イタリアにおける継続的職業訓練政策の発展

カテゴリー:人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2004年5月

1.生涯学習(Lifelong lerning):ヨーロッパの例

イタリアで進行中の労働市場および訓練・教育制度改革において、就業者および未就業者の継続的職業訓練を目的とする政策が立案・実施される中で、生涯学習戦略は横断的な性格を帯びつつある。この点、生涯学習政策の推進に対する強力なカンフル剤となったのは、競争、成長、経済的社会的一貫性、および、就業に関する欧州戦略である。

リスボン欧州理事会の定めた戦略的目的(2010年までに、ヨーロッパは「継続的な経済成長を実現することができるように、世界的な競争およびその潮流を意識し、新たなより良い労働ポストおよびより強固な社会的一貫性を備えた経済」になる)は、EU加盟国で実施される人材への投資に関する政策案との関係で重要な指針である。この中で、生涯学習は、教育政策、職業訓練政策および就業政策の「橋渡し」として、中心的な役割を果たす。これは、積極的市民、就業能力および適応能力(アダプタビリティー)という3つの視点を基礎にしている。生涯学習で学習過程の中心となるのは、人である。訓練は、市民であれ労働者であれ、個人の福祉の実現を補助する。実際、人材への投資、就業可能性(就業能力)および職業上の適応可能性(適応能力)の向上、そして、労働所得の増加との間に関連性があることは、ヨーロッパでも明らかになっている。

生涯学習は、加盟国の就業政策のための指針の目的でもある(欧州理事会2003年7月22日決定、2003/578/CE)。そこでは、生涯学習が、完全就業、労働の質および生産性、ならびに、社会的一貫性と統合に関する政策の実現にとって不可欠なものと捉えられている。EUは、2010年までに達成すべき具体的目標を定めており、これが昨年実施された就業に関する全国規模の諸計画(とくに全国就業措置計画(NAP))および政策の指針となっている。

2.継続的訓練に関するデータ

就業に関する欧州戦略で定められた目的に照らすと、イタリアの状況は、恒久的な訓練への投資を単に増加させるだけでは到底取り戻せないほどに遅れているため、訓練提供機構と政策のあり方自体を見直し、改善していく必要がある。イタリアでは、成人向けの訓練措置が欠けているが、これは、1970年代から1990年代末までの間、もっぱら若年者をターゲットとして発展してきた職業訓練の歴史を反映している。こうした歴史は、主として次の3つの事情に起因している。

  1. フォード生産方式の反映。若年者向け初期訓練への集中は、潜在的により生産性の高い主体を企業が選択できることで、製品の新規性の乏しいさをカバーしてきたことの現れである。
  2. 労働市場の状況。とくに1980年代および1990年代の南部では、高若年失業率・低若年就業率が特徴であった。
  3. 弱者層の支援および教育制度に対する社会的要請。高等学校の当初3年間での退学率の高さと、学業を継続できない若年層の存在(今日でも24%に達する)に鑑み、職業訓練は、学校教育を補完し、若年者の最も弱い層に基本的な競争力をつける役割を果たしてきた。

さらに、25歳から64歳までの成人のうち、何らかの訓練コースに参加したことのある者が4.6%にすぎないのは(ヨーロッパ平均8.9%。欧州戦略では2010年に12.5%を目指している)、職についている労働者向け訓練における公的投資が限定的であったこと、そして、訓練への企業による民間投資が欠けていたことを示している。ヨーロッパレベルで比較しうる就業者向けの継続的訓練に関するデータをみても、最新のイタリアのデータをみても、従業員向けの訓練に対し継続的に投資を行ってきたのが大企業に限られることがわかる(従業員数250人以上の企業では64%が実施)。1990年代半ばからの公的投資により数値が上昇してもなお、小企業での継続的訓練は限定的である(従業員数9人以下の企業では20%が実施)。

3.生涯教育への投資政策に関する最近の動向

イタリアにおける生涯教育は1つのプログラムないし1つの政策領域として把握されるが、実際には多様な施策に支えられている。生涯教育は体系的なアプローチであり、ここでの措置は若年者から高齢者まで全ての年齢層を対象としていると解される。こうした体系的なアプローチを通じて、2003年に実施されたいくつかの重要な改革措置(労働市場改革法や教育訓練制度改革法)が実現された。成人訓練率を高めること、延いては、就業能力および適応能力を高めることを目的とした政策の立案および実施は、次の3つの原則ないし概念に基づいている。

  1. 訓練の要請に従い、措置の配置(delivery)の選択、構成およびモデルを決める。
  2. 全体的な状況に鑑みて、目的達成のために必要な枠組を定める。
  3. 管理モデルの質を確保することで、制度の習熟および政策の継続的な発展を保証する。

3-1.訓練の要請

ここまで見たように、とくに状況が芳しくないのは、継続的訓練措置への就業者の参加である。さらにイタリアでは、1990年代中ごろまで、就業者向けの訓練の提供も暫定的な政策も存在しなかった。欧州社会基金および1993年法律236号により実現された措置の結果、とくに南部の中小企業および労働者の弱者層(女性、低学歴・低技能の主体)の制度利用が困難であることが明らかになった。EUの基金により実施された継続的訓練措置の評価によると、訓練を実施した企業は、生産拡大および生産過程の近代化を実施している大企業ないし中・大規模企業であり、地域的には、中北部が主である。一方、訓練を受けた労働者は、組織の中で中核的な役割を担っており、年齢は45歳以下、すでに高い技能を有していると評価できる主体であることが特徴であった。就業者および成人一般の訓練率に関するデータによると、イタリアは、ヨーロッパ平均との格差が著しいことがわかるが、そこで明らかになった訓練に関わる主体(企業および労働者)の特徴は、ヨーロッパおよびOECDの他の諸国と類似している。

一般的な要請(訓練率一般の引き上げ)であれ、具体的な要請であれ、継続的訓練に対する要請に応えるため、訓練に自発的に参加することができない主体に対して、次の2つの措置が実施された。

  • 継続的訓練のための、職業間同数代表基金の創設
  • 弱者層の労働者を各企業レベルで再訓練するための暫定的な財政措置の実施

これらの措置が実施された3年後、企業が給与額の0.3%(いわゆる「失業に対する拠出」)を従業員の継続的訓練に充てることを認める2000年12月23日法律388号〔国家予算作成に関する既定(2001年財政法)〕が規定された。企業は、自発的に、INPSに対し、労働社会政策省の認可した職業基金にこの拠出を振り込むよう要求することができる。別個、付加的な費用を準備する必要はない。この措置を実施するため、労働社会政策省は、既存の9つの基金に対し、1億8500万ユーロを充当した。2004年以降、これらの基金に企業が支払う拠出額は、年間約5億1000万ユーロに達することになろう。2003年6月時点で基金に加入している企業は283,926社(21%)、従業員数にして3,855,650人(38%)である。2003年末には、全労働者の44%をカバーするに至ったと推計されている。

職業間基金は、イタリアにとって極めて重要な新制度である。訓練施策の決定に際し、近年その役割を拡大してきた労使は、今日では、継続的訓練に関する公的政策の財政に充てられる資金の運用計画および運営を求められている。労使相互制度は、使用者代表組織と労働組合とが直接に関わるために、継続的訓練の要請を把握するのに最も適しており、資金の運営や訓練計画を実施する際に革新的な解決策を導けるといえる。2003財政法および労働社会政策省実施令により定められた制度の枠組みの中で、職業間基金の管轄する施策が定められている。このシステムは、2000年法律388号で定められた基金に関する方針決定、監視および評価に加えて、これを管理監督することを目的としている。継続的訓練率の引き上げが目的であるならば、訓練への参加を容易にし、機構および運営にかかる費用等を抑え、措置の計画および再計画ができるように、物理的、財政的および生産的な指標の制度を定めることが不可欠であろう。さらに、州、労使および労働社会政策省の代表者により構成される継続的訓練に関する監視委員会は、一方で、政策、基金の活動そして州および自治県の活動との相乗作用および補充性を確保し、他方で、イタリアにおける継続的訓練の総合的な方針決定および評価を行う。職業間基金を通じた継続的訓練実施の成果は、2004年半ばに公表される予定である。

労働市場で弱い立場に置かれている就業者に対する特別な訓練という要請に応えるため、2003年には5000万ユーロ相当の資金が、従業員数15人未満の民間企業の労働者向けの企業訓練計画および個別的要請措置に充てられた。こうした労働者としては、連携的継続的協働労働契約を締結した、または、2003年法律30号により定められた契約類型に含まれるパートタイム労働者、有期契約労働者、通常および特別所得保障金庫の措置を受けている労働者、ならびに、45歳を超える労働者および初等教育または義務教育しかうけていない労働者が挙げられる。ビアッジ法によりイタリアでは初めて、若年者でない就業者の再訓練を目的とした制度が開始された(54条参照)。識字率の低さが、とくに中高年層で著しいことを考えると(文字の読み書きができない者は、45-54歳で28%、55-64歳で52%)、この制度は非常に重要である。実際、読み書きができないために、労働市場および社会から疎外され、貧困に追いやられる危険性が高まることが指摘されている。

また、最近のヨーロッパでは、需要に対するアプローチをこれまでとは逆にした仕組みが導入されつつある。すなわち、個人が、自らの需要を示し、訓練コースを選択し、訓練に参加するための財源を直接に受け取る(いわゆる訓練クーポン)という仕組みである。また、各個人のモチベーションと責任感覚を高めるため、個人に一部費用負担をさせる仕組みも採用されている。

継続的訓練に関する最近の措置は、全体的に、訓練個別クーポンの仕組みを採用するものが多い(労働市場へ若年者を組入れるための訓練についてもいえる)。その効果を評価するのはいまだ早急であるが、継続的訓練に対する個人の需要、とくにこれまで企業による選択を通じて訓練に参加してきた就業者の本来の需要を計ることがその目的である。企業が訓練にあまり関心を示していない場合、とりわけ、企業文化と人材発展の度合いがいまだ十分でなく、訓練措置および訓練休暇を定める契約協定が実現していない小規模企業では、労働者個人が自らの競争力を向上させる機会を持てなければならない。この点意味深いのが、「育児休業」に関する2000年3月8日法律53号〔父親および母親に対する支援、ケアおよび訓練に関する権利ならびに市民の時間の調和に関する規定〕の実施令である。ここでは、労働契約上の労働時間が削減に伴う訓練プロジェクトに関する措置が基本的に失敗したこと受けて、代わりに、労働者から直接に要求する訓練措置が実施された。この訓練休暇は、使用者の許可さえあれば、労働者が給与が支給されず社会保険の保障もない待機期間を受け入れることのできる場合、当該労働者個人の要請に基づき実施されるというものである(2000-2002年の間に同制度を利用した労働者は10,500人にすぎない)。学歴の取得を個人の価値というでなく集団の価値としても認めているのとは著しい違いがある。公的機関に訓練の提供を保障する義務があるように、企業自身も、これを保護する責務がある。イタリアの労使関係は、公教育の価値ほどに継続的訓練の価値を認めるレベルに至っていない。就業者向けの訓練が企業の具体的な要求に応えていない状況において、この種の訓練の普及には、労使関係の成長が必要である。実際、財源を定めるだけでは十分ではなく、報酬労働時間内であれ、時間外であれ、訓練に割く時間があることも同様に重要なのである。

3-2.制度をめぐる状況

現在、生涯教育ないし教育制度、訓練制度、労働制度をめぐる状況は、極めて広範に及ぶ改革の只中にある。この労働改革により、労働市場の現代化だけでなく、改革全体の達成に向けて付属的な制度が導入・実施されている。これらの付属的措置は、イタリアの生涯教育に関する制度の推進にも寄与するであろう。こうした措置には、改革全体に亘る横断的なものあれば、一定のシステムに限定されるものもある。

市民向けの訓練証は、前者のカテゴリーに属する。実際、訓練によって能力(学歴や資格等)が獲得され、同証書がいったん作成・交付されると、各個人の能力を目に見える形で表すことができる。各人の能力に透明性を確保し、可視性を与えることは、職業生活、社会生活、家庭生活の領域で、市民が獲得した能力を評価するという従属的かつ予備的なものである。能力の評価によって、垂直的および水平的な労働移動可能性を労働者に与え、求職中の市民に就業可能性を確保することが、真の目的である。

したがって、訓練証は、様々な訓練コースにおいて、また、多様な契約類型に沿って、個人に交付され、当該個人の資格および能力(公的なものかどうかを問わない)を記した文書として使用されねばならない。

他の横断的な措置としては、州就業サービス(SPI)および仲介業者に付与された新たな役割がある。これらの機関が実施する職業指導、とくに、成人に対する職業指導は、当該地域における恒常的な訓練の機会(たとえば、個別クーポンの利用ができるかなど)に関する情報提供や方針決定の役割を果たしている。

しかしながら、ここ数年、訓練の機会の情報を得ることについて問題があることが明らかになっている。これは、効果的な就職サービスシステムのみだけでは解決しえない。多くの理由が考えられるが、ここでは次の2つを挙げよう。

  1. 2000年法律53号で定められた訓練について、職についている労働者が個別クーポンを利用できることを知らない(企業および労使による情報提供が欠けていることがわかる)。
  2. 幼い子供や高齢の両親を抱える成人女性が、子育てや介護の時間と訓練の時間とを両立できないため(労働時間についてはいっそう困難)、訓練措置を利用しない(参照、労働社会政策省「就業および労働政策に関する監視」2003年12月)。

したがって、全ての人が情報を知りえる状態にあり、また情報へのアクセスが容易であることは、政策へのアクセスにとって不可欠の情報となっている。改革の周知や制度のキャンペーンは広まっているにもかかわらず、このための措置や財源はいまだわずかである。労働時間とケア時間との両立策は、多くの具体的な改革措置に横断的に関わっているが、中でも、女性の就業率に潜在的影響を与えるパートタイムやビアッジ法で導入された契約類型に関する最近の規制との関係が深い(イタリアの女性就業率は、ヨーロッパの中でも最も低い42%)。訓練への参加について、欧州社会基金には、訓練措置の利用に際してケアサービスを使えるよう、低所得の女性に対し、州が個別クーポンを支給する実験的な措置がある。

生涯教育をめぐる状態を改善するための横断的な措置のほかに、各政策の実施に関する具体的な措置も多く存在する。こうした措置の中でも最新かつ最重要なものとして、見習労働契約の実施に関する以下の措置がある。

  • 職業資格の取得のために国レベルで必要な能力の最低基準を定める予備的な制度としての職業目録。同目録は、何よりも、労働契約で定められた多くの職業資格を類型ごとにグループ化するためのものである。
  • 能力の認証。
  • 見習労働終了時に学業を継続しようとする見習労働者に対し、学業継続を保障するための訓練単位の認定。従来と異なり、今では、企業での訓練で獲得した単位も訓練単位に含めることができる。

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