新規加盟国に対する労働者の移動の自由の制限に関する議論
欧州委員会は、現在制限しているEU新規加盟国からの労働者の移動の自由をさらに3年間延長するかどうかについて討議するための会議を9月16日に開催した。会議は、欧州委員会、加盟国、労使団体の代表からなるハイレベル・グループが、2004年のEU拡大以降の統計や労働力移動の状況について議論するものである。検討の結果は、欧州委員会が取りまとめ、1月の欧州理事会に提出する、労働者の移動の自由の制限措置に関する報告書に反映される。
2004年5月のEU拡大に関する条約は、新規加盟国から旧加盟国への労働者の移動の自由について最大7年間の経過措置を認めている。この7年間は、開始から2年、3年、2年の3段階に分けられ、それぞれの期間で異なる条件が適用される。第1段階の2004年5月1日から2006年4月30日の期間、EU旧加盟15カ国は、自国の手続きまたは二国間協定によって制限措置を課すことができる。これに基づき、EU旧加盟15カ国のうち12カ国(アイルランド、スウェーデン、イギリスを除く)が、新規加盟10カ国のうち8カ国(マルタ、キプロスを除く)に対し、労働者の移動の自由に関する制限を課している。ハンガリー、ポーランド、スロヴェニアは、旧加盟国からの労働力の流入に対し、同様の制限措置を課している。制限措置はEU拡大後2年間実施され、加盟国が2006年5月からの3年間も制限を継続するかどうかを決定する前に、検証が行われることとされている。
ヴラジミール・シュビドラ雇用・社会問題・機会均等委員は、「この会議は、EU域内の労働者の自由移動の重要性を再認識する機会を与えるものである。労働者の移動の自由は、EU域内市場の4つの自由のうちの1つの分野であり、すべての労働者によって享受されなければならない」と述べた。
シュビドラ委員は、制限措置を実施していないEU旧加盟3カ国の統計は、労働力の流入とその影響が劇的ではなかったことを示していると強調し、いくつかの例を挙げた。新規加盟国からスウェーデンへの労働力の流入はわずか0.07%の増加と予想を下回った。2004年5月から2005年6月までの間にイギリスで認定された新規加盟国労働者の福祉手当受給者の数はわずか50人程度であり、新規加盟国からの労働者が福祉制度を疲弊させるとの恐れは沈静化した。昨夏以降、イギリスで職を求める東欧諸国からの労働者の数はわずか95人であり、ポーランドの配管工の侵略を予想していた人々の考えは的外れとなった。
欧州委員会は、経過措置が果たした機能に関する報告書を2006年1月の欧州理事会に提出し、欧州理事会がその内容を検討する。この検討を経た後、加盟国は、2006年5月から2009年4月30日までの次期経過措置の内容を決定し、欧州委員会に通知する。加盟国は、経過措置を強化することはできず、措置の維持または緩和しか認められていない。
期間・時期 | 経過措置の内容・見直し手続き | |
---|---|---|
第1段階 | 2004年5月1日~ 2006年4月30日 |
EU旧加盟15カ国は、自国の手続きまたは二国間協定によって新規加盟8カ国(キプロス、マルタを除く)の労働者の移動を制限することができる。 |
見直し手続き | 第1段階の 終わりまでに |
欧州委員会は、経過措置が果たした機能に関する報告書を欧州理事会に提出し、欧州理事会がその内容を検討する。この検討を経た後、加盟国は、2006年5月から2009年4月30日までの次期経過措置の内容を決定し、欧州委員会に通知する。 |
第2段階 | 2006年5月1日~ 2009年4月30日 |
EU旧加盟15カ国は、2006年5月1日から3年間、経過措置を延長することができる。 |
第3段階 | 2009年5月1日~ 2011年4月30日 |
2009年5月1日以降は、原則的に新規加盟国に対しても労働者の移動の自由が保障される。しかし、EU旧加盟15カ国は、自国の労働市場に深刻な混乱や脅威が発生している場合にのみ、経過措置をさらに2年間延長することができる。 |
新規加盟国の 経過措置 |
EU拡大に関する条約は、労働者の移動の自由に関する経過措置の適用を受ける新規加盟国は、当該国に対してのみ同様の経過措置を講ずることができるとしている。 |
加盟国 | 経過措置の内容 |
---|---|
スウェーデン、 アイルランド |
いかなる経過措置も実施しない。 |
イギリス | 制限措置は実施しないが、労働者登録制度を採用。新規加盟8カ国からの労働者は、イギリスでの就労開始30日以内に内務省に届出なければならない。 |
デンマーク | 労働協約が適用されるフルタイムの職に就くことを希望する新規加盟8カ国の労働者は労働許可を取得しなければならない。これらの労働者は労働市場テストの条件を満たす必要はないが、求職者は、デンマークでの就労開始前に居住許可を取得しなければならない。 |
オランダ | ほとんどの産業に関しては、労働市場テストを含む完全な労働許可制を採用。ただし、多くの産業や職種で適用除外を設けている。適用除外に認定されると、労働市場テストを受けることなく、2週間以内に労働許可が発給される。適用除外のリストは、3カ月ごとに見直される。 |
フランス | 労働許可制度を維持。ただし研究職種などは適用除外。 |
ベルギー、 フィンランド、 ギリシャ、 ルクセンブルグ、 スペイン |
労働許可制度を維持。 |
イタリア | 労働許可制度を維持。ただしEU新規加盟8カ国に対しては、入国割当を発行。 |
ポルトガル | 入国割当制度を導入。 |
ドイツ、 オーストリア |
いつくかの点で修正を加えた労働許可制度を維持。特定の不安定な産業における非典型労働者の国境を越えたサービスの提供に制限措置を適用。 |
ポーランド、 スロヴェニア、 ハンガリー |
経過措置を適用するEU旧加盟国に対し、同様の制限措置を採用。 |
出所
2005年10月 EUの記事一覧
- 2004年のEU25カ国の就業率は、63.3%
- 新規加盟国に対する労働者の移動の自由の制限に関する議論
- 25~64歳層の25%が何らかの学習活動に参加(2003年)
関連情報
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:掲載年月からさがす > 2005年 > 10月
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:国別にさがす > EUの記事一覧
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:カテゴリー別にさがす > 外国人労働者
- 海外労働情報 > 国別基礎情報 > EU
- 海外労働情報 > 諸外国に関する報告書:国別にさがす > EU・欧州
- 海外労働情報 > 海外リンク:国別にさがす > EU