労働者退職年金制度の新旧制度移行期の支払清算をめぐる諸問題

カテゴリー:高齢者雇用労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2005年7月

7月1日から新「労働者年金法」が施行されている。その対象となるのは、台湾の約40万企業と約800万人の労働者たちである。施行を目前に控えた台湾では、企業が労務コストへの影響を懸念する一方、労働者も条件の低下や権利の侵害を懸念するなど、新旧年金制度転換の過渡期でのさまざまな問題が噴出し、議論が巻き起こされた。

中央政府レベルの行政院労工委員会(CLA)、直轄市レベルの直轄市政府、県/市レベルの、県/市政府を含む監督官庁は、新しい労働者退職金制度を円滑に開始させるため一連のプロモーション活動を実施してきた。さらに、労働組合、産業的労働組合、商業労働組合、中小企業協会、会計・保険学会、企業経営コンサルタント会社等を含む多くの関係団体は、ブリーフィングを繰り返し実施することでその内容を紹介してきた。そういった中で、特に、労働者年金法第11条と13条に基づく「旧労働者退職制度の清算」に関する事項は、企業の労働コスト削減を手助けするものとして、多くの経営管理コンサルタント会社にとっては大きなビジネスチャンスとしてみなされ注目されている。

同法11条によると、労働者年金法施行以前に労働基準法(いわゆる旧制度)の適用を受けていた被用者が、施行後も同じ企業で就労し、同法に基づく年金制度(いわゆる新制度)の適用を受けることを選択する場合、同法施行前のこの被用者の退職年金の支払に関する勤続年数は継続されなければならない。

また、労働契約期間中、使用者と被用者は、前段で言及したように継続された被用者の勤続年数の清算を合意することができる。ただし支払いの清算は、労働基準法の第55条(主として就労年1年に関して2カ月分、15年目より後は年1カ月で、合計月数は45カ月を超えない)と第84-2条(基本的に一労働者の勤続年数は雇用1日目から計算される)に基づく支払いより不利になってはならない。

一方、労働者年金法第13条に従い、被用者の年金を保護するため、使用者は、労働基準法に基づく退職年金制度の適用を選択する(いわゆる旧制度を選択する)被用者と、労働者年金法施行前の勤続年数が継続される(いわゆる新制度を選択し、旧制度の勤続年数を留保する)被用者の数、賃金、勤続年数、離職率に基づいて年金基金の積立率を計算しなければならない。使用者は、労働基準法に従って、「退職準備基金」が被用者の退職年金の支払いに十分な額になるまでの範囲で、5年間毎月この基金の積立を継続しなければならない。さらに、上記の11条に従って使用者と被用者との間の合意により継続される旧制度の勤続年数は、労働基準法に従って設けられた退職準備基金勘定で精算することができる。

問題は、労働基準法の適用を受ける企業の約90が「退職準備基金」を支払っていなかったことである。そのため、第11条と13条は、大半の使用者に大きな負担感を抱かせ、企業、学識者、さらに一般大衆までも含めて、広く取りざたされてきた。この負担を回避するため、被用者の以前の勤続年数を考慮した退職年金を、最低額または割引額で支払うことができれば、使用者は希望がもてる。そのため、多くの企業経営コンサルタント会社は、企業に対し、あらゆる手段でこの負担を回避するように奨励または指示してきた。 企業が不正な手段で労働者の権利を妨害しないよう、最近CLAは、労働者年金法の上記の2つの条項に関して次の内容を発表した。

1. 勤続年数に関する問題

(1) 新労働者年金制度の実施前に勤続年数を清算することはできない

労働基準法を含む現行の労働諸法には、使用者と被用者が勤続年数を清算する措置をとれるか否かに関して、この問題を明示する規則や行政説明はない。しかし、CLAは、労働者年金法(新制度)実施への対応として労働基準法(旧制度)の適用を受ける被用者の勤続年数を清算しようとしている企業には、今年7月1日の新制度の正式な実施の前にこのような措置をとる法的根拠はないと語った。換言すると、CLAの発表によれば、新制度が実施される前の使用者と被用者の合意に基づく勤続年数の清算には法的根拠がない。この条件では、この問題に関係する紛争が起き、司法判断の場に持ち込まれ、上記の見解が覆されでもしない限り、新制度実施前に勤続年数を清算する実質的な利益はない。

(2) 旧制度の勤続年数の清算に関する支払基準は、労働基準法第84-2条に定められた上記基準を下回らない

労働者年金法第11条に従い、被用者の以前の勤続年数の清算は、使用者側についても被用者側についても強制ではない。すなわち、清算措置は、使用者と被用者で交渉して実施しなければならない。さらに、清算合意が成立したとしても、労働基準法第55条と第84-2条で定める基準を下回る条件での支払いは法に違反する。

(3) 旧勤続年数清算の財源

使用者と被用者との清算合意に基づく退職年金の支払は、現在中華中央信託協同組合(Cooperation of Central Trust of China)が運営する旧制度の労働者退職準備基金(Labor Retirement Preparation Fund)で実施することができる。しかし、勤続年数の清算支払の基準が労働基準法に定められた基準を下回る場合、清算される退職年金は旧制度の労働者退職準備基金勘定から支払うことはできない。企業が、旧制度を選択した被用者と旧制度の勤続年数の継続を選択した被用者に関するすべての支払いを労働基準法第55条と第84-2条に定められた基準に従って完了すれば、その後使用者は旧制度の労働者退職準備基金に拠出しなくてもよくなる。また、地方政府機関から承認を受ければ、使用者は労働者退職準備基金勘定から残額を引き出すことができる。

(4) 年次特別休暇は勤続年数と同じように清算することはできない

労働者退職についての特別法と見なされている労働者年金法は、現行の労働者退職準備制度を改善し、労働者の退職後の生活の保護を確保するために制定された。そのため、論理的に、同法は労働基準法に基づく特別年次休暇とはいかなる関係もないと見なされている。労働者が権利を有する、勤続年数に応じて計算されるいわゆる特別休暇は、労働基準法で明確に定められている。使用者と被用者は、旧制度に基づく勤続年数の清算を交渉することはできるが、特別休暇の計算に関する勤続年数の清算は法では認められていない。換言すると、使用者と被用者が、労働者年金法と労働基準法の関係条項に定められた基準に従って、旧制度に基づく被用者の勤続年数を清算することで互いに合意しても、年次休暇の計算に利用される勤続年数は対象にはならない。

2.5年間の退職準備基金への全額拠出に関する問題

現行労働基準法第56条に従い、使用者は毎月一定額を控除して、労働者の退職年金の支払いのための準備金として特別勘定に預託しなければならない。同条項は使用者に、現行の「退職準備基金拠出・管理規則」に従って、労働者の勤続年数、給与構造、離職率、推定退職者数などの要素を考慮した上で、毎月被用者の給与総額の2%から15%を労働者退職準備基金に拠出することを義務付けている。それゆえ、労働者年金法第13条は、被用者(旧制度)の退職年金を保護するため、使用者が、労働基準法に基づく退職年金制度の適用を選択する被用者と、労働者年金法が適用される前の勤続年数が継続された被用者の数、賃金、勤続年数、離職率に従って、退職準備基金の積立率を計算することを定めている。使用者は、労働基準法に従って、「退職準備基金」が被用者の退職年金の支払いに十分な額になるまでの範囲で、5年間毎月この基金の積立を継続しなければならない。また、労働者年金法第50条に従って、上記の同法13条に違反する使用者は、2万台湾ドル以上の10万台湾ドル以下の罰金に処せられる。一方、再犯罰の制度が適用される場合がある。

問題はすでに述べたとおり、約90社の企業が「退職準備基金」を支払っていなかったことであり、これは、旧制度から新制度への転換に関する重要な要素のひとつである。また、使用者が費用負担圧力を感じ、旧制度に基づく被用者の勤続年数をより少ない支払額で清算したがっている主な理由でもある。

これまでのところ、CLAは、試算ツールを企業に提供するため、CLAのウエブサイトにインターネット試算を設けた。企業は、旧制度の拠出率を独自に計算することができる。企業に対し、計算を担当する保険数理士の雇用を義務付ける強制的な規定はない。

一般に、労働者年金法第13条は立法過程中の調整の成果に過ぎず、同条項の規定は、失敗と認められている旧制度の修正に過ぎない。労働者年金法の実施前にこの規定が壁にぶつかり、大問題になったのはそのせいである。使用者と被用者の間で勤続年数を清算する交渉メカニズムは、退職準備基金への企業の拠出と同様、移行期間中の労働者の権利の中断を防ぐためのものである。しかし、使用者の中には、交渉による清算を戦略的な義務の軽減または回避と見てきた者もいる。これから先、新しい労働者退職年金制度を前進させるのは、政府にとって、大きな責務、そして挑戦となるであろう。

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