年金委員会、公的年金改革に関する報告書を提出

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2005年11月30日、年金委員会は公的年金改革を内容とする報告書A New pensions settlement for 21st centuryを政府に提出した。(注1

英国の年金制度と年金危機を取り巻く状況

英国では義務教育終了年齢を超えるすべての雇用労働者は退職基礎年金に加入する義務がある。その上で労働者は基礎年金に加え、二階部分の年金として(1)所得比例である第二国家年金(国民保険)、(2)職域年金(企業年金)(3)個人年金、(4)ステークホルダー年金のいずれかを選択する(図1参照)。

英国の年金制度の特徴の一つに公的年金への依存度が極めて低い点が挙げられる。先進国では高齢化が進むにつれ、公的年金負担が高まっていくのが一般的だが英国では逆に低下する傾向がある。OECDの試算によれば、1995年に日本11%、英国4.5%であったGDPに占める公的年金支出の割合が、2050年には日本は15%まで上昇するのに対して、英国は4.1%に低下する。これは英国の公的年金の給付水準がもともと低かったこともあるが、80年代サッチャー政権下で公的年金を私的年金で代替する措置が採られてきた年金改革に負うところが大きい。さらに97年に政権についた労働党も、基本的にこの方針を継承し、「脱公的年金」を進める方向で年金改革を行ってきた。

政府が2002年に発表したグリーンペーパー(政策協議書)は、2050年までに年金受給者は500万人増えて1600万人になり、65歳以上の年金受給者の全人口に占める割合は2000年の24.4%から39.2%へと跳ね上がると予測している。年金受給開始年齢を引き上げるか積立金を増やすかしない限り現役世代の負担増は免れない。現行の公的年金の受給開始年齢は、男性65歳、女性60歳。(注2)

年金委員会は、国家年金受給年齢が据え置かれた場合、給付は2050年までに現在よりも国内総生産の1.5%増のコストがかかると試算している。

報告書の概要

今回発表された報告書は2004年10月に出された中間報告に続く、最終答申として公表されたもの。英国の年金制度は公的年金の給付水準が低いことと受給要件が厳しいことが特徴。報告書では低所得者層を中心に老後の蓄えが十分でない人が1200万人以上いるとして、公的年金支給開始年齢の引き上げや国民年金貯蓄制度導入などを提言している。同報告書に対して政府は一定の諮問期間を設けた後、2006年中にも方針を示す予定。

報告書で提案された主要な改革案は以下の通り。

  1. 公的年金支給開始年齢の引き上げ

    公的年金支給開始年齢を現行の65歳から、2030年までに66歳に、2040年には67歳、2050年までに68歳へと段階的に引き上げる

  2. 基礎年金の引上と受給要件の変更

    資力調査(ミーンズテスト)を伴わない形式での基礎年金を引上

    基礎年金受給要件を現行の拠出要件から居住要件に変更

  3. スライド方式の見直し

    現行の物価スライドに加え賃金スライドを導入

  4. 国民年金貯蓄制度(National Pensions Saving Scheme-NPSS)の導入

    被用者は自動的にNPSSに加入し税引き後所得の4%を積み立てる。企業は3%、国は1%を負担

政府の反応、2006年以降の対応に注目

委員会の提言に対し、ブランケット前雇用・年金相は「個人の蓄えを増やすのが1つの解決方法」との見方を示したほか、ブラウン財務相も財政負担の増大を理由に難色を示しており、今回の報告がどこまで政策に反映されるかは未知数だ。

一方ブレア首相は前保守党政権から繰り返されてきた制度改革によって複雑化した年金制度をより簡略にすると明言しており、2006年4月より実施される予定の新たな簡素化された年金税制の導入に伴い、何らかの制度改革がなされるものとみられている。図1

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