新移民法案提出:移民の選別と社会統合策の強化へ

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2006年4月

サルコジー内相は、3月29日、移民政策の変更と移民の社会統合に関する新たな法案を閣議に提出した。同法案は、国が必要とする移民を選別して受け入れる方式への転換及び仏社会への統合促進を目指すもの。提出の背景には、外国人の入国や滞在の許可を厳格化すべきとする声の広がりがある。こうした声は、家族呼び寄せを理由とする移民数の増加や2005年秋の暴動に多くの移民家庭出身者(主に2世や3世)が参加したことが引き金となっている。今回提出された法案は、(1)不法入国・不法滞在者への対策強化、(2)移民の選別及び社会統合策の強化――が大きな特徴とされる。これは、2005年末より同内相が議長を務める移民規制委員会(Comite interministeriel de controle de l'immigration)で検討を重ねてきた、移民の家族呼び寄せに関する規定の見直しや偽装結婚への対策強化などがポイント。

改正案の主な内容

(1)入国及び滞在に関するルールの厳格化

これまでは不法滞在者であっても、10年以上の滞在を証明可能な場合には、自動的に滞在許可証が交付されたが、その制度を廃止する。

また、移民の家族の呼び寄せ(注1)の申請は、現行では1年の正規滞在後に可能となっていたが、これを「最低18カ月」に延長する。ただし、申請には(1)各種の家族手当を受けなくても、呼び寄せ家族を扶養できるなど、少なくとも、SMIC(最低賃金)水準の収入があること、(2)フランス共和国の法律を遵守すること――を証明しなければならない。

さらに、結婚によりフランス国民の配偶者となった者は、これまで結婚2年後に正規滞在許可証を申請できることとなっていたが、これを3年に改める。これは、正規滞在許可証の取得を目的とした偽装結婚の防止が狙いといわれる(注2)。

(2)新たな滞在許可証の創設

能力と才能のある外国人を対象に、3年間有効でかつ更新可能な滞在許可証を創設する。これに該当する外国人は、「フランス経済の発展や、フランスの地位向上へ寄与する」と考えられる者で、具体的には研究者・科学者や情報処理技術者(コンピュータープログラマーなど)、芸術家、スポーツ選手などが想定される。

(3)受入・統合契約(注3)

これまで特定の地域を対象に試験的に実施してきた受入・統合契約(CAI)を全国一律に適用する。フランスでの滞在を認められ、永続的にフランスへの滞在を希望する者は、同契約に署名しなければならない。契約締結により、移民は市民教育と語学教育を受けることとなる。また、正規の滞在許可証を取得する前に、移民は(1)フランス共和国憲法の遵守と諸原則の尊重に関する誓約、(2)その諸原則の実際の尊重、(3)フランス語に関する十分な知識――を3要件とする「統合条件」を満たさなければならない。

なお、サルコジー内相がかねてより主張していた「移民割り当て政策」(年間の移民受入数をあらかじめ設定しておくこと)については、憲法上の問題があるとして、採用は見送られた。

反応

社会党や緑の党、共産党など野党は、「フランス経済にとってプラスとなる外国人しか受け入れなくなり、フランス革命以来の“自由・平等・博愛”の精神とは相容れない」として、新移民政策を非難している。社会党は、「様々な社会的権利を持つ優秀な移民と、社会的な保護が必要な移民とに分けられてしまう」と非難し、「移民を送り出す国との協調を抜きに移民政策を進めても、移民数のコントロールは不可能である」という声も出ている。

ド・ヴィルパン首相は、「人間的、社会的、法的に、あるいは国全体の規模で均衡点を見つけることは、容易ではない」と述べながらも、「我々は、社会が安定するような規則を定めることになる」と主張。また、サルコジー内相の側近も、「全ての人に、国が門戸を開いていたら、共和国の統合が不可能となる」と述べ、移民規制強化の正当性を強調している。
ド・ヴィルパン首相とサルコジー内相は、2007年の大統領選出馬を目指すライバルといわれ、政策面でしばしば対立がみられる。しかし、今回の移民政策の変更に関しては、そうした壁を越えて、実現に向けて政府一丸となって推進することを強調しており、法案成立の行方が注目される。

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