「中国私営企業発展報告」第6回調査結果発表される

カテゴリー:労働条件・就業環境

中国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2005年4月

改革開放以降、進められてきた国有企業、集団企業の改革(注1)は、企業の私有化を促進させた。また、中国における私営企業の位置づけは、1997年を境にして、大きな転換を迎えた。この年「共産党第15回大会」において、私営企業は中国社会主義経済の重要な構成部分と認識されるようになった。

中共同中央統一戦線部、全国工商連、中国私営経営研究会は研究機関、大学の学者を共同で組織し「中国私営企業研究課題グループ」を結成、1993年以来、31の省、自治区、直轄市を対象に中国における私営企業の発展状況について調査を行っている。この調査は、アンケート票を配布回収し、その結果を分析するものである。過去に既に5回実施され、私営企業の動向を定点的に調査している(注2)。今回の調査は、第6回目にあたるもので、全国に3670の調査票を配布、3012票を回収(回収率821%)し、その分析を行った。有効回答数は、2003年末現在の中国の私営企業総数の1%にあたる。以下調査結果の概要を紹介したい。

1.私営企業の発展状況

2003年末現在、私営企業の数は300,55万社に達した。これは2001年時点の私営企業数と比較すると97.7万社増え、48.16%の伸びを示していることになる。そもそも、私営企業の成り立ちは、1988年に「中華人民共和国憲法」によって、私営経済の合法的地位が確定されたことに始まる。同年6月に国務院は、「中華人民共和国私営企業暫定条例」を発布し、1989年には、国家工商行政管理局は、憲法と「私営企業暫定条例」に基づいて私営企業に対する登録活動を開始した。登録開始当時の私営企業数は、9万581社であった。

1992年にトウショウヘイが行った「南方巡視」談話により私営企業の発展は加速した。

(1)私営企業の発展状況

1993年から2003年までの10年間に、私営企業は33倍以上増加し、平均年間2887%の伸びを示している(注3)。登録資本は、1993年末の68億元から2003年末には3兆5305億元に増加しており、52倍となっている。年間平均伸び率は、48.41%である。

従業員数は、1993年末には372万人であったが、2003年末にはその12倍の4299万人に増加している。また、私営企業における生産額は、1989年の422億元から2003年にはその48倍の20083億元となった。年間平均47.15%の伸び率である。さらに社会消費小売額は、1989年の190億元から2003年には56倍の1兆0603億元に増加した。この年間平均伸び率は49.51%であった。また、2003年に輸出で外貨を創出した私営企業は7万4443社に達し、金額は人民元に換算すると1749.68億元であった。これを2001年の調査時と比較した場合、企業数は35.5%の伸びを示し、金額では91.68%の伸びを示している。

(2)私営企業の地理的特徴

私営企業の発展には地域的差異が非常に大きく影響している。10万社以上の私営企業を擁する地域は、主として東部沿海地域に集中している。2003年末現在私営企業が10万さを超えている地域は下記の8地域で、全国の私営企業の6824%が集中している。

省、直轄市 私営企業数(単位:社)
江蘇省 34万3680
広東省 32万3077
浙江省 30万2136
上海市 29万1711
山東省 22万8554
北京市 18万6805
遼寧省 11万4415
四川省 11万0359
合計 190万0737

(3)私営企業経営の特徴

全国平均でみると、2003年末現在、私営企業の1社当たりの雇用労働者数は11.73人、経営幹部も含めると社員数は14.3人と、2001年と比較するとそれぞれ5.68%、6.88%伸びている。雇用労働者を100人から500人を擁する私営企業は3万4817社、500人から1000人擁する企業は3334社、1000人以上擁する企業は1130社であった。

登録資本をみると、2003年は、1社当たり117.47万元で、2001年より24.16%増額している。また、登録資本が、500万元から1000万元の企業は8万4620社あり、1000万元以上の企業は5万1830社であった。登録資本が1億元以上の企業も1156社あり、2002年の同時期と比較して498社増えている。

2.私営企業主の特徴

今回調査の調査対象となっている企業主は、男子2581人、女性418人で、私営企業主は、依然男性を主体としていることがわかった。平均年齢は、43.4歳である。学歴別では、大卒、高等専門学校卒以上の者は51.8%を占め、小学校卒、中学校卒のものも146%を占めている。職業経歴は、比較的バラエティーに富んでおり、あらゆる社会階層のメンバーから成り立っている。多くの私営企業主は、経営する前に様々な職業に従事した経験を有している。統計によると幹部(事務職、リーダー)、インテリ、企業の販売係を経験した者が多い。これに加え、過去の調査結果からは、革新の意識と創業の精神に富む新鋭勢力が私営企業家となっていることが明らかになっている。学歴も高くなっており、海外の留学生が帰国して事業を興していることもその背景にある。

今回調査では、私営企業主の33.9%が共産党員であることがわかった。そのうち、江沢民の「7.1講話」以降に入党した者は9.4%を占めている。

私営企業主個人の年間収入と家庭収入は、2003年は前回調査と比較していずれも増加している。前回調査では年間収入の平均額は138万元であったが、今回調査では20.2万元に増額しており、これは46.7%の伸び率を示している。家庭収入については、前回調査では18.5万元であったが、今回調査は26.7万元に増額、44.3%の伸び率を示した。

家庭一人あたり収入も前回調査と比較して64.1%の伸び率を示しており、明らかに増加傾向にある。私営業主の家庭生活水準はおしなべて高い。年間消費支出も7.8万元を計上し、一人あたり1.9万元の支出行為を行っている。

今回の調査結果では、私営企業主階層内部で分化が顕著に表れている。たとえば、収入最高範囲(上位20%)と収入最低範囲(下位20%)の比率は、業種個人の年間収入の指標では、46.9:1、業主家庭の年間収入の指標では38.8:1、業主家庭1人あたり年間収入の指標では39.1:1となっている。

私営業主が家庭で擁する財産は主として家庭の金融資産、住宅元値および業主が企業で擁する所有者権益の三つから成り立っている。家庭財産総額のうち、企業で擁する所有者権益が85.4%、住宅元値が8.3%、家庭金融資産が6.3%を占めている。私企業主にとって主要財産はその企業の持つ資産であることが明らかになっている。この点に関しては、1996年の調査結果以来、私営企業の主な投資家と主な管理者が同じ人であることが指摘されており、96%以上の企業でそのような傾向が見られる。また、企業の資金源からみても、私営企業の中で投資家が1人である企業が32%以上をしめており、数人の株主が共同で投資する有限責任公司の場合でも大株主は1人である状態から、経営者の個人資本の資本総量に占める比率は、年々減少傾向にあるものの、依然として経営者に資本が高度集中していることが、中国の私営企業の特徴として指摘されている。

今回の調査では、私営業主間にも所有財産に大きな格差が存在することが明らかになった。最高額を擁する範囲(上位20%)と最低額の範囲(下位20%)の格差は11.3倍から21.3倍に及んでいる。

私営業主は長時間就業を行っているという実態も明らかになっている。毎日の平均就業時間は、11.4時間であり、これは全体の47.5%を占めており、毎日18時間以上就業している私営業主もいる。

私営業主の自己評価は、周辺の人と比べ自分の経済的地位は「中間」または「中間よりやや上」であると評価するものが87.9%をしめ、政治的地位についても「中間」、「中間よりやや上」であると評価するものは74.3%を占めた。

3.今後の課題

私営企業の発展のための課題として、地域間格差のない公平で公正な経営環境の整備と安定した社会環境の整備が期待されている。具体的には、私営企業は、激しい競争圧力の中にあるため、貸付、土地収用、市場参入、製品の輸出入権の面で国有企業と同様な権利と公平な国民待遇を持つことを必要としている。

すなわち、私営企業への融資が容易には行われない現状から、東部、中部、西部地区においては、私営経済の発展の格差が拡大している。また、私営企業は、グローバル化の進展の中で、外資企業との競合にさらされている。民間投資についても、外資企業と同様の待遇を得て公平に扱われる地域とまだ外資企業とは区別され、待遇が整備されていない地域とではその格差は大きなものとなっている。今後さらに私営企業が発展していくためには、上記の点について中央政府による全国レベルでの公平で公正な法制環境の整備が期待されている。

一方、企業経営そのものについても、企業内部管理の一層の強化が必要とされている。すなわち、私営企業では利潤率が低下傾向にあることから、企業環境の一層の最適化、経営の透明性を高めることが期待される。

2005年4月 中国の記事一覧

関連情報