建物清掃業に労働者現場派遣法の適用を拡大

カテゴリー:外国人労働者労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2006年9月

政府は8月23日、建設産業の一部に適用されている労働者現場派遣法を改正して、建物清掃業にも適用を拡げる方針を決定した。この法律は外国人労働者による賃金ダンピングからドイツの労働者を保護することを目的とする。今回の改正案が成立すると建設業、壁紙貼り及び塗装業、屋根ふきに続いて建設清掃業でも外国企業への拘束が強まることとなる。ドイツでは現在、建設産業の一部に限定して外国の事業主であってもドイツ国内で従業員を働かせる場合には国内最低賃金の遵守と年休付与を義務付けており、その根拠となる法律が労働者現場派遣法だ。

ドイツの最低賃金と外国人労働者

ドイツには法律で定める最低賃金制度は存在しない。賃金は労使が交渉で決めるもの、との伝統的な理解が強く、労働協約となった労使の合意事項が全てを律する仕組みだ。このため最低賃金についても労使で合意した内容について連邦労働相が、ドイツ労働総同盟(DGB)とドイツ使用者連盟(BDA)で構成する協約委員会に諮り、了承を得た後に一般的拘束力を宣言する仕組みとなっている。この結果、労働協約で定められた最も低い賃金が法定最低賃金に近い効果を上げことになる。一般的拘束力宣言がなされた労働協約は該当する地域と産業で働くすべての労使を拘束する(注1)。

こうした仕組みを脅かしたのが東欧やEU諸国からの低賃金労働者といわれる。東西ドイツ統一後の90年代初め、旺盛な建設需要を背景に、旧東ドイツ地域の建設現場を中心に低賃金の外国人労働者が大量に流入した(注2)。しかし、90年代半ばには景気が悪化して失業率も上昇、雇用失業情勢は深刻化した。こうした状況についてドイツ国内では批判が高まり、低賃金の外国人労働者がドイツ人の雇用を奪っているとする見方が広まった。

労働者現場派遣法による規制

事態を重視した政府は96年、建設産業の一部に限定しつつも「外国の建設業者は一般的拘束力宣言を受けた労働協約に従い、ドイツに派遣する労働者に対して最低賃金の遵守と年休権を保障しなければならない」とする労働者現場派遣法を制定した。

これを受けて建設産業の労使は九六年四月、労働協約の一般的拘束力宣言を申請したが建設費の高騰に伴う国際競争力の低下を危惧したドイツ使用者連盟(BDA)は「最賃水準が高すぎる」として拒否権を発動、事態は混乱した。最終的には連邦労働相の仲介により最賃水準を引下げることでようやく97年8月の一般的拘束力宣言に到達した。この経緯を重く見た政府は建設業に限って労使からの意見聴取のみで一般的拘束力を宣言できるよう法律を改正。これにより協約委員会の同意は必要なくなり、使用者団体は事実上、拒否権を失った。

今回閣議決定された改正案でも建設業のケースと同様、協約委員会の意向に関係なく労働社会相が直接命令という形で一般的拘束力を宣言できる旨の規定が盛り込まれている。ドイツ商工会議所とドイツ使用者連盟は今後、労働側が高い最低賃金を要求してきた場合であっても使用者団体が拒否権を行使できないまま一般的拘束力宣言が発動されるとして危機感を強めている。建設産業における一般拘束力宣言に基づく現在の最低賃金は、表のとおり。

表:ドイツ建設産業における最低賃金
  建物清掃業 壁紙貼り及び塗装業 屋根ふき業 建設業
最低賃金
(ユーロ/1時間)
旧西ドイツ 7.87 7.85 10.00 10.20
旧東ドイツ 6.36 7.15 10.00 8.80

出所:ハンデルスブラット紙(8月4日付)

参考

  • ハンデルスブラット紙(8月4日・8日付)
  • ドイツ労働社会省ホームページ
  • 苧谷秀信著『ドイツの労働』(2001年、日本労働研究機構発行)
  • 佐藤忍「ドイツの建設労働市場と外国人労働者」『香川大学経済論業第75巻第4号』(2003年3月、香川大学経済学会)

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