コンビ賃金方式
―低賃金労働市場をめぐる論議

カテゴリー:雇用・失業問題労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2006年2月

ドイツで現在、低賃金労働市場における雇用創出をめぐる論議が高まっている。多国籍企業の生産・営業拠点の海外移転や、EU拡大による東欧諸国からの労働力流入(労働許可をもたず自営・請負の形で入国し実際には雇用労働を行う非合法的なものを含む)は、ドイツにおいて正規雇用の数を縮小させ、失業を増やす原因となっている。失業の波は、とくに労働資格を所有していない、あるいは乏しい階層に降りかかり、一度失業すると長期間そこから抜け出せない傾向も強い。このような問題を背景として、昨年11月に発足したメルケル政権は、雇用創出を可能にする低賃金の設定と、そのレベルの収入で生活を可能にするための何らかの賃金補助を組み合わせる「コンビ賃金方式」の検討を打ち出している。しかし政権内部でも意見の相違が顕著に見られ、方向性が定まるまでにかなりの時間を費やしそうだ。

CDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)とSPD(社会民主党)は、新政権発足にあたっての連立協定において、「僅少資格労働者(gering qualifizierte Menschen)の雇用拡大‐コンビ賃金の導入を検討する」とし、この問題を検討する作業グループを立ち上げるとした。ここでは現状について、失業者全体の4割弱に相当する200万人近くが職業教育を修了していない「僅少資格者」だと説明し、そのような階層に対する個々の雇用・失業政策が総合的な効果を生んでいないと指摘。「いわゆる低賃金セクター自体と、それが社会給付の全体の額に占める割合について、新しいルールが必要だということで一致している」「賃金を良識の範囲を越える水準まで落とすことは避けたいが、他方、人々に低い所得でもより多くの雇用機会を提供することも大切だ」との認識を示している。

連立協定によれば、「コンビ賃金モデル」は「賃金と社会給付をバランスよく組み合わせることで単純労働をやりがいあるものにすると同時に、単純労働の雇用を新しく生み出す」ことを可能にするという。ただし、「企業に継続的な補助金を提供するつもりも、その他の新しい労働市場対策を導入するつもりもない」とも述べ、使用者に対する新たな補助金制度の設置を否定している。

一方、DGB(ドイツ労働総同盟)は、コンビ賃金方式に関する論議が高まってきた06年1月に同サイト上に掲示した解説「コンビ賃金は特別な場合にのみ有効だ」において、「コンビ賃金の賛同者は、低賃金を税財源による補助金で補うことにより低賃金セクターを支援しようとしている。これにより労働者にとって低賃金労働は受け入れやすいものとなる」と現状を説明。だが、「地域包括的なコンビ賃金には反対だ。それはコストがかかりすぎるし、乱用を誘い、賃金水準を下落させる」との見解を示して、失業後の新しい就職の際の賃金や55歳以上の高齢者対象といった特定のケースにおける効果を除いて、一般的なコンビ賃金の導入には反対する立場をとっている。

コンビ賃金方式については、もともとCDU/CSUが推進、SPDが消極的という方針の違いが見られた。論議が進むにつれ、1月にはCSU(バイエルン州のみで活動)が導入に疑問を投げかけ、CDUとの姉妹政党内での意見の食い違いも表面化している。一方、低賃金労働市場において重要な役割をもつ最低賃金の設定に関しては、SPDがとくに近年積極的な動きを示しているが、CDU/CSUは最低賃金が高めに設定される可能性と、その使用者への影響を勘案して消極的な態度をとっている。

ドイツではもともと、労働組合と使用者団体が交渉して決める賃金協約が個別企業の賃金に波及する「拘束力」が強く、法律等で定める包括的な最低賃金制度は必要とされなかった。制度上は、とくに東欧などからの労働力が用いられている建設業を主な対象として、「外国人労働者登録に関する法律」が限られた範囲で最低賃金を規制しているのみである。

この法律の他の産業セクターへの適用範囲拡大によって法律で根拠づけられる最低賃金規制を実現する手法などが論議されている。

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