ドビルパン首相が新たな家族政策を発表:女性の雇用への復帰促進と同時に、出生率の更なる向上が狙い

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  • 国別労働トピック:2005年11月

2005年9月22日、ドビルパン首相は、「第10回家族会議」(注1)において、「育児休業改革」を柱とする新たな家族政策を発表した。女性の雇用への復帰促進と同時に、将来の人口減少に備え、出生率を向上させることが狙い。

INSEE(国立統計経済研究所)によれば、フランス30歳以上54歳以下の女性の80.7%が働いている(2004年)。また、合計特殊出生率は、1.9人で、EU加盟国内では、アイルランドに次いで高い。同首相は、「これらの数字は、女性の就労が出生率のブレーキとはなっていないことを示している」とし、「女性が仕事を続けやすい環境を整備すれば、3人目以上の出産を促進できる」と主張。「女性が仕事を続けながら子供を持つ」という考えを基礎とするフランスの家族モデルを強化し、「職業生活と家庭生活との両立」促進への取組みに意欲を示した。同政策の主な内容は以下の通り。

(1)育児休業改革:新たな選択肢の導入

現行の育児休業補償制度では、子供が誕生すると、両親のどちらかが3年間休業でき、月額513ユーロを上限とする手当が国から支給されている。この制度を維持しつつ、第3子の誕生以降について、「受給期間は1年間に短縮されるかわりに、月額750ユーロの休業手当を支給する」という新たな選択肢が導入される。

これにより、第3子が誕生した場合、育児のために一時的に休業することを望む親は、現行の「3年間休業し、月額513ユーロの手当を受け取る」か、「1年間休業して、月額750ユーロの手当を受け取る」か――のどちらかを選ぶことができるようになる。2006年7月から実施予定。

ドビルパン首相は、同改革は、「出生率の向上と女性の経済的自立を同時に推進するもの」であると主張。さらに、子供が成人するまで、父親も「職業生活と家庭生活の両立」を実践できるように、「父親の育児休業へのアクセスの促進」にも取り組むとした。

(2)大家族への日常的な支援:新たな「大家族カード」(carte familles nombreuses)の創設

現在の「大家族カード」は、3人以上の児童を抱える家族を対象に、鉄道運賃が割引されるSNCF(フランス国有鉄道)カードのみで、しかも、同カードを利用しているのは、その権利を有する対象者の3割にすぎない。そこで、大家族の日常生活における様々な過剰費用を援助するために、現行のSNCFカードをモデルとした新たな「大家族カード」の創設を決定。700万人がこのカードの恩恵を受けると、政府は見込んでいる。

この「大家族カード」は、家庭用備品、日常生活上に必要なものやサービス、そして、余暇やスポーツ、文化的活動等のための支出に対して、優先的に割引きする。ホテルの宿泊料金や、映画代、家電製品等の割引も実施するため、大企業で構成されるパートナー・ネットワークも協力する。また、同カードは、SNCFの駅の他に、市役所や農業共済金庫等でも、配布される。

(3)困難な状況に陥った家族への支援:「付添親休暇」及び「付添親手当」の改正

利用しにくいとの不満の声が多かった「付添親手当」(2001年創設)(注2)が、2006年4月以降、(1)子供が重い病気にかかった場合、両親は、3年間のうち310就労日(職務執行日とカウントされる日)を、子供の付き添いのために休業することができる、(2)その際、家族手当金庫(CAF)から、カップルに対しては約38.44ユーロ、単親者に対しては約45.65ユーロの日当手当が支払われる、(3)遠方に入院する子供をもつ親に対して、月額100ユーロの補足手当が支払われる――という内容に改正される。

今回の改正は、重い病気にかかった子供の治療期間中、親の経済的な負担を軽減させるとともに、親が子供に付添い、かつ自身の就業活動の可能性も保持させるものとなっている。

労組の反応

こうした新たな家族政策の発表を受け、労組の中には「現実の効果」を疑問視する声もあがっている。例えば、CGT(労働総同盟)は、今回の育児休業改革は、「家族の期待に沿うものではない。何番目の子供であるかに関係なく、すべての子の誕生に認められるべきものである」という考えを表明。また、政府の家族部門が、2005年度におよそ10億ユーロの赤字が予想されていることを取上げ、「非常に狭い財政枠によって、改革の中身は制限を受ける」と懸念を示している。

一方、CFDT(フランス民主労働同盟)は、「今回の育児休業改革は、中産階級の者にとっては、大きな効果は期待できない」としながらも、多くの女性が、3年間の育児休業後に復帰する際に、非常に大きな困難に直面している現実を指摘。今回の育児休業改革は、女性の長期間の「労働の中断」を避ける性質を持っているという点で評価している。

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