新政権発足へ向けての政策協議

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2005年11月

連邦議会選挙でCDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)とSPD(社会民主党)が共に得票を減らし、それぞれ関係の深い政策パートナーの政党を加えても過半数に届かなかった事態を受け、ドイツでこの二大政党による連立政権が発足する運びとなった。両党のどちらかを核とする政権樹立は実らなかった。両党は10月10日、CDUのメルケル党首を次期首相とすることで合意し、その後は11月中旬の新政権発足を目指して政策協議を進めている。10月10日の段階で、選挙戦からCDU/CSUが主張してきてた労働協約自治の原則の修正(従業員の一定の賛成を条件に労使合意がなくても統一的な労働協約と異なる労働条件の設定を可能にする)は新政権の政策には盛り込まれないことが確認されている。

総選挙が行われた9月18日以降、二大政党はFDP(自由民主党)や緑の党などとのさまざまな連立の可能性を模索しつつ、大政党同士のいわゆる「大連立」の形成を視野に入れて相互に協議を続けていた。10月10日に取り交わした合意では、首相および連邦議会議長をCDU/CSUから出すとし、これに基づいてメルケル氏のドイツ初の女性首相就任が決まった。二大政党の議席差が少なかった(CDU/CSUが4議席多い)こと、選挙直後にシュレーダー前首相が自らの首相続投をアピールしたことなどを背景に、閣僚数(首相を含む)ではともに8ポジションを分け合った。なお、10月18日には選挙後初の連邦議会が召集され、CDUのN・ラメルト氏が議長に選出された。

両党はすでに次期閣僚の名簿を発表している。11月中旬に新政権の政策協定が結ばれた後、直ちに首班指名が行われ、メルケル氏は他の閣僚メンバーとともに正式に就任する予定だ。シュレーダー政権二期目に経済と労働の両部門が合体して設立された経済労働省は、新政権では経済・技術省と労働・社会省に分かれる。労働・社会相にはSPD党首のミュンテフェリング氏(10月末に党首辞任を表明)が副首相を兼ねて就任する。SPDはこのほか外相、財務相などの主要ポストを押さえ、前首相の退陣の代わりに発言力を維持したとする見方が多い。労働政策に関しても、シュレーダー政権の路線を大幅に見直す可能性は低い。

新政権発足へ向けての政策協議は、11月中旬を目途に進められる。10月10日両党合意の中では、すでに税制の見直し、家族政策の充実、研究開発投資などに言及している。労使自治システムに関しては、両党が「労働協約自治の維持を確認する」として、CDU/CSUやFDPが唱えていた法制度の修正を新政権では実施しないことを明らかにした。ただし、雇用安定のため、労使(主に産業別の労組および使用者団体)合意のもとに企業別の労働条件を決める「企業レベルの雇用のための同盟」の必要性を示し、「その仕組みの構築のために労使パートナーとともに話し合いを進める」と述べて、柔軟な姿勢ものぞかせている。

このような合意の背景について、DGB(ドイツ労働総同盟)のM・ゾマー会長は、「同盟(CDU/CSU)はSPDとの協議において、明らかにその反組合的なポジションから離脱し、庶民にのみ負担を強いる路線からも離れた」とコメントしている(南ドイツ新聞のインタビュー)。選挙期間中CDU/CSUおよびFDPの主張に同調していた使用者についても、「現実的なポジションに転換し、再び労働組合との対話を求めている」としている。

一方、BDA(ドイツ使用者連盟)のD・フント会長は、新政権の政策協議に関する声明で直接10月10日合意の内容に触れ、「大連立政権は、BDAが提案し、あるいはCDU/CSUが選挙プログラムで示したような労働協約権の広範な変更はしないとの合意に達した」と認めたうえで、とくに企業ごとの労働条件決定について、現在の制度の枠内での拡大を求めた。同氏は、産業別労働協約の中で一定の企業別労働条件決定の余地を認める「開放条項」が、金属・電機、化学、建設、食品などの産業では広まっているが、「たとえば商業や印刷業では全く前進が見られない」と指摘。さらに「成長と雇用に優先順位を置くなら、いかなる産業分野でも停滞は許されない」とし、現行制度の範囲内で新政権が労働条件決定の柔軟化に取り組むよう求めた。

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