労働市場改革の光と影
―「ビアジ法」の施行から3年を経て

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1.「ビアジ法」から3年―評価は可能か

労働市場改革法(いわゆる「ビアジ法」)の施行からすでに3年の時が経ち、専門家はその効果や今後の見通しについて検討するようになった。

第14立法期間(2001年5月30日から2006年4月27日)の終了から第15立法期間の開始(2006年4月28日以降)によって、ビアジ法の評価段階(2003年9月10日委任立法276号86条12項に規定)が重複することとなったが、これによって評価が容易になったわけではない。むしろ、激しい選挙戦(とくに、労働市場の自由化や不安定労働もテーマとなった)が、科学的な議論や政治上・組合運動上の対立にもマイナスの影響を及ぼした。事実、労働市場改革法に関する議論は、今日でも、法制度とは関係のない諸事情の影響を強く受けている。

この結果、労働市場改革の効果に関する分析は、しばしば政治的な評価やイデオロギー的な偏見によって歪曲化されてしまった。そのために、学問的な進歩は、2003年2月14日法律30号の公布直後から現在まで、ほとんどみられなかったといってよい。当初から、2003年法律30号や関連立法を否定的に評価していた人々は、始動段階および試験措置段階に伴うさまざまな不都合に関する最低限の考慮もなく、労働市場改革法を労働の不安定化や労働の商品化の象徴であるとして、(法の単純な廃止ではないにせよ)根本的な見直しの必要性を今日でも主張している。

信頼に足る国内外の評価機関によって公表された雇用に関するデータは、それほど多くはなく、ビアジ法の議論に終止符を打つようなものはなおさら少ない。しかしながら、以下に示す表からわかるように、ここのところ正規雇用率が伸び続け、臨時雇用が大幅に縮小しているのは、スペイン、そしてイタリアのみである。

表1:雇用の伸び率
  2005 2006
第3四半期 第4四半期 第1四半期 第2四半期
ドイツ - 0.2 0.0 0.1 0.5
スペイン 4.0 3.6 3.6 3.5
フランス 0.3 0.4 0.5 0.6
イタリア - 0.3 - 0.1 0.9 1.3
スイス 0.4 0.9 1.1 不明
イギリス 1.3 0.6 0.8 0.8
EU25カ国 0.8 0.8 1.0 1.2

出典:Eurostat - First estimate for the second quarter of 2006

一方、最近のイタリアの失業率は、7%にまで劇的に低下した。これは、EU平均(8.3%)を大きく下回る数値であり、また、10%の大台に乗らないように悪戦苦闘しているフランス、スペインおよびドイツといった国々に比べて極めて良い数値である。

1992年から今日までのISTAT(国立統計局)のデータをみると、労働市場に関する主たる指標のすべてにおいて、良い傾向が続いている(表2参照)。しかし、労働市場を現代化する過程、つまり「トレウ法」から「ビアジ法」までの間に費やされた労力は、なかなか認められていない。少なくとも数年前までのイタリアは、EUや国際的な機関によって、ヨーロッパの中で最悪の労働市場とみなされていたにもかかわらずである。

表2:労働市場に関する指標(1992年から2005年)
  1992-
1997
1997-
2000
2000-
2003
2003-
2006
1. 活動率(年平均、%) 0.1 0.7 0.8 0.4
2. 就業率(年平均、%) - 0.2 0.8 1.2 0.5
3. 失業率(年平均、%) 0.4 - 0.4 - 0.6 - 0.3
4. 1人あたり雇用(年平均、%) - 0.5 1.3 1.6 0.8
5. 1労働量あたり雇用(年平均、%) - 0.1 1.1 1.1 0.7
6. 国内総生産(年平均、%) 2.1 2.2 0.8 1.7
7. 国内総生産に対する雇用の弾力性率(年平均) - 0.1 0.5 1.4 0.4
8. 生産性(年平均、%)
2.2 1.0 - 0.3 1.0

出典:Isae, 2005

たしかに、次の項で述べるように、「ビアジ法」が正規就業率を劇的に引き上げ、労働の需要と供給の合致に関する規制の実効性と流動性を高めたことを裏付けるような明確なデータはまだない。多くの識者が指摘するとおり、雇用に関する指標が好調なことには、非正規移民の多くが正規化されたことも影響しているのは確かである。しかしながら、このデータは、ビアジ改革がもつとされる破壊的な要素に対する厳しい批判をかわすこともできるであろう。ことによると、経験に基づく緻密な評価や経済的な分析が示すとおり、こうした批判とは全く逆のことが事実かもしれないのである。

実際、データからは、ビアジ法の実施から3年を経て、心配されたようなイタリアの労働市場の不安定化は生じていないことがわかる。

政治的プロパガンダは措いて、信頼に足る国際的機関やINPS(全国社会保障機関)およびISTATのデータをみれば、臨時雇用および非典型雇用が、1995年から今日までの期間にほとんど変化していないことが理解されよう。表3からわかるように、2300万人を越える労働人口に対して、有期雇用の労働者は200万人弱(フルタイムとパートタイムの有期雇用の合計)であり、そのうち少なくとも3人に1人(50万人強)は訓練を内容とする労働契約を締結した労働者である。

表3:雇用形態別就業者(2006年第2四半期)
  実数
(1000人)
2005年
第2四半期との比較
実数 2005年
第2四半期
2006年
第2四半期
23,178 536 2.4 100.0 100.0
フルタイム 20,085 330 1.7 87.2 86.6
パートタイム 3,102 206 7.1 12.8 13.4
被用者 17,015 493 3.0 72.9 73.4
期間の定めなし 14,801 327 2.3 63.9 63.8
フルタイム 12,937 172 1.3 56.4 55.8
パートタイム 1,864 156 9.1 7.5 8.0
有期 2,214 166 8.1 9.0 9.5
フルタイム 1,748 131 8.1 7.1 7.5
パートタイム 466 35 8.0 1.9 2.0
自営業者 6,172 43 0.7 27.1 26.6
フルタイム 5,400 27 0.5 23.7 23.3
パートタイム 772 16 2.1 3.3 3.3

出典: ISTAT - Rilevazione sulle forze di lavoro del II° trimestre 2006

就業者の増加は、2.4%(53万6000人増)であり、前年の1.7%増を上回った。就業者数は、2318万7000人にのぼり、リスボン戦略に示された数値目標に沿った増加率を示している。実際、イタリアの正規就業率は、2001年の53.5%から今や60%台にも迫る勢いで、リスボン戦略の数値目標である70%に徐々に近づいている。

したがって、イデオロギー的な判断を加えても、ビアジ法がイタリアの労働市場を(一義的な意味で)激変させたと判断することは難しいと思われる。イタリアの労働市場の大部分は、今日でも、安定的な、期間の定めのない労働関係に基づいて構成されているというべきだろう。

実際、労働市場に関するCNEL(全国経済労働評議会)の2005年12月の報告書が示すとおり、期間の定めのない労働契約を締結した労働者は、2005年に2.1%増えたのに対し(29万9000人増)、有期契約の労働者の増加幅は、参入契約や訓練を内容とする労働契約(たとえば見習労働)の普及に比べて小さかった。

ISTATの報告書(2005年第3四半期労働力測定)は、2004年のCNELの報告書と同じく、連携的継続的協働労働や偶発労働といったグレーゾーンにも光を当てている。これらの労働者が加入するINPSの特別事業への加入者300万人強のうち、契約上弱い立場に置かれた準従属労働形態で働く者は、50万人弱に過ぎない。

表4:協働労働者およびプロジェクト労働者の割合(2005年)
  年齢別割合 全集業者に占める割合
15歳から24歳 12.1 2.9
25歳から34歳 41.2 2.6
35歳から44歳 23.6 1.2
45歳から54歳 11.6 0.8
55歳から64歳 8.9 1.5
65歳以上 2.7 2.9
100.0 1.7

出典: Elaborazione del CNEL su dati ISTAT del 2005.

同じく2005年CNELの報告書によると、企業が準従属労働を用いる理由は、基本的にはビアジ改革が予定したとおり、臨時の発注や、一時的なプロジェクト、そして、企業活動と関係のない活動に関する場合に対応するためであった。

表5:プロジェクト労働ないし連携的継続的協同労働の利用の理由(%)
理由
期間の定めのない契約での採用に備えた試用期間として 7.3
労働コストが低いから 14.8
企業の基幹事業に属さない活動または新規活動の遂行のため 18.1
質の高い従業員を求めて 7.8
臨時の発注やプロジェクトに対応するため 18.6
休職中の労働者の代替として 3.8
将来の事業に対する保証がもてないから
/解雇に関する拘束が小さいから
6.2
労働者自身の希望 10.4
その他 13.0
100.0

出典:Rapporto CNEL 2005, su dati ISFOL (giugno 2006).

ビアジ改革の実施の遅れのために、闇労働市場というイタリアの特異な事情(他の諸国に比べて、3倍から4倍の規模で蔓延している)は、その大部分が未解決である。ビアジ法が、イタリアの労働市場のもつ負の遺産に対処し、その目的の1つが、闇労働や非正規労働という「不当な弾力性」に代わる「正規の弾力性」という実践的な途を提供することにある点に鑑みれば、その成果はいまだわずかといわねばならないだろう(3参照)。

これに対して、ISTATの最近のデータ(「1992年から2003年における正規および非正規労働」)によれば、労働時間や契約の期間に関する労働関係の弾力化傾向および新しい契約類型の始動が、正規雇用を増加させるのに寄与したことが指摘されている。実際、1992年から2003年の間に、正規労働が3.4%増えたのに対し、非正規労働の増加は3.2%であった。

表6:正規および非正規労働(1992年から2003年)(単位:千人)
正規 非正規 正規の割合 非正規の割合
1992 20,319.0 3,137.8 23,457.2 86.6 13.4
1993 19,607.0 3,142.8 22,749.8 86.2 13.8
1994 19,364.0 3,165.2 22,529.2 86.0 14.0
1995 19,265.6 3,262.7 22,528.3 85.5 14.5
1996 19,312.4 3,287.8 22,600.2 85.5 14.5
1997 19332.7 3,358.8 22,691.5 85.2 14.8
1998 19,450.7 3,456.2 22,951.9 84.9 15.1
1999 19,602.3 3,446.6 23,048.9 85.0 15.0
2000 19,922.6 3,592.0 23,451.6 85.0 15.0
2001 20,234.9 3,601.8 23,836.7 84.9 15.1
2002 20,698,0 3,427,3 24,135,3 85.8 14.2
2003 21,000,7 3,237,8 24,238,5 86.6 13.4

出典:ISTAT - La misura dell’economia sommersa secondo le statistiche ufficiali Anno 2003

最後に、「ビアジ法」に対する非難として、「44もの弾力的形態(そしてそれ以上の契約の認証)」を導入し、法的契約類型を不適切に増殖させたことが指摘されているが、契約類型の増殖は、単に見かけ上のもので、いずれにせよ最低限必要な範囲にとどまることが繰り返し反論されている。

ビアジ改革による、弾力的な非典型契約類型の増殖が不可避であったことは、たしかに証明すべきことである。まず、2003年委任立法276号が導入した参入契約は、訓練契約に代わるものであったことは明らかである。見習契約は、3つの類型に分化した。しかし、目的や訓練の内容に応じた正当な区別である。分割労働や呼出労働は、旧法上にも存在した。プロジェクト労働は、新たな契約類型ではなく、連携的継続的協働労働の1類型である。補助労働(ただし、未実施)は、契約類型というよりは、今日非正規で実施されている付随的な労働を試験的に取り込んだものである。唯一新規契約類型と呼べるもの(ただし、実務上広く行われていた)は、期間の定めのない労働供給(いわゆるスタッフ・リーシング)である。したがって、契約類型の不適切かつ劇的な増殖といったものは、全く生じなかったと思われる。

この点に関する新規性が、数の上でわずかであったことを措くとしても、ビアジ改革が、広大な非正規の闇労働領域に果敢に立ち向かうことを戦略的な目的としていたことは事実である。このために、あらゆる労働契約は、契約的または類型的に弾力性を有することになった。労働憲章の法典化が、ビアジ改革の真の最終目的であることには変わりない。こうした中で、労働の方法に関する仕組みを見極め、まとめ、復活させ、不法がまかり通る現実から積極的な労働の組織化形態を救い出すことができなければ、ビアジ法の描く未来は、具体的な基盤を欠く「絵に描いた餅」なのである。

この点、ビアジ法の第1の評価段階では、契約類型上の弾力化と闇労働の利用の減少の因果関係の存在を評価することは極めて難しい。というのも、弾力的な従属労働形態の多く(スタッフ・リーシング、呼び出し労働、見習労働およびパートタイム労働)が、州や団体協約によって部分的にしか実施されていないためである。

2.改革の暫定性

「ビアジ法」が労働市場に与えた影響の分析について現時点で要約するならば、いずれにせよ、ビアジ改革をミニマム主義的に解釈した人々は正しかったということになりかねない。こうした解釈は、過去との多くの連続性を指摘することなく、むしろ、改革が、実践的な面や企業実務において有用性を欠くものになると予見していた。ビアジ改革のもつこうした欠点は、同改革が、技術的に準備不足で無益なものであるというかなり主観的で根拠を欠く見解を生むまでになった。つまり、この改革は、労働の保護という側面を取り返しの付かないほどに傷つけるだけでなく、過度で粗野な弾力化を生ぜしめたというのである。こうした弾力化は、コスト高で、新たな経済システムによって要求される人材への投資という要求に相反するため、企業システムにとってほとんど魅力はないと批判された。

しかしながら、著者の考えでは、ビアジ法の真の評価を行うにはいまだ時期尚早である。というのも、ビアジ法に含まれる措置の大部分が試験段階にあるためである。「トレウ法」の適用が示したように、射程の広い複雑な改革の場合、その成果が現れるのにかなりの時間(たとえば、5年から10年)を要するものなのである。

企業実務においても、特段の問題もなく受け入れられたのは、議会での議論の段階において各方面の合意がすでに形成されていた協同組合労働に関する改革のみだったように思われる。過去との連続性のあるもの(就業サービス改革や狭義の労働市場改革など)を含めて、これ以外の改革点のすべてが、2001年11月15日の法案848号の段階から、企業実務からの反発を受けた。こうした反発は、いわゆる「事前契約」(国の法律を受け入れないことを前提とする労組の合意)という異常で有害な状態にまで発展したのである。

たしかに、施行からの3年が、イタリアの法制度に最終的にビアジ法が根付くのに重要な過程であったことを否定することはできない。憲法裁判所は、2005年1月28日判決50号および2005年10月11日判決384号で、ビアジ法やその実施令の影響に関する違憲の疑い(国と州との権限の分配に関する問題)について、表面的な理由や、場合によっては確固たる根拠もなく一蹴した。また、ビアジ法に関するあらゆる法律が、(少なくとも従前に比べれば)驚くべき速さで実施されている。多くの州(とくに、「ビアジ法」を支持した議会多数派に反対を表明した州でも)は、ごく少数の例外を除いて、国の法律が受け入れた制度の基盤を確認する形で、体系的に州法の制定に取り掛かった。

労使もまた、重要な役割を果たした。場合によっては、断続的で組織性を欠く方法ではあったが、労使は、団体自治の歪曲や労働関係の過度の個別化が起こらないようにと、団体交渉に43の項目に関する具体化を委ねるべきこととしたのである。確かに、2003年委任立法276号86条13項が規定するように、1ないし複数の労働組合の総連合間協定を通じて改革を自律的に実施することを労使が受け入れていれば、改革の始動段階に関する異なる評価もありえただろう。しかし、実際に、総連合間で労使が受け入れたのは、訓練労働契約から参入契約への転換だけであり、見習労働といった、ビアジ改革のより「中立的な」部分に関する規制は、不可解なことに、放棄してしまったのである。この結果、見習労働に関して、新たな法的枠組への移行過程を統一的に規制する試みは、座礁することとなってしまった。

こうした複雑な情勢に照らせば、いまだ未履行のままになっている点の多い改革を評価することは、非常に困難と思われる。その射程の広さや枠組の複雑さからしても、ビアジ改革のもつ潜在能力の大部分が表に現れていないと考えるべきである。したがって、その最低限の影響について語ることでさえ、いまだ尚早であろう。

この3年間に関する議論を正確に行うために重要なこうした点を除いても、著者は、「ビアジ法」の長所や欠点に対する確かな判断が、国の法律の定める試験段階を経た後に始めて可能であると確信している。どんな法律であれ、その適用前には、諮問者や監督官が法規制の知識を欠き、法律の総合的な影響について無知である場合があることからしても、適用される前にその長短について判断することは不可能であろう。

また、マルコ・ビアジ自身が「しかし、実務的な側面では、真の改革とは、規制ではなく、まさにここに注釈される委任法規を解釈しようとする精神から導かれる文化でなければならない。改革は、以前からEUの機関によって求められてきたことであるが、労働市場の現代化は、こうした改革に対する積極的な姿勢がすべての当事者に要求される、極めて複雑かつ繊細な過程である。実際の運営者だけでなく、労使や労働法学者にも今日要求されているのは、疑念や差異に寄って立つ文化(また法学)に挑戦し、これを捨てることである」と警告していた。

立法者自身が、ビアジ改革に関して、少なくとも部分的には試験的な性質をもたせようとしていた。実際、2003年委任立法276号86条12項は、「第3章13条、14条および34条2項、第7章第2節ならびに第8章は、試験的な性質をもつ。施行日から18カ月後に、労働社会政策省は、17条にいう収集された情報に基づいて、国レベルで相対的に最も代表的な使用者および労働者の代表組織とともに、ここに含まれる規定の効果について評価を行い、その続行に関する評価後3カ月以内に、議会にこれを報告する。」としている。

実際、2003年委任立法276号によって規定されたすべての制度が、86条12項にいう評価の対象となっているわけではない。2003年委任立法276号の暫定的性質は、とくに、不利な立場に置かれた労働者の労働市場への組入れ・復帰における官民の連携の促進、社会的協同組合を通じて不利な立場に置かれた労働者および障害をもつ労働者を労働に組入れる措置、主体を特定した間歇労働、労働供給、サービス請負および出向、補助的偶発労働、ならびに、労働契約および請負契約の認証手続等に関する措置に限定されている。

逆に、2003年委任立法276号の中心的な措置、つまり、認可・信任度による労働市場の組織化や規制、全国継続労働取引制度、労働の供給と需要における合致の側面での官民の行動規範、営業譲渡および企業グループに関する規制、訓練を内容とする労働類型(3つの見習労働)参入労働契約、夏季指導研修、労働時間削減・弾力化型の契約類型、パートタイム労働、シェア労働、客体を特定した間歇労働、プロジェクト形式で行われる連携的継続的協働労働、ならびに、虚偽の結社契約に対する罰則制度は、技術的には試験的な性質を有していない(したがって、86条12項にいう評価からは形式的には除外されている)。

2003年法律30号で構想されたように、こうした総合的で根本的な改革が、その実施や完全な始動までに多くの時間を要するという認識から、立法者は、改革のうちのいくつかの制度については、政府と労使の間で確認をとるべきこととしたのである。

改革の承認に先立って使用者および労働者組織との会合が開かれた際に、イタリアの法的な伝統に照らしてより新規的と考えられ、イタリアの労働市場に対する影響が労使や政府の慎重な判断を要すると評価された新制度に、評価を絞ることが決定された。にもかかわらず、後の労使の会合で、2003年法律30号の労働市場に与える影響に関する政策的・技術的評価を、部分的で断片的にすることはできないという判断から、政府は、改革が内包するすべての制度を総合的に評価することを「非公式に」約束したのである。結局、こうした評価は、86条12項の規定する当初の方法でも、また、改革全体についてもなされなかった。

2003年委任立法276号に規定された時期に、政府と労使との会合を不可能にした「政治的な」理由は極めて多様なものである。ただ、実施における州や労働組合の規制を待っている間に、いくつかの重要な制度が機能麻痺を起こしてしまったとだけ指摘しておけば十分であろう。

この点に関して象徴的なのは、改革の中心部分に関する遅延である。たとえば、見習労働制度に関する規制は、州や労使が、実施に対して無気力、あるいはこれを阻害したために、大きな障害となった。それにもかかわらず、2004年の見習労働者数は53万3000人で、前年に比べて7.3%の増加となっている。CNELの報告書によれば、この増加は、訓練労働契約の廃止の影響であるとされている。しかし、民間部門については、訓練労働契約が、見習労働によって部分的にしか代替されなかったことに注意すべきであろう。実際、立法者は、参入契約という別の契約類型にも、その代替の機能を負わせているためである。この契約は、まだあまり利用されていないが、弱い立場に置かれていると考えられる労働者を企業実務に適合させるための仕組みであり、同時に、訓練労働契約の乱用に対する従来の批判をかわすためのものでもある。

国と州、そして産業別労働協約との複雑な権限配分が問題となる見習労働契約の動向以外にも、国と州との権限配分に関していくつかの州が行った違憲の申立てのために、2003年委任立法276号が規定する制度の履行および実施時期が遅れたものが多い。憲法裁判所の決定を待つ間に試験措置期間は過ぎ、その終了の間際に前述の2005年判決50号が出たために、改革の実施に関わる者や労使の間には、同委任立法の実施に関わる重要な措置の始動が著しく遅れたことに対して焦りと不安が生じた。たとえば、労働供給に関する民間有資格主体の認可制度、官民の連携および信任制度、障害者および不利な立場に置かれた労働者の組入れのための協定、訓練を内容とする労働類型(3種の見習労働)、労働参入契約、夏季指導研修、パートタイム契約類型、補助的偶発労働給付の規制、労働関係の認証手続、ならびに、監視活動および監督事業に関する権限といった改革の中心となる問題について、国、州、そして労使間の権限の配分が不透明だったのである。

このように、ビアジ改革の規定する制度のすべてが、多くの妨害や反対を受けた。なかでも労働組合による激しい反対運動は、本来ならば段階を踏んで行うべきビアジ改革の評価や検査、確認のタイムスケジュールを、修復不可能なほどに遅らせ、台無しにしてしまったのである。

反駁を恐れずにいえば、ビアジ改革の真の試験措置は、実際には行われなかったといえる。つまり、プラス面であれ、マイナス面であれ、ビアジ法の効果を評価するための政治条件と労使の「風潮」が、イタリアでは形成されなかった。むしろ、多かれ少なかれビアジ法に関わるすべての主体が、イタリアの利益のためにすべき唯一のこと、つまり、法を適用して、その後これを評価するということを放棄して、ビアジ法に対する政治的ないしイデオロギー的キャンペーンを優先させたのである。

2003年法律30号および2003年委任立法276号が定める制度や規制の正当性を確認しえたのは、2005年憲法裁判所判決50号が出てからであった。これによって初めて、国の法律が定める規制の整備に関する不安が取り除かれたのである。国と州との権限の配分が長い間不透明であったために(注1)、2003年委任立法276号17条に定める監視システムもまた機能不全に陥った。

17条は、「全国継続労働取引制度で構築されたデータベース、使用者が関係当局に提出すべき登録情報、および、利用者に対して使用者が実施すべき活動で、労働者の戸籍・職業カードに記載されるような登録情報は、本委任立法にいう遂行事業の監視活動のために共有される均一的統計データベースに統一し、労働社会政策省、州および県によって各管轄との関係で実施される。」としている。しかし、まさに州による違憲申立てのために、全国継続労働取引制度の根拠や基礎が問題となり(これを州の権限と考えた州があったため)、事実上、こうした仕組みもまた実施することができなかった。

統一会議における会合が「政治的に」拒否されたため、監視活動の要であった全国継続労働取引制度の構築が遅れ、17条が規定したような「本法にいうさまざまな措置に関する財政的、物理的および手続的監視の指標を、本令の実施から6カ月以内に定める」任務を負った委員会を構築することもできなくなってしまった。

2003年委任立法276号にいう情報の収集がなされなかった結果、86条12項にいう評価の手続も技術的に不可能になった。先の立法期間においては、法律の条文に介入する口実として、実施されることさえなかった試験的措置の結果を待つこともなく、州や労使の組織的な妨害が政府に対して行われた。かりに、こうした試験的措置が実施されていたならば、労働市場改革の影響に関する批判をかわすには、またとない機会だったはずなのである。

こうした苦境を克服するために、政府は、修正措置の実施(2004年委任立法251号や2005年3月14日法律80号に転換された2005年暫定措置命令35号)によって、遅れを取り戻そうとした。

これらの措置や、労使から提出された要求の承諾によって、政府は、いわゆる弱者の組入れに関する官民の連携措置(13条)を実施に移し、特定主体に許される間歇労働に関する試験的措置や補助的偶発労働の開始の手続をより使いやすくしただけでなく、プロアクティブおよびワークフェアの論理に則って、社会的緩衝措置制度改革という重要課題にも着手した。社会的緩衝措置制度は、法案848号の原案から切り離された結果、これまで中断していたのである。

連携的継続的協働労働契約にかかる暫定規制が2005年10月24日に終わったばかりであることを考えると、ビアジ法の試験措置は、いまだスタート地点に立ったばかりというべきであろう。労働供給や外部化制度といった仕組みは完全に実施されているが、改革の中心となるその他の制度についてはこのようにはいえない。これまで実施された評価はすべて不完全で、しばしばイデオロギーの影響を受けた偏見に犯されているだけでなく、労働市場に対する影響を適切に監視する仕組みがない中で実施されたものなのである。

3.「ビアジ法」の廃止の可能性

ビアジ法およびその実施令を、一部の専門家や社会勢力の提案するように廃止することは、本当に可能だろうか。ここ数年、ビアジ改革の実行のために骨を折ってきた者からすれば、「ビアジ法」は、2005年憲法裁判所判決50号および2005年憲法裁判所判決384号のおかげで、また、「トレウ法」との連続性もあって、イタリアの法制度に根付いたと断言できる。こうした状況を変えるには、立法者の鶴の一声で足りるというものではない。実際、逆説的なことに、中道右派の州が改革に対して消極的であったにもかかわらず、中道左派の州はビアジ法を適宜完全実施してきたという事実もまた、ビアジ法がイタリアに根付いたことを確証しているのである。

換言すれば、ビアジ法を放棄することは、イタリアの労働市場の中心的要素に関わるさまざまな州の規制を廃止するということに等しい。また、この労働市場改革が、国、地方および企業レベルの団体交渉によっても実行されてきたことからしても、これを後退させることはきわめて難しいであろう。

ビアジ法のとった方針が、EUから強く働きかけられたものでもあり、イタリアの主要な競争相手の法制度にも関わることは、他国の制度を比較してみてもわかることである。したがって、法の見直しだけを考えても、これまでの沿革や現在進行中の法的プロセスを考慮せざるをえないだろう。

出所

  • 当機構委託調査員レポート

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