GMとデルファイ、早期退職勧奨制度を導入
UAW(全米自動車労組)は3月22日、アメリカの自動車最大手ゼネラル・モーターズ(GM)と大手自動車部品メーカーのデルファイ(注1)との間で、時間給労働者(ブルーカラー)の早期退職勧奨制度の導入について合意に達した。両社合計で12万6000人(注2)に上るUAWの組合員が制度の適用対象となる。ある労使関係の専門家は、今回の決定について、経営不振に陥っているGMの財務改善につながるであろうが、消費者にアピールするような魅力ある車を開発できなければ、抜本的な解決にはならないと指摘している。
早期退職勧奨制度の概要
同制度に関する合意内容の概略は、以下の通り。
- 勤続30年以上の場合、3万5000万ドルの退職一時金が支給される。退職後は、満額の年金と医療保険等が保障される。
- 勤続27年以上30年未満の場合、勤続30年目で退職することを条件に、それまでの間、通常の賃金に加え、勤続年数に応じて毎月2700~2900ドルが支給される。退職後は、満額の年金と医療保険等が保障される。
- 50歳以上で勤続10年以上の場合、互恵プログラム(MSR)(注3)により、満額の年金受給権を得る。ただし退職一時金はなし。
- GMの従業員に限り、勤続10年以上の場合、14万ドルの退職一時金、勤続10年未満の場合、7万ドルの退職一時金を受け取る。ただし、いずれの場合も退職後は年金や医療保険等の権利が与えられない。
- デルファイに所属するGMの元従業員を2007年9月までに5000人を上限としてGMに受け入れる(注4)。
08年までに3万人の削減をめざす
GMは2005年、経営再建のためのリストラ策の一環として、2008年までに3万人の時間給労働者の人員削減や、北米における12の工場の閉鎖等を行うと発表している。GMの広報担当者は、早期退職勧奨制度は3万人という目標値達成に向けた重要な一歩となる、と述べている。退職者の目標数は公表されていないが、デルファイの従業員分のコストも含め、制度実施の費用はGMが負担することとなっており、同社にとって最大で20億ドルのコスト増になると見られている。それでも、GMは、ジョブ・バンク制度(注5)により、自宅待機中のUAW組合員(現在7500人)に対し、他の製造業に比べ高水準の賃金(注6)を支払っており、現在、合計で週あたり9400万ドルにのぼる費用負担を余儀なくされている。本制度の導入で従業員数が削減できれば、GMはトータルで見て財務改善効果があると見込んでいる。
労使の緊張が高まるデルファイ
一方、デルファイは4月末を回答期限として、UAWに対し、大幅な賃金削減案を提示している。同社は2005年10月に米国連邦破産法第11章の適用を連邦破産裁判所に申請し、現在経営再建の途上にある。2006年3月31日には、現行の労働協約の無効を破産裁判所に申し立てており、無効の裁決が出れば経営側は現行の労働協約を破棄できる。こうした事態になれば、組合はストライキも辞さないとの構えを示し、労使の緊張が高まっている。ストライキが実行されれば部品調達の約2割をデルファイに依存するGMだけでなく、トヨタなど日本の自動車メーカーも大きな打撃を受けることは必至と見られる。
注
- デルファイは7年前(1999年)にGMから分離独立し、現在は経営再建の途上にある。こうした経緯から、デルファイに移籍した元GM従業員について、賃金はGMと同等の水準を維持すること、年金等の社会保障費はGMが負担することなどがUAWとの労働協約により定められている。
- 内訳は、GMが11万3000人、デルファイが1万3000人である。
- 50&10 Mutually Satisfactory Retirementと呼ばれる。通常の勤続10年以上の従業員に提供されたプランよりも、恵まれた条件で退職できる。
- 現行のUAWとの労働協約では、GMが採用を行う際、GMからレイオフされた労働者を優先的に再雇用するが、それでも補充しきれない場合は、元GMのデルファイ従業員をGMに再雇用することになっている。今回の合意は、この制度に人数の上限と期限を設けたものである。
- ジョブ・バンクは、工場の閉鎖等でレイオフされたUAWの組合員に賃金や手当ての大半を支払う制度。本来の目的は、レイオフされた労働者に対する再教育と再就職の援助であったが、経営不振により人員削減や工場閉鎖が相次ぐGMでは、ジョブ・バンクに属する組合員に十分な職を供給できず、結果として自宅待機者に多額の人件費を支払わざるを得ない状況にある。
- アメリカにおける製造業の時間給の平均は約15.5ドル(2004年、アメリカ労働統計局)。一方、UAWの組合員の平均時給は27ドルである。また年金や医療保険の会社負担分も含めて時給換算すると67ドル相当となる。(3月23日ワシントンポスト)
参考
- 委託調査員レポート、3月23日付デイリーレーバーレポート、3月23日、28日付ニューヨークタイムス、4月15日付ワシントンポスト
参考レート
- 1米ドル=113.75円(※みずほ銀行ウェブサイト2006年5月1日現在)
関連情報
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:掲載年月からさがす > 2006年 > 5月
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:国別にさがす > アメリカの記事一覧
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:カテゴリー別にさがす > 雇用・失業問題、労使関係
- 海外労働情報 > 国別基礎情報 > アメリカ
- 海外労働情報 > 諸外国に関する報告書:国別にさがす > アメリカ
- 海外労働情報 > 海外リンク:国別にさがす > アメリカ