候補のホームページ
- ジュリアーニ候補のホームページ
- マケイン候補のホームページ
- ロムニー候補のホームページ
参考レート
- 1米ドル(USD)=107.25円(※みずほ銀行ウェブサイト
2008年2月8日現在)
2008年2月 アメリカの記事一覧
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