依然の残る男女賃金格差
アメリカ労働統計局が、2004年2月に発表した「労働力における女性のデータブック(PDF:11KB)」によると、フルタイム正社員における男女の賃金格差は、過去20年間で縮小しているが、依然として格差が存在している。男性の賃金を100とすると、1979年の女性の賃金が62.3であるのに対し、2002年には77.9にまで改善されている。アメリカでは、女性の社会進出が1970年代頃から急激にすすんだ結果、現在では管理職や高収入職の女性が増加し、賃金格差は大幅に減少したとする見方が一般的である。しかし「依然として男女の賃金格差は大きい」とする民間研究所の報告書が発表され、注目を集めている。
統計対象により変わる男女賃金格差
毎年4月20日を「男女同一賃金の日」と定めるIWPRが、同日に発表した「女性に関する統計報告書2004」をみると、アメリカにおける男女賃金格差は依然大きく、白人男性の賃金を1ドルとした場合、女性(この場合、全人種の正社員を指す)は平均して68セントとなっている。更に同報告書は、賃金格差の縮小ペースがこのまま継続した場合、今後50年間にわたり格差は解消されないだろうと予測している。
なお、男女賃金の比較対象を正規・非正規の区別をせず「労働者」という枠で、15年間にわたる追跡調査を行った場合、男性1ドルに対して、女性は38セントという衝撃的な報告書が同研究所から6月2日に発表されている。
男女賃金格差の要因
前労働省女性局長のイラセマ・ガルザ氏によると、こうした賃金格差は、教育レベルや職業経験において女性が劣っているというよりも、雇用や昇進における男女差別やジェンダー化された労働に主な原因があると考えられている。また、根強く残る家庭での性別役割分担も要因のひとつと考えられており、女性が介護や家事などの無償労働(アンペイドワーク)に費やす時間の多さと、そのような制限の中でしか選択できない職業内容にも関わりがあるとみられている。
ジェンダー化された労働については、スーパーの店員・ウエイトレス・老人ホームの皿洗い・清掃人などの職業には女性が多く、低賃金のものが多い。そのためフルタイムで年間を通じて働いているにもかかわらず、貧困に苦しむ者が多い。商務省国勢調査部が6月2日に発表した報告書によると、一般に賃金が高いとされる専門職においても、女性が多く従事している看護師・教師・社会福祉職は、男性が多く従事している法律・経営・エンジニアリングなどの専門職業と比較して、総体的に賃金が低いことが指摘されている。
格差解消のための政策
男女賃金格差の中で、明らかに性差別に基づく事例に関しては、個人の申し立てを管轄するアメリカの雇用機会平等委員会(EEOC)や、集団もしくはパターン化された差別を管轄する連邦契約遵守プログラム部(OFCCP)があり、差別解消のための行政機関として大きな役割を果たしている。
この他に全般的な男女格差の解消を目指す政策としては、アファーマティブアクション(積極的改善措置)がある。これまで雇用や処遇に関して不当な差別を受けてきた女性やマイノリティに対して、教育や雇用の実質的な機会均等を確保するための政策として知られている。アメリカ企業の多くは、女性やマイノリティの雇用比率を高めるためにクオータ(割り当て)制度を設定しており、優先的な採用を行っている。これが1970年代以降の女性の職場進出に大きな影響を与えた。
現在でも、逆差別につながるという批判はあるものの、改善を重ねながら政策として継続している。
また労働省は、性別役割分担に関連する負担の軽減、女性が働きやすい環境を整備するために、保育費用の負担軽減や個人退職勘定(IRA)からの介護費用の引き出し、勤務時間のフレキシブル化、最低賃金の引き上げ、公正賃金情報センターの設置、年金キャンペーンなどを積極的に推進している。最近注目を集める女性局の取り組みとしては、女性労働者の中でも不利な立場にあるとされるヒスパニック系マイノリティの女性に焦点をあてた支援政策活動がある。
2004年7月 アメリカの記事一覧
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