中小企業を対象とする社会保険料の企業負担免除を発表
―中小企業における雇用促進で、「著しい格差」の解消を目指す

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係

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  • 国別労働トピック:2006年10月

2006年8月31日、フランス政府は新たな雇用プランを発表。ド・ヴィルパン首相が掲げる「雇用のための闘い」は、第3ステージをむかえた。今回のプランの目標は、「著しい格差」(注1)の解消。その柱として政府は、中小企業を対象に低賃金労働者の社会保険料の雇用主負担全廃の方針を打ち出した。労組側は「低賃金労働者の数が増大し、大企業と中小企業との格差がさらに拡大する」など反発を強めると同時に、与党UMP(国民運動連合)内からも、度重なる雇用主負担の軽減措置による財政難を危惧する声があがっている。

政府は今回の雇用プランの柱として、中小・零細企業で働く低賃金労働者の社会保険料のうち、企業負担分を免除する方針を示した。具体的には、従業員数20人未満の企業でSMICレベルの賃金で働く労働者にかかる社会保険料(注2)の企業負担を全て廃止する。中小・零細企業における雇用促進が狙いで、2007年7月1日から開始する予定。

この免除措置に対して労組は、「雇用に対していかなる効果ももたない」と反発。CGT(労働総同盟)は「この新たな措置が実施されれば、SMIC水準で働く者の数を増大させるだけ」とし、CFDT(フランス民主労働同盟)も「この免除措置によって、中小・零細企業と大企業との間の『不平等』がさらに増大する」と強く非難した。

現在、フランスにおける従業員数20人未満の企業は230万社。フランスの企業数全体の96%を占め、580万人を雇用している。今回の免除措置は、年換算で総額6億ユーロに相当するとされ、国はこの額を企業にかわって負担することになる。

1990年代以降、フランスは「時短と雇用と社会保障保険料の軽減を組み合わせた仕組み」(注3)で、ワークシェアリングの推進による雇用創出を図ってきた。その背景には、「保険料の企業負担分が重い」というフランスの社会保障制度が存在する(注4)。社会保障費の収入の過半が保険料で賄われ、かつ、その保険料の半分近くが事業主の負担となっている。このことが、企業の新規雇用意欲を阻害していると指摘されてきた。そこで政府は、パートタイム労働誘導促進策(注5)や週35時間制導入促進策等(注6)として、断続的に雇用主負担の軽減措置をとってきた。その結果、国家予算は非常に厳しい状況にあるというのが現実だ。

こうした状況を背景に、今回の免税措置については、与党UMP内からも「現在でも歳出が歳入を16%も上回るなど、国家予算が危機的状況にある。財政の立て直しこそが最優先課題。こうした状況にもかかわらず新たな免税措置を導入するのならば、国が負担するのではなく、企業負担を前提として調整すべき」という声があがっている。

フランスの失業率は、15カ月連続で低下している(注7)。政府の掲げる最終目標は、「2007年末までに失業率を8%未満にまで引き下げる」こと。この目標達成に向けて、失業解消がなかなか進まない層に対するテコ入れが求められている。政府は、「雇用の回復から取り残された者」――(1)低学歴・資格を持たない若年者(2)資格は持っているがZUS(脆弱都市とされる問題の生じやすい地域)(注8)に居住している若年者(3)長期失業者――の全てを再び雇用へ向かわせるひとつの手段として、中小・零細企業における雇用促進に強い期待を寄せている。

しかし、今回の免税措置の導入は、労組が主張するように「SMICレベルの雇用の促進」に繋がる可能性も否めない。これまでの雇用主負担の軽減措置についても、パートタイムという「不安定な雇用」や労働条件が厳しい雇用、低賃金雇用を増やしたに過ぎず、長期的な視野にたった失業対策が欠落しているとする意見もある。

政府は、「機会の平等を中心に据えた雇用政策」(注9)で「著しい格差」の解消を目指すが、その道程は険しいものとなりそうだ。

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