労働保険給付、一時払いから年金払いへの変更を検討

カテゴリー:高齢者雇用労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2006年1月

高齢者、障害者、遺族を含む被保険労働者への労働保険給付は、現在、労働保険法の規定により一時払いで実施されている。しかし、台湾では近年、全人口に対する60歳以上の国民の比率が年々高くなっていること、低金利時代に突入したこと等を理由に、引退後の高齢者の生活保護という視点から、一時払いは合理性に欠くという意見が多く提出されるようになっていた。

労働者退職給付制度は、労働基準法の規定に基づき実施されてきたが、2005年7月1日の制度変更で、一時払いから労働者年金法に基づく年金制度に変更したことは既に報じている通りである。その影響もあり、被保険労働者は次の理由により現行労働保険法の一時払いの規定について下記の点に関して懸念を表明している。

  1. 一時払いはインフレによる減価や、個々人の財務管理の悪さによりたちまち底をつくことになる可能性がある。したがって、この制度では労働者と労働者の被扶養者の長期的な生活が適切に守られない。
  2. 就業不能給付の受給者は被保険労働者本人に限定されている。重大な就業不能が起きた場合、就業不能者の被扶養者の生活が影響を受ける。
  3. 高齢者への給付は、年齢、勤続年数、退職要件を満たしている者しか受給することができず、勤続年数要件を満たしている早期退職者にはこの給付を受ける資格がない。そのため、この人々の生活が守られない。
  4. 現在でも死亡した労働者の被扶養者には死亡給付金の受給資格がある。しかし、被扶養者の人数は考慮されない。被扶養者の人数にかかわらず、世帯には同額が支払われている。

行政院労工委員会(CLA)は、上記の被保険労働者からの声を受け、「労働保険年金制度計画委員会」を3年の期限により設けることを発表した。委員会では、学者、専門家、労使代表、関係政府機関が定期的に招集され、妥当な保険年金制度の改革計画を話し合う。現在までの議論で、新しい年金制度案では高齢者の問題が最優先事項になってきた。申請資格者、給付、条件、基準、金額の調整などの項目が重要視され、これらの項目はすべて労働保険法修正案に盛り込まれた。高齢者のための新しい年金制度の重要点は以下のとおりである。

  1. 申請有資格者
    高齢者のための年金給付が実施される前に労働保険に登録されていた者はこの年金制度の適用を受ける資格がある。こういった人々に関しては、有効保険年数が認定され、新しい年金制度か引退時の一時払いのいずれかを選ぶ選択権が与えられた。新制度実施後に労働保険に登録された者は、新しい年金制度を選択しなければならない。
  2. 条件
    労働保険への登録が20年以上で引退時に60歳になっている被保険労働者は、年金給付の支払いを申請することができる。引退時に60歳になっていない被保険労働者は、60歳になったら年金給付の支払いを申請することができる。
  3. 基準
    被保険期間1年につき平均保険月給(average monthly insured salary)の1%が年金として支払われる(すなわち、被保険期間1年に対する「所得置換率」は1%である)。
  4. 平均保険月給の計算
    数値は被保険者の保険月給と高齢者年金給付の受給要件を満たしている被保険期間全体の平均保険月給を基準に算定される。
  5. 老齢一時払いの基準
    年齢が60歳以上であり、労働保険への登録年数が20年未満の被保険労働者は、労働保険への登録年数に基づき計算される一時払いの受給資格がある。被保険年1年につき平均保険月給1カ月分が支払われる。
  6. 被扶養者の受給権
    年金受給期間中に被保険者が死亡した場合、その被扶養者が当該年金を所定の割合で受給する資格を有する。
  7. 支払額の調整
    長期的購買力を確保するため、年金額はCPI(消費者物価指数)と被用者の実質所得の年引上げ率をそれぞれ50%ずつ斟酌して調整される。
  8. 保険分担金
    保険分担金は現行制度に従って支払われる。
  9. 実施日
    年金制度は新しい制度であるため、公表と準備のタイムフレームを選択しなければならない。最終的な実施日は行政院が決定する。

労働保険法修正案に盛り込まれた上記の労働保険年金制度は、2003年4月に三読会制審議にかけるために立法院に送られた。しかし、当時立法院は休会に入るまでにこの修正の審議を完了することができなかった。その結果修正案は再びCLAに戻された形となっていた。CLAは、年金制度に関して、台湾の労働者のニーズと高齢、就業不能者、労働者遺族に対して先進的な取り組みをしている海外の国々を調査して、上記の高齢者年金制度に加えて就労不能労働者とその被扶養者などへの給付ついても、労働保険法の修正案に盛り込む計画を立てている。就業不能労働者とその被扶養者のための年金制度は高齢者のための年金制度と調和していなければならないため、一層複雑である。

CLA は、学者、専門家、労工保険局(BLI)に対して老齢年金制度の現行基準について討議するように何度も求めてきたことを表明した。

現在計画されている労働保険年金制度に関する新たな作業には次のものがある。すなわち、意見の一致の必要性、就業不能者のための年金、高齢者のための年金、被扶養者のための年金、労働災害年金、ほぼ完成されて詳細を待つ国民年金の計画との連動、労働保険法の修正にすでに盛り込まれている関係法規との連動――などである。CLA は、こういった計画すべてが、近い将来の包括的な労働保険年金制度の下で確立されることを目指していると表明している。

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