フレキシキュリティの意義に関する労使の見解

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係

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  • 国別労働トピック:2006年11月

欧州労連(ETUC)、欧州産業経営者連盟(UNICE)ともにフクキシキュリティの共通の定義や見解が確立されておらず、議論を要するという立場にある。

労働組合側の見解

ETUCはフレキシキュリティに関する議論に参加することに前向きではあるが、厳密な意味でこのコンセプトがどの範囲までカバーするのか、実際にどのように適用されるのかについて、重要な問題が残っているとしている。

その上でフレキシキュリティの議論には、バランスのとれたアプローチが必要であるとする。すなわち企業だけでなく労働者にとっても利益となるWIN-WINの関係になるものを望んでいる。フレキシビリティがセキュリティに先立つようなものは受け入れられず、バランスのとれたアプローチを求めている。

労働組合側からみれば、フレキシキュリティは、時として労働者側の利害に反する概念として写る。というのは、採用と解雇を簡単に繰り返すことができる規定につながったり、有期雇用、パートタイム雇用、請負契約の言い換えであったりするからだ。実際にそのような雇用形態が増加する傾向にある。

企業経営が短期間での投資家への配当に過敏になっている世界では、セキュリティは実現、確立しにくい概念となっている。そのような中でフレキシキュリティにおける、セキュリティの追求は困難な状況となっている。労働市場や職場で何が起こっているのかという観点だけでは十分に議論できない。福祉国家において、失職した場合、どのような変化のプロセスをたどれば人々に信頼を提供できるのかという観点で考える必要がある。フレキシキュリティは強い社会的支援と労働者の転職を積極的に支援する方策をともなうものでなければならない。

経営者団体の見解

UNICEはフレキシキュリティの議論を、リスボン戦略の達成という観点で捉えている。すなわち、成長と雇用の増大を達成するためには、労働(work)のプロセスを現代化する必要性があり、その意味で、フレキシキュリティの議論とイノベーション政策は強く関連するとしている。

経営側から見れば、欧州の労働市場は適切に機能していない。不必要に厳格な労働法がビジネスの発展を妨げ、流動性の欠如がグローバル化や技術的なイノベーションにかかわる調整コストを増加させている。より多くの仕事を創出することと、生産性を向上させることがトレードオフの関係となっており、一種の罠にはまってしまっている。しかし、両者の両立は可能である。

フレキシキュリティのアプローチには経済政策と社会政策の適切な融合(mix)を伴う包括的な国家戦略が求められる。すなわち、解雇に対する保護に関して適切なルールを備えた柔軟な労働法が必要である。企業は異なるニーズに対応できる多様な雇用形態を望んでいる。その上で、効果的な積極的労働市場政策の実施を期待している。雇用フレンドリーな社会保護システムも必要である。それは失業者の権利や義務を踏まえた失業保険システムを意味する。

欧州の労働市場の弱点を見極め、改善することが必要である。そのためには、国家レベルの意思決定を明確化することを求める。すなわち、UNICEは国家レベルの改革プログラムの実施に関するレポートが提示されることを期待している。欧州における国家モデルの横断的な一般化を信じてはいないからである。欧州委員会が重要な役割を果たしていることは否定しないが、EUレベルでの共通の労働市場政策の効果は限られたものである。欧州委員会は政策を着実に実効していくために、それぞれの加盟国で行われる改革の監視役としての役割を果たすべきである。フレキシキュリティ・アプローチの幾つかの主要な内容を結びつける定義づけをするためには、欧州ソーシャルパートナーが加盟国それぞれの違いを明確化する必要がある。

フィンランドの企業連盟の専務理事は、次のように述べた。欧州諸国には、失業のリスクに対応する多くの社会保障システムがあり、その上、解雇に対する強い保護もある。このようなシステムは、失業を増加させ、長期化させる要因となっている。労働市場を発展させ、失業を減らさなければならない。企業経営にとって機会や選択肢が広がることは、ヨーロッパの競争力の強化につながる。激変する市場の中で最善の方策を見出すことができるように、ヨーロッパの法制度を整える必要がある。

参考

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