ポーランドの建設会社(Nova-Bau社)の賃金をめぐる紛争

カテゴリー:外国人労働者労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2005年6月

ポーランドの建設会社がデンマークで事業展開

ポーランドのステティン市(Stettin)に本社を構える同国の建設会社「Nova-Bau」は、コペンハーゲンの南120kmのファルスターという町にある元農家の建物(母屋など合わせて1,050㎡)の改築改修工事を、所有者である船会社の社長に依頼され、総工費約400万クローネで請け負った。この工事のためNova-Bau社は、同社の職人8人をデンマークに派遣し、現在工事を進めている。Nova-Bau社は、過去数年間にドイツにおいても多くのプロジェクトを実施しており、同社社長はデンマークでも向こう数年で年商1億5000万クローネを超える事業展開も不可能ではないと公言している。

派遣労働者の時間給は45クローネ

Nova-Bau社がデンマークに派遣した職人の時間給は、ポーランドの国内基準に見合った45クローネだが、これはデンマークにおける当該分野の最低賃金の50%(注1)にも満たない。デンマーク政府は、旧東欧からの労働者の受け入れに関して、デンマークの法律及び労働協約に基づいた就労に限って労働許可を交付するとの基本方針を打ち出しているが、デンマークのナショナルセンターであるデンマーク労働総同盟(LO)も労働協約を遵守することが絶対の条件だとし、「労賃のダンピング」を断固として阻止する姿勢を示している。

EUの規定とデンマークの労働協約

1996年に採択された派遣労働者に関するEU指令(注2)は、企業や事業者がEU域内の他の国で事業を展開するために自国の労働者を当該国に派遣することを認めると同時に、派遣労働者が派遣先の国の法律に準じて就労することを掲げている。

しかし、デンマークでは最低賃金をはじめ労働条件等に関する多くの事項は労働協約により規定されていることを根拠に、Nova-Bau社側は時間給45クローネはデンマークの法律に違反するものではないと主張。一方、同社に対してデンマーク経営者協会(DA)に加入し、デンマークの労働協約を優先すること、若しくはデンマークからの撤退を要求するLOと真っ向から対立している。

デンマーク政府の見解

デンマーク政府は2003年12月、2004年のEU 拡大に先立ち旧東欧諸国からの労働者の受け入れに関する「東欧諸国の労働者に関する取り決め(注3)」を採択している。同取り決めは、デンマークの就労ビザ取得要件として、1)デンマークの労働協約に基づいたフルタイム就労であること、2)使用者と被雇用者の間に正規の雇用契約が締結されること、3)使用者は被雇用者の給与から所得税を源泉徴収すること――を掲げている。しかし、この取り決めは、デンマークで事業を展開する経営者が低賃金で旧東欧諸国からの労働者を雇用することを防止することを主要目的としており、デンマーク国外の使用者が派遣した労働者の賃金及び労働条件に関する規定は掲げられていない。

ピケ宣言

このような状況の中、デンマークの建築分野労働組合「TIB(注4)」は Nova-Bau社の改装改築工事をボイコットするため、5月23日の早朝から24時間体制で工事現場前にピケを張ることを決定した。TIB の決断を全面的に支持するLOは、傘下の労働組合に同情ストを呼びかけている。これに対しNova-Bau社は、ピケはEUが掲げる「労働力の自由な移動」の規定に反するものであり、欧州裁判所に提訴すると一歩も譲る気配は見えず、事態はますます深刻化の様相を呈している。

ポーランドの労働組合がLOをサポート

Nova-Bau社とデンマークの労働組合との争議に対し、ポーランドの労働組合「連帯」はデンマークの労働組合を支持する姿勢を示しており、デンマークの労働協約を尊重するようNova-Bau社に働きかけるとともに、必要ならばデンマークにおけるピケにも参加するとの公式見解を発表している。

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