中小企業を対象とした社会保障制度への理解の促進
―従業員積立基金制度の現況

カテゴリー:高齢者雇用勤労者生活・意識

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  • 国別労働トピック:2007年1月

マレーシア日本人商工会議所(JACTIM)と中小企業金融公庫クアラルンプール駐在員事務所は毎月1回、中小企業会員向けに経営に関する基礎的な事項を分かりやすく学んでもらうことを目的に、「中小企業講座」を開催している。主なテーマは、▽労務管理▽税制▽会計▽銀行取引▽環境▽情報技術 (IT)――などであるが、11月27日に開催された第13回セミナーでは、「すっきり理解、社会保障制度の基本:EPF、SOCSOなど各種基金負担の仕組み」がテーマに取り上げられた。

中小企業セミナー開催の背景

マレーシアでは、被雇用者退職積立基金法(Employees Provident Fund Act 1991)により、従業員が55歳に達した時に支払う退職金のための強制拠出年金が規定されており、マレーシア人の被雇用者についてはすべて、被雇用者の月給(基本給、手当などの現金支給の全額)の最低12%を雇用者が、11%を被雇用者がそれぞれ同基金に拠出することが義務付けられている。外国人やメード、自営業者については、EPFの加入は当事者の任意とされている。

しかし、ここ数年、在マレーシアの日系企業に務める日本人の中がEPFに加入するケースが増えているという。以下は、現地採用の日本人がEPFに加入する割合について、在マレーシア海外委託調査員による、ある人材派遣会社の担当者へのインタビューの結果である。

「EPFに関してですが、2年ぐらい前に日本人現地採用をしている会社30社ほどに電話をしてEPF加入があるかどうか確認をしたところ、3分の2ぐらいの会社から現地人と同じでEPFに入る選択はあるということでした。実際それらの日本人現地スタッフがEPFに入っているかどうかは別として、選択できる環境である会社の方が多いのは確かなようです」

「ご参考までにお伝えすると、EPFに加入する本人が死亡したなどの理由で受け取れない場合のため、マレーシア人であれば自分以外の受取人を決めることができますが、外国人の場合、加入者本人のみしかお金をもらえないことになっています。そのため私個人の意見としてはお勧めしていません」

「しかし、すでに別会社でEPFに加入している方は、転職する場合にもEPFを続けたいと思う傾向がありますし、実際に加入するかどうかは別として、選択の余地があるということは利点と思われるのではないかと思います」

第13回中小企業セミナーの概要

講師はプライスウォーターハウスクーパースのシニアエグゼクティブディレクターである藤井純一氏。マレーシア滞在歴が長く、地元の日系ビジネス社会では信頼が厚い。社会保障は専門外だが、業務上、EPFなどの相談を受けることも多く、依頼に応えて講師を務めたという。

講演の主な内容は、(1)従業員積立基金(Employees' Provident Fund=EPF)、(2)社会保障機構(Social Security Organization=SOCSO)、(3)人的資源開発基金(Human Resource Development Fund=HRDF)であった。

藤井氏によれば、日本の厚生年金保険があくまで「社会保険」であるのに対し、EPFは雇用者と被雇用者がそれぞれ積み立てる「強制貯蓄スキーム」。これまで日系企業の駐在員のEPF加入問題には紆余(うよ)曲折があったという。

1996年度予算案により、駐在員もEPFに加入しなければならないと法律が改正された。だが、例えば日本人の場合、日本で掛けている厚生年金とEPFが二重取りになってしまうなどの問題が生じたため、98年8月に撤廃。現在、加入を義務付けられているのはマレーシア人のみで、駐在員や外国人労働者は任意となっている。

積立金の法定負担率は、マレーシア人の場合、雇用者は所得の12%(19%まで積み増し可)、被雇用者は11%。駐在員と外国人労働者の場合は、雇用者が月額5リンギまたは所得の12%、被雇用者は所得の11%となっている。

基本的にマレーシアの会社には退職金制度がなく、EPFはその代替としての役割もある。日本の年金と違い、引き出したEPFには税金が掛からないのも特徴という。

EPFは加入者が55歳に達すると拠出額をすべて取り崩すことができる。このほか住居購入や高等教育費に充てる場合、重病時の医療費として使用する場合などに積立額の一部を取り崩すことが可能。

駐在員の場合、55歳に達しなくても、ワークパーミット(就労許可)を取り消して税金処理をすべて終え、帰国する際、それまでに積み立てた拠出金を取り崩すことができる。

同セミナー参加者からの質疑では、(1)EPFに利子は付くか(回答:付く。年5―6%)▽EPFの支払い猶予は許されるか(回答:許されない)、(2)駐在期間が終わって帰国する場合、引き出すのにどのくらいかかるか(回答:早ければ1カ月前後)――などの具体的な問題について解説。このほか、SOCSOやHRDFについても詳細な説明が行われた。

従業員積立金(EPF)の第3四半期収入、前年比16%増

ちなみに、現在のマレーシア従業員積立基金(EPF)の投資残高は、11月24日の発表によると、第3四半期(7―9月期)の投資収入が前年同期比16%増の35億4000万リンギに上っている。

特に株式では、投資先の株価がブルサ・マレーシア(マレーシア証券取引所)の主要指数、クアラルンプール総合指数(KLCI)を上回り、同80%増の7億7700万リンギの投資収入を記録。インフラ整備などの開発事業の投資収入も好調で同20%増の14億リンギだった。一方、国債投資による収入は同5%減の12億リンギだった。

EPFの加入者数は約1130万人。各労働者が月給の11%、雇用者が同12%を拠出しており、総資産額は2720億リンギに上る。7―9月期には66億リンギの拠出金を集めた。

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