職業訓練制度改革に関する労使交渉開始
―実施急ぐ政府、労使は「労使自治」を強調

カテゴリー:労使関係人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2008年11月

政府の職業訓練制度改革に関し、9月30日、労使間で交渉を開始した。年内にも改革案を発表したい政府は、労働改革の際に政府と労使全国組織の事前協議を義務付ける「労使対話の現代化法」にのっとった形で、改革方針文書を労使に準備、「労使交渉及び協議に必要な時間をとった後、2008年末までに改革案をまとめる」と発表した。労使は、改革を急ぐ政府の圧力を受けて、交渉を開始したかたちとなった。

職業訓練制度を「くたびれた制度」として痛烈に批判してきたサルコジ大統領は、現行制度は資金の流れが不透明で、訓練へのアクセスも不平等なために、最も訓練を必要とする者がその恩恵を受けられないでいると指摘、2008年末までに改革案を発表すると主張してきた。こうした批判や指摘を労使側は認めつつも、2003年9月に労使で合意に達した「企業の被用者や公務員等の職業教育制度に関する協定」(注1)によって、「職業訓練への個人の権利(droit individuel a la formation:DIF)」(注2)を確立するなど、企業における職業訓練は大きく発展したと反論してきた。

これに対し政府は、国、地方圏、労使の代表らによる作業グループに職業訓練制度の実態に関する調査を指示。同グループは、2008年7月10日、「現在の職業訓練制度では、訓練へのアクセスが不平等で、失業者や低資格被用者、そして高齢者が不利な扱いを受けており、さらに財政面でも非常に厳しい状況にある」とする報告書を経済産業雇用大臣及び雇用担当閣外大臣に提出した。

この報告を受けて政府は、以下の4つの改革軸(優先課題)からなる方針文書を作成し、労使に示した。その4つとは、(1)職業訓練と雇用の関係を強化する(2)職業上もっとも弱い立場にある者(中小企業の被用者、低資格の被用者、資格を取得せずに学校教育を修了した若年者など)を対象の中心に据えて、職業訓練へのアクセスの不平等を支出の面からも見直す(3)より透明性の高い、パフォーマンスの良い制度にするため、国、地方圏、そして労使の活動を連結させる(4)個人への情報提供、職業指導・支援の強化を図るとともに、職業訓練休暇や職業訓練への個人の権利を高める――である。

政府の方針文書を受けて、9月30日、第1回の会合を行った労使は、「被用者組合・使用者組織の宣言」を発表。その中で、政府からの文書を確認し、交渉を開始したことを示すとともに、交渉のテーマと期間は労使が決定するものであるとし、「労使交渉の自治の枠内でその責任を果たす意思」を明確にした。また、今回の交渉は失業保険に関する交渉と一貫性を持たせながら進めていく予定であることを示した。使用者団体(MEDEF)は、「この交渉は景気の動向をみてより慎重に調整すべきである」とし、労使交渉の進展をせかす政府を牽制した。

作業グループや会計検査院の報告によれば、職業訓練制度に関する費用は、国内総生産の1.5%に相当する260億ユーロに達している。これだけの予算を投じていながら、最も制度の中心に置かれるべき者が制度からはじき出されて、基本的目標を達していない。政府は、雇用とユーザーを制度の中心に据えた「より公正な」職業訓練制度を実現すると説明している。労使は、今後、10月22日、11月5日、11月21日、12月8日、12月22日の5回にわたり会合を開き、その対応を検討する。

参考レート

  • 1ユーロ(EUR)=124.78円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2008年11月5日現在)

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