(香港特別行政区)2004年2月期失業率7.2%、低下は鈍化
―2003年12月期~2004年2月期の労働市場の動向

カテゴリー:雇用・失業問題統計

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  • 国別労働トピック:2004年5月

重症急性呼吸器症候群(SARS)の経済に対する打撃が労働市場に波及して、2003年7月期に香港の失業率は最悪の8.7%を記録したが、その後中国政府との経済協力強化(CEPA)の締結や中国本土からの個人観光客の解禁による観光産業の復興等の影響で、景気の本格的回復基調が現れ、これとともに失業率も急速な改善を示してきた。そして董健華長官の2004年1月の施政方針演説でも、こと数カ月来の景気の回復とこれが労働市場に及ぼす好影響について、楽観的な見方が示された。だが2003年12月期の失業率は7.3%で、5期連続の改善を示したものの、低下は0.2ポイントに止まり(9~11月期は0,5ポイント低下)、2004年1月期には前期と同じ7.3%の現状維持となり、さらに同年2月期には再び7.1%と低下したが、低下は0.1ポイントで、過去3カ月間の改善傾向は明らかに鈍化の傾向を示している。

以下、過去3カ月間の香港の労働市場統計を概観し、これに対するエコノミスト等専門家の今後の見通しを紹介する。

(1)過去3カ月間の労働市場統計

2004年1月19日政府発表の統計では、2003年10月~12月期は、失業率は7.3%(前期比で0.2ポイント低下)、失業者数は25万3000人(前期比で1万1000人減少)、不完全雇用率は3.3%(前期比で0.1ポイント低下)、総労働力348万9000人(前期比で7000人増加)、被雇用者数323万6000人(前期比で1万8700人増加)だった。政府労働局に寄せられた民間求人数は5万8000人で、前年同期比で19%増加となった。失業率は2003年3月にSARSが勃発した時の7.5%以来最低水準となったが、11月に1万1600人の暫定雇用を延長するために12億ドルの対策費が講じられたことも影響している。改善を示した部門は、内部装飾、メンテナンス、レストラン・ホテル、卸売・小売、通信、企業サービス、教育サービスの部門だった。

次に2月19月発表の政府統計では、2003年11月~2004年1月期は、失業率7.3%(前期と同じ)、失業者数は24万5000人(前期比で8200人減少)、不完全雇用率3.3%(前期と同じ)、総労働力348万5000人(前期比で4000人減少)、被雇用者数は324万人(前期比4700人増加)だった。政府労働局に寄せられた民間求人数は1万3619人、改善部門は、小売、輸送、輸出入、装飾・メンテナンスの諸部門だった。これに対して不動産と企業サービス部門は悪化した。

さらに、3月18日発表の統計では、2003年12月~2004年2月期は、失業率7.2%(前期比0.1ポイント低下)、失業者数24万5000人(前期比で400人増加)、不完全雇用率3.3%(前期と同じ)、総労働力349万5000人(前期比で1万人増加)、被雇用者数325万人(前期比9500人増加)だった。政府労働局に寄せられた民間求人数は2万3461人で、改善部門は前期と類似の部門だった。

(2)エコノミスト等専門家の今後の見通し

政府当局者によると、2003年12月期の失業率の0.2ポイント低下は、景気回復とともに、クリスマスシーズンと新年の労働力需要に帰するところが大きいとされた。そしてエコノミストの中には、SARSの再発がなければ2004年中に失業率は5.5~6%にまで低下すると予測するものもいたが、同時に香港労働市場の構造上の問題を指摘する声もあがっていた。そして、2004年1月期に失業率が現状維持に留まったことは、多くのエコノミストが中国本土からの観光客の増大等の影響で6期連続の失業率の低下を予測していただけに、多少の驚きをもって迎えられはしたが、労働市場の構造問題を指摘する声を強くし、また2月期に失業率が0.1ポイントの低下に留まったことは、さらに構造問題を指摘する声を強くしている。

ヘンリー・タン財務長官は、SARS禍を脱して失業率が急速に低下し始めたときから今日に至るまで、寄港労働市場が抱える構造問題の重要性に言及してきたが、この問題はエコノミストの指摘するように、知識主導型の経済への移行過程で多くの教育水準の低い非熟練労働者が失業して、労働市場がこれらの失業者を吸収するのに限りがあり、レストランや小売部門等でこれらの非熟練労働力に対する需要があっても、すぐに飽和状態に達してしまい、失業統計の改善が進まないという問題である。

この構造問題の改革がない限り、中国本土からの観光客の増大等があっても、今後香港労働市場の統計の急速な改善は望めないとの声が一般的であり、さらに、景気が本格的な回復基調にある中で、就職の希望をもって従来よりも多くの人が労働市場に参入しようとしていることも、統計の改善の鈍化を招来しているとするエコノミストの声も上がっている。そしてこれらの問題が解決されない限り、今後香港の失業率は5%前後の水準で下げ止まりになるだろうとの予測も一部エコノミストからなされている。

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