男女平等法案、閣議で可決

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  • 国別労働トピック:2006年4月

スペイン政府(注1)は、2006年3月3日、「男性と女性の平等に関する組織法案」を閣議で可決した。社会の様々な場面における男女平等の実現を目指すもの。例えば、選挙に際しては、候補者名簿でいずれかの性の候補者数が全体の60%を超えてはならず、40%未満であってはならない(注2)。同法の労働に関する内容は以下の通り。

  • すべての企業は、労働条件における男女間の差別をなくすための措置を集団交渉の場でとりあげなければならない。特に従業員数が250人を越える企業では、男女の賃金の平等、女性の優先的雇用などについて、総合的なプランを策定することが義務付けられる。この義務を怠った経営者には罰金が課される。
  • これまで「子供の出生時に2日間」とされてきた父親の休暇とは別に、更に8日間の休暇を母親の産休期間中に取得できるようにする。「父親も育児に参加すべき」との考えに基づくもの。休暇でなく労働時間短縮を求める場合は、18日間までとする。母親が死亡した場合は、母親の産休と同じ期間を父親が取得できる。
  • 母親の授乳時間を累積し、休暇に替えることができるようにする。これは父親、母親のどちらでも可能。
  • 職場が女性の妊娠や授乳にとってリスクが多いと判断される場合には、当該労働者は雇用契約中断を求めることができる。
  • 多胎出産や障害児出生の場合は、産休を2週間延長する。
  • 子供が8歳になるまで休職や労働時間短縮を求める権利を認める(現在は6歳まで同権利が認められている)。
  • 家族の世話・介護のために取得できる休職期間を1年から2年に延ばす。
  • 労働時間短縮に伴って賃金が削減されても、失業手当や解雇補償金額の算定には、短縮前の全額を基準として用いる。
  • 職場でのセクハラ、直接的な差別、間接的な差別等の定義を明確化すると同時に、法違反(軽度のものと重度のもの)を定義づける。

政府は4年後に、以上のような措置が、女性の地位向上にどれほど効果をもたらしたかについて検証する。目標が達成されていない場合は、より拘束性の高い法改正を検討する予定。フェルナンデス第一副首相は「平等法は、男女平等実現に向けて現行憲法制定以来の最も重要な法となる」としているが、労組や雇用者側からは法案に対する批判もでている。

二大労組の労働者総同盟(UGT)と労働者委員会(CC.OO.)は、平等法が大きな前進を意味することは認めている。しかし、政府がこれまで社会対話の場で特に積極的に平等政策についてとりあげようとしなかったにもかかわらず、「世界働く女性の日」(3月8日)直前に法案を発表したことに対して、マスコミに対するパフォーマンス的な動きと批判。十分な協議も交渉もなしに急いで作った法案であると強く反発した(注3)。

フェミニスト団体や女性団体も、法案作成過程で政府による対話・交渉がなかったことを批判。2日には26の女性団体がマニフェストを発表し、(1)選挙候補者名簿における男女同数、(2)女性NGOが選ぶ全国女性評議会を創設して平等政策のフォローを行う、(3)父親育児休暇を4週間とする、(4)女性に対する差別を労働監査当局や行政当局に訴える権限を女性団体に認める――等の要求を掲げた。

最も強い反発を示しているのは雇用者側。スペイン経団連(CEOE)は、「平等法案は、政府と労組の間だけでの一方的な合意に基づいて作成されたもので、雇用者側の提案はすべて無視されている」と批判。男女平等の追及や性差別との闘いを「法律による義務付け、罰金・罰則の適用」という手段で実現しようとしている同法案は、最悪の手法であるとした。また、性差別やセクハラの事実を知った場合に、雇用者が行動をとらなければ罰金を課されることに対し、「問題を起こした労働者の責任や社会全体の責任をすべて雇用者が負わされる」と強く反発した。

現政権は、同法案推進の他にも、すでに「ドメスティック・バイオレンス(DV)法(注4)」を可決させている。また、現在推進中の介護法案も「女性を解放するもの」として、男女平等実現に向けた政府の努力を強調しており、今後も現政権の「男女平等」への取組みが注目される。

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