自動車製造産業の再編

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  • 国別労働トピック:2006年6月

2006年4月、フランスの自動車メーカー、プジョー・シトロエン(PSA)社は、イングランド中部コベントリーのライトン工場を閉鎖すると発表した。閉鎖は段階的に行なわれるが、失業者は直接的な解雇2300人に関連業者を含めると数千人規模に達すると見られている。同時に同社はスロバキア工場に一部製造ラインを移転することを明らかにした。英国の自動車製造産業に今何が起きているのかをレポートする。

ライトン工場閉鎖の背景

今回のPSA社ライトン工場の閉鎖は、2005年4月のロングブリッジ工場閉鎖(MGローバー社)、9月ブラウンズ・レーン工場の生産休止(ジャガー社)に次ぐものとして、労働組合や地元産業界からは失望の声があがった。

PSA社が説明するライトン工場閉鎖の第一の理由は同工場の「製造コストの高さ」である。閉鎖にあたって経営側は、今年に入って全工場を対象に行なった生産コストの比較結果として、主力小型車モデルである「プジョー206」1台当たりの生産費を基準にした場合ライトン工場は仏のポアシー工場より287ポンドも高いことを明らかにしている。

第二の理由は、「欧州内の需要の停滞と競争の激化」。PSAは近年、西欧域外、とりわけ東欧での販売台数を増やしており、2005年にはチェコにトヨタとの合弁工場を開設、2006年5月からはスロバキアでの操業を開始している。

しかしPSA社が工場閉鎖に踏み切った背景には、英国の集団解雇規制の緩やかさがあると見る向きも少なくない。フランスで工場を閉鎖する場合、労働法によって「社会計画」(ソーシャル・プラン)(注1)の作成が義務付けられているのに対し、英国では欧州委員会「情報提供・協議指令」を国内法化した「2004年労働者への情報提供と労働者との協議に関する規則」が2005年4月に施行されたとはいえ、大量解雇に対する規制が非常に少ない。このため在英の工場を閉鎖した方が時間も費用も削減できる可能性が高いといわれる。法律事務所クリフォード・チャンスの試算によれば、ライトン工場を閉鎖した場合、労働者1人当たりのコストは5万ポンドに満たないが、フランスで同規模の工場を閉鎖した場合のコストは14万ポンドにも上る可能性があるという。

労組は一斉に反発

労組アミカス(Amicus)のデレク・シンプソン書記長は英国の労働者にもフランス同様の労働者保護を行うべきだと抗議し、在仏プジョーの各労組も、閉鎖反対闘争を行うことを直ちに表明した。「フランスにおける工場閉鎖は許さない」と、英国工場閉鎖の余波がフランス国内労働者に及ぶことを牽制している。これに対して、PSA社のジャン・マルタン・フォルツ CEOは、閉鎖に際して交渉や議論の余地は無かったと主張、発表前に英国政府や組合と協議をしなかった自社の立場を弁護した。同CEOは「いかなる争議行為もライトン工場の閉鎖を早めるだけのもの」と、この問題に早期にピリオドを打ちたい構えだ。

地域に及ぼす影響は深刻

今回工場の閉鎖が集中したイングランド中部(ミッドランズ)は、英国全土の中でも自動車関連産業に雇用されている人々が最も集積している地域。9万5000人以上が1000以上の自動車関連企業で働いていることからライトン工場の閉鎖がミッドランズ地域の雇用に及ぼす影響が懸念されている。(注2)ライトン工場の閉鎖を受けて、ジョンソン貿易産業相は、地元のジョブセンタープラスを通じて再就職を支援すると語り、ローバー破綻時と同様に英国政府として介入する姿勢を示した。ローバー破綻の際には、6250人の労働者が解雇され、関連するサプライ・チェーンの労働者1万5000人が職を失い、EU構造基金(注3)の援助を受けた就業支援策がとられた。しかし失業者の3分の1は再就職できておらず、再就職者できた者の平均年収もローバー時代より3523ポンド減少しているのが現状だ。

2005年以降、相次ぐ縮小計画

自動車製造産業にとって、欧州は多数の大手メーカーがシェア拡大をめざししのぎを削る非常に厳しい市場。PSA社がライトン工場の閉鎖を発表した8日後、英国スポーツカー専門メーカーのTVRがイングランド北部・ブラックプールにある同社工場を半年以内に閉鎖すると発表、さらに5月17日には、米ゼネラル・モーターズ(GM)社傘下のボクソール社が、北イングランド・エルズミア・ポート工場の従業員約900人を解雇すると発表した。同社は解雇理由に「長期的な競争力の確保」をあげており、解雇によりコスト削減と生産性の向上を図るとしている。

アミカスのシンプソン書記長は、「自動車産業にとどまらず英国製造業にとっての痛烈な打撃になる」と述べ、直ちに解雇計画の撤回を要求した。また、運輸一般労組(T&G)のトニー・ウッドリー書記長は「市場に任せておくだけでは製造業の大量人員削減は防げない」と指摘、大量解雇を回避するための政府の積極的関与を要求した。

一方で拡大の動きも

その一方で、今後も英国での自動車製造拡大に意欲を示すメーカーもある。欧州日産自動車のシニア・バイス・プレジデントであるコリン・ドッジ氏は、「現時点では東欧に生産拠点を移す計画はない」として同社の欧州本部をイングランド北東サンダーランドに置き、引き続き競争力を維持することを強調している。日産自以外にも、ロータスなどが英国での製造維持に前向きな姿勢を示しており、縮小と拡大が入り乱れ、英国の自動車産業は再編の動きが進んでいる。

表:2005年以降の主要自動車製造工場の閉鎖
メーカー名 資本 閉鎖年 規模 地域名 工場名
PSA 2007(予定) 2300人 イングランド中部 レイトン
ボクソール 米(GM) 2006(予定) 900人 北イングランド エルズミア・ポート
TVR 2006(予定) 260人 イングランド北部沿岸 ブラックプール
MGローバー 2005 6250人 イングランド中西部 ロングブリッジ
ジャガー 米(フォード) 2005 1150人 イングランド中部 ブラウンズレーン

参考レート

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