企業の社会的責任(CSR)への政策対応に関する調査報告

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2005年2月

中国でも「企業の社会的責任」(CSR)の問題が遡上に上がっている。2004年初めに、アメリカとEUが中国輸出企業に対して、同年5月1日からSA8000認証を強制的に義務付けるというニューズが広く伝わったことに端を発している。

SA8000とは、アメリカ経済優先許可委員会を前身とする私的組織Social Accountability International (SAI)が制定したCSR認証規準で、児童労働、強制労働、健康と安全、結社と団体交渉権、差別、懲戒措置、労働時間、賃金と管理システムなど九事項にわたって禁止や保障を求めるもので、第三者が実施する世界初の認証規準である。

WTO加盟以降、多国籍企業から受注する企業活動が軸の中国では、CSR運動を意識せざるを得ない状況となっている。国内でのCSR運動の現状を把握し、今後の対応を検討する目的で、労働社会保障部労働科学研究所は、「CSR運動対策研究」と題する報告を2004年11月に発表した。その内容を紹介したい。

中国におけるCSR運動の現状

中国でのCSR運動は、90年代半ばに始まり、沿海地区から内陸部へと浸透し、玩具、アパレル、貿易加工業など輸出関連産業に広く対象範囲を広げている。現在までに延べ1万5000事業所以上がCSR監査をうけている。

中国は全世界の労働集約型製品の主要生産基地となり輸出は好調だ。経済の急成長によってプレゼンスも急速に向上した。反面、労働者の権利面での問題が少なくない。中国が今CSR運動の国際的ターゲットとなっているのは、そのような背景がある。

こうした国際的な注目を浴びて、今中国の製造業では、複数の発注元から1年に20から30回の監査を受けなければならない。多国籍企業は、CSRの職能部門の重点課題を中国に集中させており、世界的に有名な認証機関が市場開拓の軸を中国に移し、機関の増設と監査人員の増員を実施している。加えて、多国籍企業のCSR監査では、他の途上国よりも厳しい扱いをうけているという。

中国におけるCSRの実施方式

中国でのCSR監査の実施は、主に二つの方式が採られている。一つは、サプライヤー監査で、多国籍企業側が正式発注前か商品引渡し前に、自社の専属者か第三者認証機関の委託代理専門員を派遣し、納入業者や下請業者の文書資料、生産現場の調査、従業員へのヒヤリング等を実施し、自社の取引行動規範に反していないかどうかを判断する。

もう一つは、SA8000認証方式で、この手続きは、まず企業が書面で認証機関に申請する事から始まる。その後、仲介機関による特定の問題についての指導をうけ、改善変更を行った後に、権利授与された認証機関からの監査をうけるという手順である。監査に合格した企業は、認証機関から資格証書を授与され、その後は半年毎に再審をうけることになる。認証授与にあたっては、5万香港ドルから15万香港ドル以上の費用を要するといわれる。

多国籍企業におけるサプライヤー監査、SA8000などのCSR監査では、安全、労働時間、賃金、従業員福利など労働条件への監査が中心となる。監査で指摘される問題の多くは、残業時間と残業手当の問題で、解決することが最も難しく深刻である。

これらCSR監査が中国企業の労働法に対する意識の向上や労働条件の調整・改善に貢献していることは事実であるが、その一方では、中国企業が多国籍企業と交渉して、監査規準の緩和や偽装工作を行っているといわれる。関連孫受け企業を設立させて総合的に労働時間計算を行ったり、賃金規準から逆算して融通したりと、実質的改善に至らない事例が多いことを事実として、同報告書では問題視している。その背景には、CSR監査は、多国籍企業自体も外からの圧力で実施しているにすぎず、実際に監査結果により発注がキャンセルされる可能性がほとんどなく、また、輸出加工貿易企業では現実的に改善が難しいという事情があるといわれる。

CSR運動への今後の対応と課題

2005年の紡績品の割当額撤廃後は、紡績輸出への対外貿易摩擦がCSR監査に転化され強化される可能性がある。従来の企業内部の行動規範から外部認証行動規範に移行することで貿易に多大な影響が及ぶこともまた懸念される。

人権闘争の勃発など経済成長へのマイナス影響への予防や貿易保護の立場から、CSR運動をプラスの方向で効果的に行っていくことが重要性である。その具体的実現のために、1)CSR運動で現実的に予想される影響についての研究と認識の共有化を図る、2)CSR運動の実施方式を区分し、認証へのマスコミなどによる「商業的捏造」を排除しつつ、客観的な立場にたった対応策を実行する、3)国際労働基準の積極対話に参加し、中国の発揮すべき役割を提言していく、4)国際労働基準や中核的労働基準の研究を強化し、法制度の改善を行うことで労働保障関係法の執行力を強化する、5)労働組合、企業家協会、業界団体などを巻き込み社会的に労働保障信用制度を構築するとともに、労働監察能力を高め違法行為の摘発処分を強化することで、CSR監査による改善要件の削減に努力する、6)産業構造展開を推進することで、対外貿易戦略の多元化を実現する――などの6項目に重点的に取り組む必要性を報告書は提言している。

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