労働協約自治システムをめぐる労使の論争

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2005年9月

ドイツで9月18日に予定されている総選挙を前に、広域労働協約(Flaechentarifvertrag、産業別・地域別に一律に適用される団体協約)の適用のあり方について、政党および労使の間で論議が高まっている。企業または事業所ごとに広域労働協約の内容にとらわれない労働条件の取り決めを可能にするシステムの弾力化は、かねてから主に使用者側によって主張されてきた。今回の選挙では、野党であり現在もっとも支持率の高いCDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)が、選挙プログラムに使用者側の主張を取り入れ、企業経営者、事業所委員会および従業員の合意を前提に、広域労働協約当事者(主に労働組合および使用者団体)の同意を得ずに独自の労働条件決定ができる仕組みを設けるとした。これに対し労働組合側からは、労使自治を弱体化させるとして強い反発が出ている。

CDU/CSUが7月11日に発表した選挙プログラムでは、労働協約法に定められている「有利原則」(原則として個別事業所の労働条件が労働協約を上回る取り決めを可能とするが、下回ることは予定していない)の実質的な修正が提起された。現行の制度では、個別事業所が労働協約から「逸脱」した労働条件を設定するためには、協約においてあらかじめ例外規定が設けられ、そのうえで産別労組、使用者団体といった協約当事者の同意を得ることが必要だ。CDU/CSUはこれに対し、「雇用の安定あるいは創出に資する場合、個別企業経営者と従業員は、労働協約を逸脱した内容を個別に契約する取り決めを結ぶことができる」規定を加えるとしている。手続きとしては、事業所委員会の同意と従業員の3分の2の同意をもって、このような取り決めを有効にするとし、事業所組織法にもこの規定を盛り込む考えだ。

このような方針は、ドイツ使用者連盟(BDA)がかねてから主張しており、今回の選挙に向けてのBDAのポジションペーパーにも盛り込まれている。政党では、CDU/CSUと連携している自由民主党(FDP)も同様の立場を取っている。FDPの選挙プログラムは、「労働協約の規定からの逸脱について、事業所の75%の従業員の賛成、あるいは事業所委員会の同意があれば、その逸脱が可能とされなければならず、労働協約当事者はそのような個別企業の取り決めを妨げてはならない」と記している。

このような野党および使用者団体の主張に、労働組合からは反発の声が出ている。ドイツ労働総同盟(DGB)のM・ゾマー会長は、新聞のインタビュー(ヴェルト・アム・ゾーンターク紙、8月7日付)で、「CDU/CSUとFDPに対して、労使自治あるいは共同決定といった労働者の権利を侵さないように警告したい」と述べ、広域労働協約が「事業所における賃金をめぐる紛争を避けるといった調停機能を果たしてきた」と、現行システムの意義を強調した。

鉱業・化学・エネルギー労組(IG-BCE)のH・シュモルト委員長も、「ドイツでは、事業所内でのストライキは外国に比べ明らかに少ない。これは広域労働協約と労使の社会的パートナーシップのおかげだ」と、ゾマー氏と同様の見解を述べている(ディ・ヴェルト紙、8月6日付)。シュモルト氏はそのうえで、CDU/CSUが労働組合の影響力を明らかに弱めようとした場合には「激しい政治的論議を引き起こす」とし、さらに「必要な場合には、政治的決定に影響を及ぼすべく、職場放棄を呼びかけることもあり得る」と述べた。このシュモルト氏の発言に対しては、BDAのD・フント会長が「政治的なストライキの脅迫」であると反論している。

シュモルト氏が強くCDU/CSUなどの提起を批判する背景には、ドイツの労働協約適用状況の弾力化がすでに進行しているという認識がある。IG-BCEは機関紙で、「化学産業においてはすでに10年間以上にわたって、協約システム改革が導入されている」とし、協約適用の個別化や弾力化が進んでいると主張。事業所ごとに弾力的な労働条件設定を可能にする規定(開放条項)の利用によって、企業の存立基盤や雇用の安定に寄与していると述べている。さらに、経営側でも、ドイツ産業連盟のJ・トゥーマン会長や金属産業の使用者団体ゲザムトメタルのM・カーネギーサー会長などから、広域労働協約の機能と労使による個別化・弾力化の取り組みを評価する発言が出ていることを紹介し、現在の「ドイツモデル」の有効性を訴えている。

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