EU労働時間指令のオプト・アウト(適用除外)を維持

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  • 国別労働トピック:2006年8月

2006年6月、EU加盟国の労働社会問題担当大臣が構成する労働社会相理事会(Council : Labour and Social Affairs )において、オプト・アウトの廃止を含む労働時間指令の改正案に関する討議が行われた。理事会では、オプト・アウトの廃止を求めるフランス、スペインに対し、従来から「オプト・アウトは競争力の維持と雇用を創出するために重要」と主張してきた英国の意見が対立、両者の隔たりが大きく、議論は先送りとなった。

オプト・アウト廃止をめぐる議論の推移

ここで言うオプト・アウトとはEU労働時間指令の第6条(注1)が定める週労働時間の上限(48時間)を超えて労働させることを認める特例規定を指す。1993年の労働時間指令の採択当時、英国を想定して設けられた条項であり、10年後の見直しを条件として採択された。このオプト・アウトは英国の長時間労働の原因のひとつとであるといわれている。(注2)

2004年1月、欧州委員会(European Commission)は協議文書を発表し、同年9月には、週48時間労働制の適用除外要件の厳格化などを内容とする労働時間指令の修正案を発表した。その後、労働社会相理事会で討議が継続されたが結論はでなかった。

2005年5月、欧州議会(European Parliament)は、欧州委員会の労働時間指令改正案に関する第一読会において討議を行い、いくつかの修正を加えた改正案を5月11日に採択した。主な修正点は、(1)オプト・アウトを3年間で徐々に廃止、(2)「待機時間」は労働時間に算入、3)週48時間労働制の算定期間を4カ月から1年に延長する際の条件をより詳細に規定――などである。

改正案の発表後、労働社会相理事会において数度に渡りこの問題に関する討議が行われたが、加盟国間で大きな意見の相違があり、未だ合意を見るに至っていない。
その後の2005年12月8日の理事会(Council of Ministers)においても労働時間指令の改正の合意へは至らなかったことから2006年6月の労働社会相理事会では、英国がオプト・アウトの維持を認めることを条件に、新たな労働時間規制を受け入れることで合意に達することを望んでいたが合意に達せず、結果として英国のオプト・アウトは引き続き維持されることになった。

埋まらない溝

英国のオプト・アウト廃止を求めたフランス、スペインに対し、英国選出の欧州議会議員リズ・リン氏は「英国のオプト・アウト廃止を求める国の多くが、複数雇用契約の場合の労働時間通算を行っている」と指摘し、オプト・アウトが撤廃された場合、違法就労者が増加しその結果他の保健安全法制の保護を受けられない者が増えることになると反論している。また、アリスター・ダーリング英国貿易産業相は、「英国労働者がオプト・アウトを行う権利を放棄する用意はない」と語り、オプト・アウトを廃止した場合、被用者の選択と企業の柔軟性が脅かされると主張している。

このように、オプト・アウトの廃止を主張するフランス、スペイン陣営とこれに真っ向から反対する英国との溝は埋まっていない。

各界の反応

欧州委員会は特例規定について、「制限のない労働時間制は、労働者の健康と安全だけでなく、仕事と家庭の両立に深刻な危険を及ぼす」として、労働時間の柔軟化に反対している。こうした理由から英国政府のオプト・アウト維持に対しは、英国企業による濫用の可能性があるとして、これまで廃止を主張してきた。

欧州労連(ETUC)も「オプト・アウトは被用者の生活の質を低下させており、労働者の同意も形骸化している」と主張、欧州委員会を支持している。

他方、英国政府は、オプト・アウトが廃止された場合、事業の柔軟性が影響を受けると主張し、被用者が週間労働時間の長さを自分で選択する権利を長らく擁護してきており、被用者が希望する以上の長時間労働を強いられた場合、事案を処理する裁定機関や裁判所があると主張している。これを受けて経営者協会(IoD)のスポークスマンであるリチャード・テイラー氏は、「英国が競争力の優位を維持しようとするならば、従業員に労働時間の延長を求めることを認めるという柔軟性を使用者に与えることは必要不可欠であり、適用除外維持の知らせに使用者は安堵している」と語った。同スポークスマンはまた、「被用者は労働時間の延長に対して相応の報酬が支払われる限り、喜んで延長を受け入れている」とも主張した。

こうした英国の主張に対し、欧州委員会のウラジミール・シュピドラ雇用・社会問題担当委員は、労働者が新たに就職した場合、48時間を超える就労を希望するかを決定するために1カ月間の「クーリング・オフ」期間を与えることを提案した。同委員はまた、労働者が48時間を超える労働に合意した場合でも、週間最大労働時間の上限を定めることも提案している。しかし、こうした提案が受け入れられるかどうかは未知数。

それぞれの利益が絡み労働時間に関する議論の行方は混迷している。労働時間指令に関する交渉が不調に終わったのは、過去3年間でこれが4度目になる。

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