新移民法成立するも、抗議の声は収まらず

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2006年8月

サルコジー内相が2006年3月29日に閣議に提出した、移民政策の変更と移民の社会統合に関する新たな法案の審議が続いていたフランス。家族呼び寄せを理由とする移民数の増加や2005年秋の暴動に多くの移民家庭出身者(主に2世や3世)が参加したことなどを背景に、国が必要とする移民を選別して受け入れる方式への転換及び仏社会への統合促進を目指して作成された同法案は、フランスの社会・経済への貢献が期待できる高い能力を有する外国人には門戸を広げる一方で、それ以外の移民については滞在条件を厳格化するという点が大きな特徴とされる。3カ月にもおよぶ審議を経て、6月30日、家族呼び寄せ条件の緩和等の一部修正を経て、上下両院で可決、成立した。主な修正個所は、以下のとおり (注1)。

  1. 能力と高い才能を有する外国人を対象とする滞在許可証の新設

    この滞在許可証は、有効期限は3年で、更新が可能である。ただし、「優先連帯地域に属する国(注2)」の国籍を有している場合には、更新は1回に限定されるとともに、フランスがその国と共同発展のためのパートナー協定を締結した場合、あるいは、当該外国人が、滞在許可期間(最長で6年)終了後に、出身国に帰国することを制約した場合にのみ発行される。これは、有能な人材を必要とする発展途上国からの頭脳流出を避けることが目的といわれる。

  2. 家族呼び寄せ

    条件を、「新たに来仏する家族を、様々な家族手当を申請せずに扶養することが可能であることを証明しなければならない」から、「(家族手当など諸手当を除く)勤労所得が、少なくとも最低賃金(SMIC)以上であることを証明しなければならない」へ修正。この修正により、家族の規模(妻子の数等)に応じた所得の証明は必要なく、SMIC以上の勤労所得を証明すればよいこととなった。さらに、この家族呼び寄せを申請については、「2年の滞在後」から、「18カ月(1年半)の滞在後に可能」と改められた。

サルコジー内相は、議会での可決・成立を受け、同法案を即施行する意向を示していたが、7月5日、野党の国会議員および元老院議員(社会党、共産党、緑の党)は、憲法院に同法案の審査を請求。同法案は「通常の私的な家庭生活を送る権利及び人間の尊厳を尊重される権利」を侵害するものであり、「長年フランスに滞在し社会参入する意志を表明している外国人や、フランスの富の生産に貢献している外国人の状態を不安定にする」と主張。基本的自由・権利を遵守しているか否かという視点から、(1)10年間滞在した外国人に自動的に認められていた適法化制度(正規滞在許可証の交付)の廃止、(2)家族呼び寄せの条件の強化、(3)送還措置に適用される裁判手続きのあり方――等について審査することを求めた。

2週間にわたる審査の結果、憲法院は7月20日、「新移民法案に違法性はなし」との判断を下し、野党議員らの訴えを退けた。これを受けてサルコジー内相は、各県知事を招集し、これまでの自らの移民政策への取り組みの成果を述べるとともに、「新たな移民政策を実行に移す時がきた」と主張。新移民法を2007年1月1日には実施することを目標としていることを明らかにした。

強気の姿勢を崩さないサルコジー内相だが、同法に反対する勢力は、抗議運動の継続を表明。CGT(労働総同盟)や市民グループの「移民の使い捨てに反対する統一連合」は、「滞在許可証を持たない数万人を追い詰め、退去させる法案」への抗議活動を宣言した。サンパピエ(正式な滞在許可証を持たない外国人)の子供で就学中の児童に対する強制国外退去に反対する動きも全国的に拡大している(注3)。2007年春の大統領選挙に向けて同氏は、移民問題では引き続き難しい舵取りを強いられそうである。

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