建設部門における下請を規制する法案をめぐる議論

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係

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  • 国別労働トピック:2006年11月

約250万人の雇用者を抱える建設部門は、近年のスペイン経済の成長を支えてきた最大のセクターである。しかし、その企業構造は細分化が激しく、全企業24万5000社のうち従業員数が500人を超えるのは45社しかない。一方、小規模の自営業者は50万を超え、下請の慣行が広く定着し、十分な訓練を受けずに作業に従事する労働者が増加している。以前より、こうした状況が労災事故多発の原因となっていると指摘されてきた。

こうしたなか、統一左翼(IU、スペイン共産党を中心とする左派連合)が、労働安全面での改善を目的として、建設部門における下請を規制する法整備を国会で提案。以来18カ月という長い審議プロセスを経て、2006年5月9日に下院労働社会問題委員会において法案は可決、上院に送付された。法案の主要点は以下の通り。

  • 建設部門における下請は原則として3段階までに制限し、不可抗力の場合のみ4段階まで認める。
  • 下請契約を結ぶ企業の登記を作成する。
  • 自営業者は業務を下請に出すことができない。仮に下請業者を雇ったら企業にならなければならない。
  • 企業は従業員の少なくとも30%を正社員にしなければならない(法施行1年目は10%、3年後に30%に達するよう漸次引き上げる)。
  • 工事で雇われた労働者はすべて、他の部門出身の労働者であっても、労災予防訓練を受け、その証明書を取得しなくてはならない。
  • 労働集約型の作業の場合、下請は1回のみ、専門性の高い作業の場合は3段階までとする。
  • 請負業者は下請簿を作り、工事にかかわった全企業、個々の下請契約目的、下請企業の責任社名および労働安全プランを記録する。

この法案に対し、二大労組の労働者層同盟(UGT)および労働者委員会(CCOO)は「下請法は労災予防のために不可欠」と高く評価。しかし、法案によって下請への業務委託を著しく制限される建設部門の自営業者は強い反対の意向を示した。全国自営業者協会(ATA)や全国企業経営者・自営業者協会(ASNEPA)は、憲法第38条に言及される「企業の自由」に反すると主張。大企業が下請を用いる自由を全面的に認められているのに対し、自営業者は差別的な扱いを受け不利を被る、このままでは多くの自営業者が廃業に追い込まれかねない――として、国会各会派に対して法案修正を求めていた。こうした小規模自営業者の不満の背景には、建設部門における重大な労災事故の責任が自分たちだけにあるのではなく、むしろ大企業にこそ責任があるのではないかという認識もあった。

その後、こうした自営業者側の意見を取り入れた修正3点を追加。9月20日、上院労働社会問題委員会は、修正案を可決した。今回の修正案に対し、労組側からは「下請け法が事実上骨抜きになった」という意見も出ている。修正案に追加された3点は、以下の通り。

  • 自営業者は業務を他の自営業者や企業に下請に出せないとした条文を削除。
  • 元請負業者および下請業者に対する、労働者の一定割合を正社員とする義務付けを廃止(雇用の自由に反するとの観点から)。
  • 上記2点の修正により、法案の中で自営業者を特別扱いするのは無意味になったとして、自営業者への特別な言及を削除。

法案が最終的に可決されるまでには、上院本会議での審議を待たなければならない。建設部門が国内経済の主たる牽引力であると同時に、労災事故が多発しているスペイン。今回の下請規制法案の行方が注目される。

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