第92回ILO総会が閉幕

カテゴリー:外国人労働者労働条件・就業環境人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2004年8月

公正なグローバル化に関する世界委員会報告を承認/
移民労働者の処遇に関する行動計画、人材開発に関する新勧告を採択ほか

ILO(国際労働機関)は、スイス・ジュネーブで6月1日から17日、第92回ILO総会を開催した。177カ国から3000人以上の政労使代表が集った今総会では、今後のILO活動の青写真となるグローバル化の社会的側面に関する報告書を承認したほか、移民労働者の公正な処遇に向けた行動計画、人材開発に関する新勧告を採択。また、世界中で3500万人にのぼる漁業労働者を対象とする関連条約・勧告について、次期総会での改定に向けた第一討議を行った。条約適用勧告委員会では、個別審査案件として、日本の育児・介護休業法関連で第156号条約(家庭責任を有する労働者)の適用状況を審議したほか、依然として事態が深刻なミャンマーの強制労働案件について、4年継続で特別会合を開いた。

日本代表団としては、政府側から大島正太郎・在ジュネーブ国際機関日本政府代表部特命全権大使、使用者側から奥田碩日本経団連会長、労働者側から草野忠義・連合事務局長ら、総勢63名が出席した。以下は、主要議題の討議概要をまとめたもの。

グローバル化の社会的側面に関する世界委員会を強く支持

今総会の注目議題のひとつは、2月に発表したグローバル化の社会的側面に関する世界委員会報告書「公正なグローバル化:すべての人への機会の創出」。討議には、世界委員会協同委員長のハロネン・フィンランド大統領、ムカパ・タンザニア大統領ほか、ルヴァノフ・ブルガリア大統領、クラーク・ニュージーランド首相など国家元首を含む300人に及ぶ代表が出席した。総会は、同報告書の結論とソマビア事務局長が提出したILOのフォローアップ提案を、「公正なグローバル化にむけた、新しく、一貫性のある政策基盤」として、大筋において承認。同報告は、グローバル化に関するILOの今後の活動の青写真となる。

報告書は、(1)グローバルな目標としてのディーセントワークの普及(2)ILOと他の国際機関との連携(3)各国・国際レベルでの民主的かつ説明責任のある統治の実施(4)社会対話と合意形成の促進(5)貿易と金融に関する公正なルールの適用及び国際金融構造改革の実施(6)開発支援の増大―等、グローバル化の公正な統治のあり方を模索するため各種措置を提案するもの。だが、現時点で具体的な行動計画実施のための追加措置を提案している加盟国はフランスのみだ。積極的な宣伝・普及活動により、財源確保をいかに進め、行動計画を具体化していくかが課題となる。

ソマビア事務局長は、同報告書を携え、グローバル化をメーンスローガンに掲げる年末開催のICFTU(国際自由労連、組織人員1億5800万人、本部ブリュッセル)世界大会にゲストとして来日予定。年末にむけて、同報告書の国内での普及活動が盛んになりつつある。これを機にILOは、日本でのシンポジウムの開催も予定している。

移民労働者の公正な処遇に向けた行動計画採択

一般討議では、5月21日発表のレポート「グローバル経済における移民労働者の公正な処遇に向けて」をたたき台に、世界で8600万人にのぼる移民労働者の状況改善を討議。秩序ある正規の労働力移動の推進に向け、移民労働者を公正に処遇する行動計画を採択した。行動計画は、移民労働者が、国際労働基準のみならず、関連する国内労働・社会関連法制の適用対象となるよう確保するために策定されたもの。労働力移動や移民に関する拘束力のない多国間フレームワークを策定するとともに、国際機関・多国間機関との協力のうえ、ILOが移民に関する対話を構築するよう求めている。

総会は、行動計画を全会一致で採択。これを受けてILOは、各国の好事例等の情報収集を進め、2005年11月理事会に移民管理の各種指針を盛り込んだフレームワークを提出する。具体的には、(1)受入国・送出国間の二国間協定(2)移民労働者へのディーセントワークの推進(3)ILO条約・勧告に沿った外国人労働者斡旋・紹介機関の認可・監督(4)人身売買、密入国、虐待の防止(5)非正規労働力移動に対する取り組み(6)3K職場、家事労働、インフォーマル経済といった特定の職業・産業分野で働く移民労働者のリスクへの対処(7)労働監督制度の改善、移民労働者の提訴・救済機会の開発(8)移民労働者の帰国、母国への再統合、資本・技術移転を奨励する諸政策の実施―等が、指針の対象項目となる。

今回採択した行動計画自体に拘束力はないが、これをもとにILOは、関連の国際労働基準の体系的な見直しを行い、2007年以降、移民労働者に関する新条約・勧告を採択する見通しだ。移民労働者の処遇については、送出し国と受入国の立場の違いが顕著。合法、非合法にかかわらず、移民労働者に対し、社会保障制度のポータビリティを含め権利拡大を図る方向は、受入国側からは、内国民待遇の観点から具体化がかなり困難といえよう。

人材開発に関する新勧告採択

総会はまた、人材開発(教育、訓練及び生涯学習)に関する新勧告を採択した。勧告は、1975年採択の第150号勧告を改訂したもの。内容は、(1)人的資源開発・訓練政策の内容(2)教育・訓練政策の開発及び実施(3)教育及び雇用前訓練(4)就業者・失業者の能力開発(5)ディーセント・ワークと社会参加に向けた訓練(6)技能の認定・認証の枠組み(7)訓練提供者(8)進路指導及び訓練支援サービス(9)人材開発、生涯学習及び訓練における調査(10)国際技術協力―と多岐に及ぶ。

新勧告では、従来職業訓練にとどまっていた人材開発の対象を、職業能力開発や生涯教育にも拡大。グローバル化を踏まえ、技能の国際的認証の枠組みや資格の国際的可搬性(ポータビリティ)に関する規定を新たに盛り込んでいるほか、人材養成の促進に向けた政労使の積極的な関与を求め、社会的対話と団体交渉の強化について明記している点も特徴的だ。このうち資格の可搬性については、先進国と発展途上国との間の技能レベルの乖離が大きいことから、事実上いかに運用していくかが課題となる。

3500万人に及ぶ漁業労働者に関する条約・勧告を見直し

さらに、最も危険な産業のひとつと位置付けられている漁業分野について、現存の5条約、2勧告の改正にむけた第一次討議を行った。新基準は、来年6月の次期総会での二次討議を経て、採択される予定だ。新基準では、漁業労働者の範囲を、自営の漁師や漁獲高に応じた歩合給にカバーされる労働者にも拡大。高い労災発生率、死亡率削減に向けた安全衛生規定も新たに盛り込んでいる。ILO推計(1998年時点)によると、世界全体で捕獲漁業及び養殖業に従事する労働者の総数は約3500万人。漁業に従事する労働者の労災死亡率は労働者10万人あたり150から180人に達し、国によっては、消防・警察部門に従事する労働者よりも死亡率が高い場合もある。

第156号条約(家族的責任を有する労働者)で日本案件審議

一方、条約勧告適用委員会では、第156号条約(家族的責任を有する労働者)について、日本の適用状況を個別審査。育児介護休業法の適用要件、遠隔地通勤等が審査対象となった。これについて労働側は、政府による同法の改正案の通常国会への提出を評価する一方で、その適用範囲について、パートタイム労働者を含む非典型労働者への適用拡大に向けた一層の取り組みが必要であるとの意向を示した。これを受けて委員会は、改善措置を確保する努力を求めた。

公務員制度改革に係る第87号条約(結社の自由および団結権の保護)の適用状況については、当初個別審査案件として取り上げられる可能性はあったものの、2度にわたるILO勧告を踏まえ、適用改善にむけた政労協議の場が持たれていることを理由に、今総会では審査対象外となった。第2次大戦中の強制連行及び従軍慰安婦問題についても同様に、韓国、オランダから審査を求める声はあがったものの、全体的な合意には達せず来年に見送られた。

日本案件以外では、ミャンマーの強制労働案件を深刻な事態として継続して取り上げ、4度目となる特別討議を行った。同国駐在のILO連絡員と協力を続ける政府の努力を歓迎する一方で、1998年の審査委員会の勧告以降も、依然として強制労働が存在し続ける事態を深く憂慮。特に、ILOへの接触が引き金となって重反逆罪に問われている人々について、釈放を強く求めるとともに、強制労働の苦情申立者に対する法的保護の必要性を強調した。

このほか条約勧告適用委員会は、ILO第122号条約・169号勧告(雇用政策)、142号条約(人材開発)及び189号勧告(中小企業における雇用創出)の適用状況報告について、一般調査を実施。雇用創出を常に政策の中心事項とすること、創出する仕事がディーセントワークであること、人的資源開発と中小企業がディーセントワークの創出の鍵となること―等について、意見が一致した。

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