イタリアの労働市場の動向
―ISTAT2003年報告書

カテゴリー:地域雇用非正規雇用統計

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  • 国別労働トピック:2004年7月

1.はじめに

昨年5月、ISTAT(国立統計局)が、イタリアの経済社会状況に関する2003年報告書を提出した。

ISTATは、様々な要素を用いて、2003年の景気状況を一般的な経済動向との関係で分析している。実際、2003年は、2001-2002年の特徴であった国際経済の停滞期が終わり、むしろ堅調な成長が見られた年であった。国際通貨基金の評価によると、世界の国内総生産は、2002年の1.7%増に対し、2003年は2.7%増加したとされる。

2003年のイタリアの経済は、依然として、2001年後半に始まった停滞段階を引きずり、2002年および2002年の世界的不況の影響を受けていた。国内総生産は、2002年に0.4%、2003年は0.3%である。

生産活動の停滞は、建設部門を除けば、主たる部門のすべてに及んでいた。農業部門の生産活動は漸減し、狭義の工業部門の生産活動も停滞していた。サービス部門も、2002年から成長が鈍化していたが、2003年にはこの傾向に拍車がかかった。産業生産指数は、再び低下した(2003年は、前年比0.4%減)。

ヨーロッパの経済成長に影響を与えた重要な要素に、EUが25カ国に拡大したことがあげられる。このEU拡大の結果、EUの人口は4億5500万に達し(7500万増)、世界経済に占めるEUの地位は、国内総生産で21%を占め、世界のトップに踊り出た。しかし、EU領域内の不均衡もまた増大している。新たな加盟国は、技術革新に関しても、また部門の再編の点でも、生産の再構築が進んでいるとはいえ、拡大前からEU加盟国であった15カ国(以下、「EU15カ国」とする)に比べると、経済的にも人口・社会的にも大きな格差がある。新加盟国は、依然として農業部門の就業者が多く(EU15カ国の4%に対し13%)、相対的にサービス部門従事者が少ない。

2003年は、EU全体で雇用の伸びが鈍化していた。フランスでは就業者数がほとんど伸びず、ドイツでもマイナス成長であった。イギリスとスペインは好調であったが、EU平均としては1994年以来の最悪な状況であった。ここ9年間ずっとEUの特徴であった雇用の急伸が、ここにきて止まったわけである。

こうした中で、イタリアは依然として良い状態を維持していた。1995年10月から始まった雇用状況の好調により、イタリア居住者に関する雇用の伸びは10%に達し(就業者数でみると200万強の増加)、全体の就業率を約7%上昇させることになった。女性だけでみると、雇用は19%以上増加し(就業者数約14万人増)、就業率も7.3%上昇した。

こうした最近の就業成長にもかかわらず、生産性は低下した。ただし、この事実には注意すべき点がある。つまり、経済が第3次産業化したことを考慮してデータを再構成すると、時間当たりの生産性の伸びは、非常に低いとはいえプラスなのである。

1999-2001年を通じて、企業における被用者の増加がみられたが(新たに設立された企業と廃業した企業との差でみると、新企業の従業員が廃業した企業の従業員の約3倍である)、とくに、サービス部門の中規模企業(ホテルを含む)でこの傾向が著しかった。一方、工業企業および商業企業における被用者数の増加はそれほどでもなく、また、この部門の零細企業で被用者が減少する傾向があった。

イタリアの労働市場には、2003年法律30号(ビアジ改革)で導入された新たな労働類型や、企業、公的機関および非営利団体による連携的継続的協働労働者や派遣労働者の利用といった新しい現象が多く現れている。

他方、賃金価値の維持という問題を分析すると、2000年以降、賃金価値の伸びが著しく低下しており、中には、ここ2年、税控除前の賃金価値が低下した部門もある。

労働力の移動について分析すると、1995年以降、北東部および中央部へと労働者の内部移動が生じたことがわかる。生産活動の場の地方移転現象が表すように、内部移動の発生は、労働需要の地理的再編との関係で把握される。こうした新たな移動現象は、就業成長率が最も高い州について生じているとは必ずしもいえない。むしろ、成長率が高くかつ失業率が低い州に発生している現象である。

2.イタリアの就業周期

イタリアの労働市場は、1996年以降、期間の点でも(8年間連続して就業の伸びがみられた)、その特徴の点でも特異な段階にある。新しい特徴としてまず挙げるべきは、1995年に始まったヨーロッパ就業周期とイタリアの労働市場の波長とが一致していることであろう。また、成長の堅調さも新たな点である。1985年から1991年の成長期にあっても、就業の伸びは年平均で1.0%(約22万4000人の雇用増に相当)であったが、1996年から2003年までの8年間では、就業は年平均で1.2%ずつ増加した(年に約28万7000人の雇用増に相当)。生産の伸びは、前周期の伸び率の56%にすぎず、それほど芳しくなかったのだが、労働ポストの増加は、停滞どころか、前期の18%増を記録するほどであった。

こうした労働市場の反応は、ヨーロッパの他の諸国の場合と同様である。実際、EU全体でみると、前回の雇用拡大期から最近の雇用拡大期の間で、国内総生産増加率に対する雇用の伸びの割合は0.3から0.5へと高まっている。ヨーロッパレベルでみると、この割合の増加は、2つの現象に起因すると考えられる。

第1は、経済構造の転換である。この現象はいくつかの特徴をもつが、中でも「第3次産業化」が重要である。経済全体でサービス業の重要性が拡大したことで、労働の生産性が一定程度低下し、この結果、見かけ上、生産性増加率に対する雇用の伸び率の割合が増加することになったのである。実際、1995年から2002年の間に、雇用全体に占めるサービス業の雇用の割合は、EU15カ国平均で3%以上増加した(66.4%から69.8%へ)。同時期、労働生産性は、年平均で1.7%から0.4%へと減少している。イタリアに関してみると、1995年から2003年の間に、国内総生産に占めるサービス業の市場価格の付加価値は、63.4%から67.4%へと増加し、これに伴い、サービス業における雇用が雇用全体に占める割合も、62.9%から66.0%に増加した。これに対し、労働生産性の年平均変化率は、3.0%増から0.2%減と変化したので、生産性増加率に対する雇用の伸び率の割合はその分高まったことになる。

第2に、1997年にルクセンブルク欧州理事会で発表され、2000年のリスボン欧州理事会で強化された雇用に関する欧州戦略が重要である。同戦略は、より発展的な労働市場を達成するために、ヨーロッパにおける就業サービスの質と労働市場規制の改善および調和を目的として、各国が年間計画を実施し、それぞれ協調体制をとることを目的としている。

さらに、イタリアに関しては、就業パフォーマンスを支える別の諸要因もある。その中では、とくに、労使関係規制および賃金交渉規制の再編を内容とした、1993年7月23日の政労使三者間協定が重要である。これにより、建築業や民間サービス業といった部門で賃金の価値が低下した結果、生産単位比での労働コストも大きく好転した。

最後に忘れてならないのは、労働形態の弾力化である。所得保障金庫の利用が全体として徐々に減少しつつある中で、協働労働形態(とくに連携的継続的協働労働)の急激な進展のために、最近でも、この種の独立労働者が長期間手当を受給するといったことがみられる。EU平均では、パートタイム労働者が2.2%増、臨時労働者が1.6%増であるのに対し、イタリアでは、それぞれ2.4%増と2.9%増である。これを実数でみると、イタリアの場合、200万強の雇用増のうち、約70万がパートタイムで55万強が有期雇用である。

非典型労働が拡大した1つの理由は、女性雇用が相対的に増加したことである。全体の雇用増加のうち、女性雇用が占める割合は70%を越えている。1996年から2003年の間に、パートタイム労働に就く女性労働者は50万人以上増え、有期契約を結んだ女性労働者も40万人増加した。しかしながら、こうした急激な増加にもかかわらず、イタリア人女性がパートタイム労働につく割合は、EU15カ国平均の半分である。

非典型労働は、付加価値の低いサービス業の小規模企業におけるパート形態の増加が目立っていた。こうした非典型労働が有していた中心的な役割は、生産性増加率に対する雇用の伸び率の割合を引き上げたことであるが、一方で、生産の増加や経済性ステムの生産性の向上にはあまり寄与しなかった。

3.雇用の増加と労働の質

3-1.雇用の増加と労働生産性の低下

1998年から2001年の間に、民間非農業部門について実施された企業会計に対する調査では、当該部門の企業の従業員が7.7%増加し、労働時間も6.4%伸びたことがわかった。一方、同時期の実質付加価値の値も上昇しているが、その伸びは労働時間の増加よりも若干緩やかである(6.3%)。この結果、1998年から2001年における労働生産性は、民間工業部門および民間サービス部門の双方で、若干低下した。ただし、こうした結果はさまざまな要素から成り立っているので、その内容(どの企業で低下し、どの企業で上昇しているのか)をはっきりさせることが必要である。こうした観点から、ISTATの報告書では、地域性、企業規模および経済活動領域という3つの要素に着目して分析されている。

ここでは、労働生産性指数を分析するにあたり、就業者の平均実質労働時間、企業の所在地、企業の部門別分類、および、従業員数に基づく企業規模等の要素が考慮されている。分析の結果のうち興味深いのは、1998年から2001年の間の平均労働時間の減少が、従業員1人あたりの平均生産性指数に大きく影響を与えたということである。つまり、さまざまな要素を差し引いた、1時間あたりの総合生産性指数はプラスであるが(1.1%)、1労働時間あたりの生産性でみると、0.1%減少しており、また同時期の平均労働時間も1.3%減である。したがって、1時間あたりの総合生産指数の伸びが縮小したのは、産業構造が変化し、生産性と活力の低い企業が増えたことに主たる原因があると思われる。

比較的規模の大きな企業が中小企業に比べて不調であった理由として、こうした2つのタイプの企業間で、属する産業の割合が異なっていたことが考えられる。実際、規模の大きな企業では、工業部門の場合、1時間あたりの生産性が1.2%減少しているのに対し、サービス業であれば0.4%の増加である。

大企業における1時間あたりの生産性の減少は、中部および北西部が著しく、これが大企業全体の生産性の減少に影響したとも考えられる。従業員数100人未満の企業が好調だったのは、南部の商業部門において1時間あたりの生産性が飛躍的に増加したこと(15%)が大きいだろう。

部門別に検討すると、最も改善が著しかったのは木工業と機械設備製造業(それぞれ9.1%と7.8%)であり、これに、建設業および輸送業が続く(それぞれ6.2%と5.0%)。1時間あたりの生産性の低下が著しかった部門は、教育(15.1%減)、企業サービス(6.6%減)、食品産業(4.5%減)および化学(3.7%減)である。生産性が大きく低下した部門の中でも、企業サービス部門を地位別にみると、北西部および中部の生産性は低下しているが、北東部および南部ではかなり上昇している。

就業者数が大きく増加した部門はサービス業に集中しており、中でも、先進サービス業(企業向けサービス)が際立っている。就業が好調だった部門としては、ホテル・レストラン業、医療および建築業も挙げられる。1998年のデータでみると、これらの部門についてはすべて、生産性が平均を大きく下回っていた。

就業が好調で生産性が低かったものとしては、イタリアの製造業のいわゆる「専門的」部門がある。すなわち、機械製造業、金属加工業、非金属鉱物加工業、ゴム製造業である。サービス業の中では、輸送業がこうした部門に該当する。

地域別にみると、就業や生産性が上昇した南部と北東部、そして、就業は増加したが生産性は低下した中部および北西部という分極化傾向がみられた。

3-2.工業およびサービス業における連携的継続的協働労働者および派遣労働者

企業の組織構造および労働市場規制の変化は、雇用の概念をいっそう押し広げることになった。これによって、雇用の概念は、従業員だけでなく、伝統的な従属・非従属の定義にとらわれない、企業に存在する労働形態のすべてを包括的に指すことになったのである。

非典型労働は、従業員ほど利用されていないのは事実であるが、非営利機関では、100人の従業員のうち21人もの連携的継続的協働労働者が存在している。報告書の対象となった非典型労働者の大部分は、北部に存在している(派遣労働者の61.2%、連携的継続的協働労働者の69.8%)。逆に、この種の労働者が最も少ないのは島嶼部であり、派遣労働者の利用は北部の企業の4分の1にすぎない。こうした非典型労働が北部に集中しているのは、地域における企業数や部門の性質、規模などには関係がない。

部門別の非典型労働の普及状況は、派遣労働と連携的継続的協働労働とで大きく異なっている。実際、連携的継続的協働労働の52%が、非商業系のサービス業を営む企業で働いているのに対し、派遣労働者のうちの約58%は、狭義の工業部門に従事している。

その内容をみると、その他のサービス部門では、協働労働者の利用が全国平均よりも著しく高い(協働労働者数は、100人の従業員のうち、その他のサービス部門が6人、全国平均が4人である)。より細かく部門をみると、さらに非典型労働の利用が高い部門があることがわかる。とくに、教育部門では、3人に1人が連携的継続的協働労働者であり、女性の方がかなり多いのも全国平均と異なっている(全連携的継続的協働労働者のうち、教育部門における女性協働労働者の割合は65.5%、全国平均は59.3%)。派遣労働者に関しては、一般には男性の方が多いが(62.5%)、教育および服飾に関しては女性の方が多い(それぞれ73.7%と66.2%)。この種の非典型労働を利用する企業の規模についてみても、協働労働か派遣労働かで大きな違いがある。実際、協働労働者の多く(71%)は、従業員数10人以下の企業で働いているのに対し、派遣労働者が働いているのは大企業である(従業員数250人を超える企業で働く者が5人に1人を越える)。最後に、協働労働者の数は、工業部門の企業が著しく高い(100人の従業員のうち7.5人)。地域別にみると、協働労働者に関しては、地域による差があまりない(南部が21%、北西部が23.8%で、残りの地域もほぼこの数値の間に含まれるが、唯一島嶼部だけはかなり低い)。

従業員に占める連携的継続的協働労働者と派遣労働者の割合が高いのは、公的機関である。これには、とくに、協働労働者および派遣労働者しか雇わない公的機関が存在することが大きく影響している。非典型労働者の地域別分布をみると、非営利機関については、一般企業と同じ傾向がみられる。非営利機関においては、連携的継続的協働労働者の73.5%が、そして、派遣労働者の74.7%が、従業員数20人未満の機関で働いている。

3-3.非典型労働者に関する最近の動向

労働市場改革(ビアジ改革)は、労働市場への正規の参入を拡大するため、労働関係を正規化する新たな契約形態を導入している。

非典型労働の類型に関する伝統的な枠組みに従うと、非典型労働は3つの側面によって分けられるとされる。つまり、労働関係の安定性(無期か有期か)、労働時間の枠組み(フルタイムかパートタイムか)、そして、労働関係により生ずる社会的権利の承認の程度(すべて認められるか、一定程度か、あるいは、まったく認められないか)である。さらに、非典型性の程度(ホワイトゾーンかグレーゾーンか)も、分析のための4つ目の指針となりうるだろう。報告書では、ビアジ法によって導入ないし合理化された労働類型、すなわち、呼び出し労働(間歇労働)、臨時労働(派遣労働およびスタッフリーシング)、連携的継続的労働(連携的継続的協働労働、プロジェクト労働)、偶発労働、補助労働、分担形態の労働(ジョブ・シェアリング)、参入労働(参入契約)、見習い労働、夏季職業指導訓練労働およびパートタイム労働が、上記の4つの指針に従って分類されている。

民間工業部門および民間サービス部門に関する従属労働類型の進展具合を、2001-2002年と1996-2002年という2つの期間について比べると、2001-2002年には、従属労働のポスト数が全体で3.8%増加したのに対し、1996-2002年の期間には年平均2.5%の増加であった。2001-2002年の増加分については、その多くが典型的従属労働であった(典型的従属労働の増加率は3.1%)。一方、非典型労働は、依然として高い増加率を示しているとはいえ、その勢いは若干弱まったようである(1996-2002年の年平均増加率が6.8%であったのに対し、2001-2002年は6.2%)。絶対値でみると、非典型労働者数は、2002年の時点で230万人強である(民間工業部門および民間サービス部門全体の23.4%に相当。前年比0.5%増)。

全体的にみると、2001-2002年における非典型労働領域の拡大には、もっぱら「部分的に非典型的な」労働、すなわち労働時間を弾力化した労働類型(増加率10.3%)が寄与したといえるだろう(「狭義の非典型」労働は、0.3%の減少)。実際、2001-2002年の間に、「無期の」非典型労働関係は14%、パートタイムは14.6%の増加である。逆に、同時期の「有期の」非典型労働関係についてみると、派遣契約(22.8%増)、在宅労働(38.1%増)、有期労働(2.7%増)および見習労働(2.6%増)が、訓練労働契約および職業参入計画の減少分を相殺する形にはなっているが、全体の伸びは0.7%にとどまった。

4.地域性からの再構成―労働の需要と供給について

4-1.企業、事業所および従業員の局地化

2001年工業・サービス業調査では、「強い」領域と「弱い」領域との経済格差、とくに求人・求職に関するこの差が依然として大きいことが確認されている。

企業および機関の従業員と就労年齢にある居住者の人口との比率を市町村別にみると、就業水準に地域的な分極化現象が現れていることがわかる。1000人に対する平均従業員数を、公的部門と民間部門(公的機関と、企業および非営利機関)に分ければ、こうした北部と南部との格差が、民間部門、とくに工業に部門での雇用分布の差によって説明しうることが明らかになる。

民間部門の従業員と就労年齢にある居住者との比率は、北西部、北東部、中部、南部および島嶼部の5つの地域に分けてみよう。まず、全国平均では居住者1000人に対し従業員が424人(うち工業部門172人)であるのに対し、比率が最も高い北東部では555人(うち工業部門は253人)、最低の島嶼部では238人(うち工業部門は72人)である。逆に、公的部門の労働ポストの分布には、それほど違いがない(居住者1000人中、全国平均の82人に対し、比率が最も高いのが中部で94人、最も低いのが北西部で73人である)。

南部がイタリアの他の地域と異なり民間雇用が少ないことから(居住者1000人あたり266人)、南部における労働市場が、公的雇用によりカバーされていることがわかる。実際、州別に見ると、公的部門で働く労働者の割合が最も高いのはカラブリア州(州都カンタンツァーロ)で、従業員全体の33.4%を占めている(一方、最低はロンバルディア州(州都ミラノ)の10.7%)。

企業についてみると、南部では、生産構造の零細化が著しいことがわかる。企業規模ごとの従業員構成をみると、全国平均に比べて、南部および島嶼部における零細・小規模企業の割合が高い。

経済状況の変化は、就業状況に関する部門間の格差を押し広げているが、地域に与える影響はもっと緩慢なようである。実際、上記の5つの地域における就業状況は、最も活力の高い北東部と回復力のもっとも弱い島嶼部を除けば、全国平均とほぼ同じである。

4-2.就業に関する動向と内部移動

人々が自らの居所を変える理由のうち、就業は主たるものである。とくに、個人および家族の生活サイクルの各段階に伴う変化を理由と

する移動が、比較的近距離にとどまる傾向があるのに対し、就業を理由とする移動は中長距離になりやすいように思われる。

州をまたぐ移動は、1990年代前半には減少していたが、1995年から再び増加し始めた(ただし、最新データである2001年の時点では減少している)。具体的にみると、異なる州への居所の移動は、1991年の29万2000件から、1994年の27万9000件へと減少したが、その後増加に転じ、2000年には35万9000件にまで達した(2001年には32万件)。

こうした全体の変化に加えて、州をまたぐ移動の地理的状況も変わった。1991年から2001年の間に、北東部および中部の州における戸籍登録数が著しい増加したのに対し(それぞれ約40%増と14%増)、同時期の北西部の州では、他の州からの戸籍登録者数がわずかしか上昇せず(2%)、南部および島嶼部では低下した。同時期の登録抹消状況を考慮しても、こうした移動は、北東部の州で著しい(1992年から2001年の間に、居住者1万人あたり11.8人から30.2人へと増加した)。中部では、上昇傾向が続いていたが、最近は若干低下している。北西部も上昇はしているものの、それほど顕著な変化ではない(10.3人から10.9人)。これに対し、南部では、人口が流出しており、戸籍登録数から抹消数を差し引くと大きくマイナスである。

州別にみると、流入が著しいのはエミリア・ロマーニャ州(州都ボローニャ)、フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州(州都トリエステ)、ウンブリア州(州都アッシジ)、トスカーナ州(州都フィレンツェ)およびヴェネト州(州都ヴェネツィア)である。この他、移動があまり活発でない地域(中南部のイタリア内陸地に集中)もある。戸籍登録数から抹消数をひいた数値が平均より低い南部の州の中でも、最もこの数値が低いのは、カラブリア州(州都カタンツァーロ)、シチリア州(州都パレルモ)、カンパーニャ州(州都ナポリ)およびプーリア州(州都バーリ)である。

5.増加しつつある職業集団

1990年代の労働積極政策および生産部門の転換は、すでに1980年代に生じていた人材のスキルアップをいっそう推し進めることになった。一方で、求人は、技術革新の普及、国際市場での競争力の向上およびグローバリゼーションの影響を受け、他方で、労働力は、職業資格水準の向上を目的とした訓練措置の対象となっていた。1990年代後半には、こうした変化によるプラスの効果が、(とくにサービス業の高度専門職における)就業水準の増加という形で現れてきた。

経済成長の鈍化が労働市場にも影響するようになった2000年から2003年には、このような状況が著しく変化している。まず、熟練度の高い職業での採用が減少した。経済の不調にもかかわらず、雇用の伸びは大きかったが、弾力的な労働形態の導入とその増大のために、雇用の内容が変化したのである。

2003年の部門別職業構成をみると、熟練度の低い職業が増加したことがわかる。とくに、サービス業では、職業の専門化が遅れる一方で、売買・家族向けサービス等に関わる職業が増加してきた。

ISTATの分析では、1995年、2000年および2003年の労働力調査が用いられている。

OECDの基準に従い実施されるこの労働力調査によると、2003年には、ホワイトカラー労働者が就業者全体の62%を占めていたとされる。サービス業では、この比率が81%であったのに対し、製造業では36%にすぎない。ホワイトカラー労働者のうち高度専門職に就く者は、全体では54%だが、製造業では61%である。サービス業では、提供するサービスにより、専門性の高い職に就く者と低い職に就く者が異なる。たとえば、企業向けサービスでは、高度専門職に就くホワイトカラー労働者が多いが、配達サービスや対人サービスでは専門性の低い場合が多い。全部門を通じて、ホワイトカラー労働者は、1995-2000年および2000-2003年のいずれの時期についてもプラスの伸びであり、また、中高度の専門的職業の増加は専門性の低い職業に比べて高かった(それぞれ3%と1.5%)。しかし、その内容をみると、高度専門職よりは、中度専門職の方がより増加している。

全就業者の38%を占めるブルーカラー労働者は、製造業においてその割合が高く(64%)、逆にサービス業では少数である(20%)。ブルーカラー労働者全体でみると、専門性の高い職種と低い職種の割合には、それほど違いがない(それぞれ20.4%と17.5%)。製造業のブルーカラー労働者については、専門性の高い者と低い者との割合に差がないが、サービス業では、提供されるサービスの種類を問わず、専門性の低い労働者が多数を占める(専門性の高い職種と低い職種の割合はそれぞれ、企業向けサービスで2.5%と8%、対人サービスで2.2%と14.9%)。1995-2000年および2000-2003年のいずれの時期にも、全体的に、ブルーカラー労働者に関してはプラスの伸びであり、また、中高度の専門職に比べると、専門性の低い職業の増加が目立った(それぞれ0.1%と0.3%)。

これに対し、2000-2003年の3年間については、それ以前と異なる傾向が現れている。実際、増加している職業集団の数は似たようなものであるが、その内容はかなり異なっている。一般に、2000-2003年に増加してきた職業の成長速度は、少なくとも部分的にはそれ以前の時期と逆である。つまり、これまでは成長していた職業が停滞し、成長がゆっくりであった職業の方がより飛躍的に伸びている。

1995-2000年および2000-2003年のいずれの時期に増加している職業は、高技能の自由専門職労働者、および事業主・企業管理職がある。(医師および教員を除く)高技能の自由専門職労働者は、いずれの時期についても、最も増加が著しかった部門の1つである。事業主および企業管理職については増加率が上昇している。この種の職業を分析すると、その分布は中北部に集中しており、中ないし高学歴で、男性が多い。

サービス部門における販売員やその他のサービス業等の低技能労働者は、2000-2003年の間に著しく増加した(9%)。これは従前の時期とは異なる傾向である。この種の労働者は、34歳を越える年齢層のすべてに含まれるが、その内容をみると、多くが低学歴で、パートタイムないし有期雇用で働く、独立労働の女性が主である。なお、増加しつつある職業の労働関係の多くは、期間の定めのないパートタイム契約ということが多い。

1995-2000年および2000-2003年の2つの時期に関しては、増加しつつある職業の性質に断続性はないが、同時に、その好不調から、労働市場の弾力化という流れを看取できなくもない。ただし、高度専門職と低技能職の間には大きな格差があるのも事実である。

6.労働と家庭―女性に関する両立戦略

女性労働者の増加は、ここ数年の労働市場の転換を特徴付ける主たる現象の1つである。

家庭の状況が労働市場における女性の進出にある程度影響していることは、女性の就業率が、家庭における女性の役割の違いによって大きく左右されているという事実から明らかである。実際、独身で子どものない35歳から44歳までの女性の就業率はほぼ87%であるが、同年齢で既婚・子どものいる女性となると50%を若干上回る程度にすぎない。

女性が労働市場にとどまろうとすれば、女性は、自らの置かれた状況と職業とを両立させるためにさまざまな戦略をとる必要がある。パートタイムの職に就くことは、家事と職務とを両立させる困難を小さくする主たる方法の1つであろう。実際、家庭における責任が大きくなってくると、従属労働であれ独立労働であれ、パートタイムで働く女性の割合は増加する。たとえば、既婚で子どものいない女性がパートタイム労働に就く割合は14.2%であるのに対し、既婚で子どものいるパートタイム労働者の女性の割合は21.8%である。また、子どもがいてパートで働く女性の70.4%が、子育てのためにパートタイム労働を選択をしたとされる。当然、この割合は、子どもがより小さいときにはもっと高い。子どものいる女性がパートタイムを選択したほかの理由としては、家庭で過ごす時間を増やしたかったから、とか、家事と労働とを両立する必要があったから、ということも挙げられる。また、子どものいる女性の約半数(45.2%)が、労働時間が弾力的な形の労働形態を利用しており、また、5分の2以上が育児休暇を利用している。

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