保育サービスの多様化で、働く母親の「仕事と育児」の両立をサポート
2006年11月7日、政府は5カ年の「乳幼児プラン」を発表した。3歳未満の乳幼児を預かる託児所の充実が最大のポイント(注1)。公立の託児所の定員増加、企業内託児所設置促進策により、乳幼児を抱える母親の「仕事と育児」の両立をサポートする。
今回のプランの中心となるのは、保育サービスの多様化。フランスの保育サービスは、これまで在宅保育サービスが主流であった。しかし、出産後少しでも早い仕事への復帰を希望する女性の増加に伴い、在宅保育サービスは限界を迎えていた。そこで政府は、公立の託児所の定員増加を計画。2007年から2012年までに、毎年1万2000人ずつ増やし、最終的には36万2000人の受け入れを可能にする。
託児所が少ない農村地域などについては、「ミクロ託児所」を実験的に導入する。これは、集合住宅やビルの一室で、数人の保育士が3~9人の乳幼児を預かるというもの。さらに、企業内託児所の設置を促進する。現在、企業内託児所の運営費用の75%は、自治体による補助金と減税措置によって賄われている。今後は、家族手当金庫(注2)による支援も導入することにより、企業のコスト負担をさらに減らし、企業内託児所設置の促進を図る。
少子化からの脱却に苦労する国が多いなか(注3)、フランスは「フルタイムで働く女性も多く、出生率低下も克服した」という非常に特殊なケースとされる(注4)。24~49歳の女性の就労率は82%と、ヨーロッパで最も高いにも関わらず、出生率もEU25カ国のうちアイルランドに次いで2番目に高い。出生数は年間80万人以上にのぼる。この背景には、「出産、育児、養育を支援する」という明確な目的のもとに政府が積極的に整備してきた、家族に対する手厚い経済的支援(注5)や休暇制度が存在するといわれるが、こうした家族給付の充実が図られる一方で、「保育サービス」の整備の遅れがかねてより指摘されてきた。
フランスでは、市町村の財政難が原因で託児所の受け入れ能力が頭打ちになり、その後も託児所の整備はなかなか進まなかった。しかし、経済的支援や休暇制度を充実させるだけでなく、育児そのものへのサポートを希望する母親たちの声を受け、政府はまず、家庭における託児支援策の強化に着手した。その代表的なものが「認定保育ママ(Assistantes maternelle)」である。
これは、一定の要件を備えた者を「保育ママ」として認定、登録する制度(注6)。認定を受けた保育ママは、親と雇用契約を結び、その親の家かもしくは自分の家で子どもの世話をする。現在、認定保育ママとして登録している者はおよそ34万人。ちなみに、認定保育ママを利用する親は、保育ママの賃金だけでなく社会保険料も負担しなくてはならない。こうした費用は、「乳幼児迎え入れ手当」(注7)から「6歳未満の子どもの保育費用」として補助されている。この認定保育ママが、現在のフランスの保育サービスの約7割を担っているとされる。しかし、手当があるとはいえ親の経済的負担は大きい。
今回のプランでは、育児サービスの多様化の一環として、「出産休暇の柔軟化」も提案された。現在、女性は出産前に6週間、出産後に10週間の出産休暇を取得する権利がある。しかし政府は、出産後の若い母親が新生児とより多くの時間を過ごせるようにするために「計16週の出産休暇のうち13週を自由裁量に委ねる」という、規定の緩和を提案している。妊娠経過が順調で本人が希望する場合、医師の同意のもと、出産前の休暇の一部を出産後に振り替えられるようにするというもの。この点については、医療専門家および労使代表との間で協議が予定されている。
経済的支援中心から、保育サービスの多様化にも着手したフランスの両立支援策。今後、このプランが実際にどのように実行されるのかが、注目される。
注
- フランスで3~6歳の子どものほぼ100%が幼稚園(Ecole Maternelle)に通う(法律上就学が義務付けられる年齢は6歳)。なお、幼稚園は教育省の所管である。3歳未満の子どもを預かる施設には、公的・私的なものとが併存している。公的サービスには、自治体が組織し資金を出している託児所(Creches)があり、約18.2万人が入所している。しかし、3歳未満の人口(約227万人)に対する割合は8.0%にとどまる(2002年、EU統計局資料による)。仕事をもつ親たちにとって、幼稚園に通う前の3歳未満の乳幼児の世話が、大きな悩みの種となっている。
- フランスの家族給付は、家族手当公庫が管理運営している。家族手当公庫の財源は、企業からの拠出、一般社会税、国庫からの拠出など、幅広い。なお、フランスの家族給付及び家族政策の変遷等については、日本労働研究機構特別レポートVol.5「フランスの家族政策、両立支援策、及び出生率上昇の背景と要因」に詳しいので、参照されたい。
- OECD加盟24か国(1人あたりGDP1万ドル以上)における女性労働力率と合計特殊出生率は、「労働力率の高い国ほど出生率が高い」という正の相関関係にある(2000年)。しかし、1970年には、出生率と女性労働力率とは負の相関関係にあり、80年代の半ばを境に関係が変化している。このことから、女性労働力率と出生率の関係は、どちらかが上がれば他方も上がるという固定的な関係にあるのではなく、両者に関係するような社会環境(施策・制度・価値観等)があり、この30年間にこれらが変化したものと推測される(男女共同参画会議の「少子化と男女共同参画に関する専門調査会」報告書「少子化と男女共同参画に関する社会環境の国際比較」2005年9月)。
- フランスの合計特殊出生率は、1990年代後半には1.7にまで低下した。その後は反転し、2003年には1.89まで回復している(日本は2003年に1.29)。
- フランスの家族給付には、いわゆる児童手当も含めて30種類もの手当があり、さらに、生活困窮者や低所得者を対象としたものではなく、一般世帯全体を対象としている点に特徴がある。
- 1977年に「認定保育ママ」資格が法で定めされ、1979年の通達により制度化された。
- 2004年に、従来の乳幼児手当、認可保育ママ雇用手当、養育手当、養子手当を再構成したものとして導入された、3歳未満の乳幼児を保育する者に対する給付。具体的には、(1)第1子から基礎手当として、月収4100ユーロ(約63万円)以下の家庭に、月165.22ユーロ(約2.5万円)を3年間支給する、(2)出産時には、出産先行手当として、826.10ユーロ(約12.7万円)を妊娠7カ月目から出産1カ月後の間に一括して支給する(所得制限あり)、(3)子ども1人の場合は6カ月まで、子ども2人以上の場合は3歳まで、父母のどちらかが職業活動を中断した場合、月347.42ユーロ(約5.3万円)が3年間支給される((1)と併給可能)、(4)保育ママを雇った場合、託児所に預けた場合との差額分を補填する――等。
参考レート
- 1ユーロ (EUR) =153.83円(※みずほ銀行ウェブサイト
2006年12月4日現在)
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