「中小企業」発展戦略と複雑化する労使関係の現状

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2005年9月

中国では改革開放以来、「先ず豊かになるものが豊かになる」という考え方に基づき、大企業が国家の経済政策の中心を担うことで経済の市場化は急速に進められてきた。市場化の進展は、私有化経済の拡大をもたらし、そういった中、近年では中小企業(注1)の役割が注目されている。

社会科学院の調査によると、2001年末の時点で、従業員数が1000人以下の企業数は300万社以上で、中国企業全体の99.4%が中小企業であった。また、従業員数が50人以下の企業は248.5万社で82.1%を占めている。さらに、別の調査でも全国GDP(国民総生産額)の50.5%を中小企業が生み出していることが報告されている。中小企業が市場経済の発展に及ぼす影響は大きい。

政府は、現在、「抓大放小」(大企業に厳しく、中小企業にゆるく)方針に基づく企業戦略を打ち出して中小企業に新しい発展と挑戦の機会を提供している。しかし、これによる企業の分裂と再編は、労使関係の複雑化をもたらし、中小企業の発展にマイナス影響を与える可能性を一面で潜ませている。

中小企業発展の阻害要因

中小企業では、労使間の責任、権利、利益関係が合理的に確定されていない、労働管理が規範的に整備されていない、企業内管理システムの欠如による調整メカニズムの不調という問題が原因となって労働争議が頻発している。

労働争議発生の背景も国有企業と非国有企業では若干異なる。たとえば、国有企業では、構造調整、経営方式改善のため閉鎖、生産中止、合併・譲渡、賃貸借、請負、売却等の影響で経営が苦境に陥り、深刻な赤字をだし、従業員の給与や医療保険料の未払いなどの問題が発生し、騒動争議に発展しているケースが多い。そして、株式制度の導入は企業の労使関係を大きく変化させた。

一方、非国有企業の場合は、多くの私有企業がいまだ資本蓄積の初期段階にあるため、雇用主が余剰利益を獲得しようとして人件費節減のほか労働契約の不履行や頻繁な解雇などの違法行為を行い、従業員の権利を侵害している。その結果として集団的作業停止、ストライキといった争議を引き起こしている。

このように国有企業と非国有企業では争議発生の背景に違いはあるものの、中国の中小企業では、1)労働契約、2)労働報酬、3)社会保障加入、4)労働保護と労働時間、5)労使関係の調整――等5つの問題の解決が労働者権利保護の観点から急がれている。

中小企業が抱える五つの問題

  1. 労働契約について、1)建設業を中心として締結率が低い、2)労働契約に記載される双方の権利と義務が対等ではなく、従業員の違約責任のみを示し企業の違約責任が記載されないなど契約締結にあたり違法行為や不公平な行為が多く見られる、3)労働契約解除の際に経済的補償を支払わないなど契約の履行が確実でないことが指摘される。これは、雇用主の法律遵守の意識が低いということと労働者が法令についての知識をもっていないという両面から引き起こされる。

  2. 労働報酬については、低い給与水準、期限どおり支払われないなどの問題がある。特に、国有企業や集団企業の小規模企業では経営不振や破産による給与未払い問題が深刻である。私営企業では、経営者が家庭管理方式を採用して名目を設け給与を天引きしているケースが目立つ。外資系企業の中には、倒産する際、資金を密かに国外に持ち去り、従業員の給与支払いは回避するやり方を採っている企業もある。

  3. 中小企業の社会保険加入状況は不良である。国有や郷鎮集団企業は経済的に社会保険料を支払う能力を持ち合わせていない場合が多い。一部の個人経営・私営企業、外資独資企業は保険料を支払わず、あるいは虚偽の報告で保険費用を抑えるなどの行為をとっている。政府は個人経営・私営企業の社会保険加入を奨励し保険料の優遇政策をとってきたが、それでも絶対多数の個人経営・私営企業の雇用主は従業員のための保険に加入しようとしない。今日では中小企業の社会保険加入問題は労働争議の案件となることも多くなり、日々顕在化しつつある。一部の地方ではすでに争議案件のトップとなっている。

  4. 中小企業では従業員への安全管理が劣る傾向にある。死傷事故が頻繁に起きている。また、職業病の問題も深刻化である。雇用主の安全管理への意識はまだ低く、作業に有害物質が使われ、保護具の着用も普及していない。作業場、倉庫、宿舎が同じ場所にあるなど、従業員の労働環境には事故の危険性が潜んでいる。労働時間についても「労働法」は1週40時間を定めるが、1日の平均労働時間が11時間を超え、毎週6日から7日間働かされるケースが報告されている。その一方で超過勤務した従業員への残業代の支払いはない。

  5. 企業内労使関係の調整システムの整備状況はまだ発展途上にある。工会は、企業に集団契約のサンプルを提示し、企業は締結を行うが、その内容は国の関連法規のコピーや別の企業のものの借用であるなど当該企業の実情を少しも反映していない場合が多い。一部企業では集団契約と労働契約の明確な区別を持たず、集団契約を労働契約に代替させている場合もある。私営企業では集団契約を締結していないケースが多い。国有や集団企業を中心に、一部中小企業では労働争議調停制度が構築され、企業労働争議調停委員会が設置されている。しかし、問題も多い。まず、従業員自身が調停委員会の存在と役割を認識していない、企業幹部も調停委員会の存在を無視している場合が多い、さらに調停員も訓練研修をうけていないため調停能力が全体的に低い、調停員自身が従業員であるため、従業員の立場にたって調停にあたると解雇されるリスクが高いーー等である。

期待される中小企業の発展

政府は、2003年の全国人民代表大会での国務院機構改革案採択をうけ、中小企業局を国家レベル、省・直轄市や市、県など各級レベルに設置し、資金融資や信用担保など中小企業振興政策に力を注いている。そういった中、中小企業経営についての「人と組織」に関わる情報提供やガイドラインの作成、管理監督体制の整備といった分野の制度と意識の確立が期待されている。

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