労働法改正を巡る動きとメーデー

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係

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  • 国別労働トピック:2006年5月

現行労働法については、雇用や解雇に関する規制が厳しいためコスト高を招き、投資停滞の要因となっているとする経営者や投資家の声がとみに高まっていたが、政府はこうした主張を踏まえ投資環境改善のため、今年に入り労働法改正の本格的な作業を開始した。エルマン・スパルノ労働移住相は労働法改正を早期に目指すとの方針を年初に示し労働制度改革に対する強い意欲を見せ、また、2月にまとめられた政府の投資環境改善策では労働法改正案の国会提出期限が4月中と明記された。

労働法改正に向け2月及び3月に開催された政労使三者協議では、政府作成の改正案が提示されたが労使の見解は一致しなかった。経営側は政府の改正案を原則受け入れるとしたが、労働側は労働者保護に関する規定の多くが削除されていることに強く反発、拒否する姿勢を示し、労働法改正を巡る動きは暗礁に乗り上げた。

これに機を合わせるように、労働法改正に反対する労働団体のデモが3月以降各地で頻発。特に大規模となった4月5日のデモでは、約2万人の労働者が大統領宮殿などを目指し行進を行い、暴徒化した一部が政府関係ビルへの投石や公共施設の破壊などを行った。

こうした労働法改正に対する反対運動に対し、ユドヨノ大統領は4月7日、労働側の代表と会談し、その結果、翌日労働法改正案の国会提出延期を決定した。これに伴い、政府は労働法改正案を撤回し、今後は中立的な立場にある学識者が新たな法案作りを進め、これをもとに政労使三者協議を行うこととした。

しかしながら、労働法改正作業が続けられることに変わりはないため、、改正自体に反対する労働側はこれで納得せず、国内3大ナショナルセンター(全インドネシア労連:KSPSI、インドネシア福祉労連:KSBSI、インドネシア労組会議:KSPI)のうちKSPIとKSBSIは、メーデーのデモ参加を組合員に指示し、また、労働団体の一部強硬派はメーデーでのゼネストを呼びかけた。

そうした中、メーデーの日を迎えた首都ジャカルタでは、国家警察が大規模デモに備え最高レベルの警戒態勢を整えたが、デモは大通りで一部通行不能や渋滞を招いたものの騒乱に発展することはなく、地元警察によるとデモ参加者は約2~3万人と見られ、労働側の事前の予想(10万人超)を大きく下回るものとなった。

デモの最中、国会で労働法審議を担当する委員長が労働側の代表と接見、労働法改正に反対する旨表明したこと、さらに国会議員の一部が同法改正に反対することを約束したことが、デモを混乱なく終息に向かわせた要因であったとみられている。

メーデーは比較的平穏に終わったが、3日に再び大規模なデモが発生した。この日のデモはKSPSI(全インドネシア労連)主体と見られ、約10万人の群集が国会前でデモを展開した。デモ群集の一部は国会建物の破壊や投石などの過激な破壊行動に走ったため、機動隊は催涙弾や放水などで応酬し、デモ隊は夕刻になりようやく解散した。

中東歴訪中で不在であったユドヨノ大統領は、こうした動きに対し、現状では事態を沈静化させることが先決とし、労使との話し合いの機会を持ち「仕切り直し」をする考えを改めて示した。また、エルマン労働移住相も大統領の方針を受け労働法改正作業のやり直しを表明し、引き続き政労使三者協議による法改正の検討を進めていく意向を示している。一方、国内3大ナショナルセンターは、労働法の改正を目的とする政労使三者協議への不参加の姿勢を鮮明にしており、今後の労働法改正の成り行きは不透明なものとなっている。

参考

  • Asiaconsult Associates Newsletterインドネシア・ウォッチング
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