アメリカの経済回復と雇用政策

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係

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  • 国別労働トピック:2004年2月

2004年11月2日のアメリカ大統領選の再選を目指すブッシュ政権にとって、経済と雇用の回復は欠かせないが、ここ数ヵ月間に公表された政府の関連統計は、経済・雇用ともに回復基調にあることを示している。ブッシュ大統領も支持者集会等で「2003年当初に打ち出した減税政策が、経済と雇用の回復に効果をもたらした」と自らの政策成果を強くアピールしている。しかし急速な経済の回復と比較して、低下傾向にはあるものの、依然6%近くで高止まりしている失業率と新規雇用創出の停滞は「雇用なき回復(ジョブレス・リカバリー)」としてブッシュ政権の重要な政策課題となっている。

経済と雇用の動向

2003年11月25日にアメリカ商務省が発表した7~9月の実質国内総生産(GDP)は、前期比で8.2%(年率)増加した。速報値から1.0%の大幅な上方修正となり、予想以上に急速な経済回復を示す数値として市場関係者を驚かせた。またアメリカ労働省が12月3日に発表した7~9月の非農業部門の労働生産性は、前の四半期と比較して9.4%(年率)上昇した。速報値より1.3%上方修正され、20年ぶりの高い伸び率となっている。

同じくアメリカ労働省が12月5日に公表した11月の失業率は、5.9%で、前月に比べて0.1%低下し、2ヶ月連続の低下となった。 非農業部門の雇用者数は前月より5万7000人増加し、4ヶ月連続の増加となっている。

労働市場関係者は、当初、労働市場の本格的な改善のためには1カ月あたり約15万人の雇用を創出する必要があると見積もっていたが、11月時点では、5万7000人しか増加していない。しかしそれにもかかわらず失業率は低下している。これについて市場関係者は、失業率統計の対象外である自営業者の増加が影響していると考えている。昨年1年間で自営業者は40万人以上増加し、不況によって一時解雇された失業者の多くが起業して自営業のグループに吸収されたため、失業率の値が予想より悪化しなかったのではないかと推測している。

雇用なき回復

このような経済の回復と雇用の動向について、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ理事は、これまでの景気後退時と比較して、今回の景気後退時に実施された大部分のレイオフ(一時解雇)は一時的なものではなく永続的なものであると述べている。2003年夏に発表されたニューヨーク連邦準備銀行の調査でも、ここ1~2年で失われた多くの製造業の仕事が新しい仕事に取って代わることはない、と結論づけている。その理由として、企業が新しい機械の導入や生産プロセスなどの見直しを実施したことにより大幅な生産性の上昇を達成し、従業員を増やさずに生産を増やし収益を上げられるようになったこと、それに加えて人件費の安価な中国やインドなどへのアウトソーシング(事業の海外移転)を急速にすすめていることを挙げている。そしてバーナンキ理事は、経済の大幅な回復にもかかわらず本格的な雇用の回復が見られない点について、前述のような生産性の上昇が余剰労働者の増加や雇用の空洞化を引き起こし、結果として異なった会社や職種、産業への仕事に移らなければならないため雇用創出が滞り、国内の雇用や賃金に影響を及ぼしているとしている。

労働組合の取り組み

アメリカ労働総同盟(AFL-CIO)は、12月18日に「経済と雇用の実態調査に関する報告書」を発表した上で、次のように主張している。ブッシュ政権の経済政策について、景気後退が2年前に終了したにもかかわらず賃金は停滞しており、昨今の急速な経済回復や生産性向上は、短期的な企業家の利益を優先させる減税政策と何万人ものレイオフ、雇用の海外流出による一時的なものであり、根本的な構造改革を行う必要があるとしている。また雇用政策については、このような市場経済優先の政策を推し進めた結果、ブッシュ大統領が就任した2001年1月時点の失業率と比較して全州の失業率が悪化しており、労働者の生活や賃金・労働条件の悪化を放置したまま社会的な支援政策をほとんど行わず、これほど雇用を喪失させた大統領はフーバー大統領以来初めてであると批判している。

その上でアメリカ労働総同盟(AFL-CIO)は、高速道路や学校の建設や運送システムへの投資により雇用を創出することを提案している。また議会に対し、12月31日で期限切れとなる連邦政府の緊急時失業保険給付プログラム(2002年3月に時限立法として成立)の拡大継続を呼びかけており(海外労働時報2003年8月号)、一部の下院議員がすでに従来の13週から26週へ給付期間拡大の立法に向けた活動している。

しかし大統領経済諮問委員会が発表した2003年の「大統領経済報告書」によると、失業給付期間の延長は、失業者の就業意欲を減退させ、労働市場への早期復帰を阻害するとしている。多くの失業者が失業給付終了直前に就職する傾向があるため、仮に給付期間を26週に延長した場合、10月の平均失業期間が19.1週であったのに対し、21.4週に拡大してしまい、結果としてアメリカ国内の失業率を0.3%悪化させることになるだろうと見積もっている。

労働省の雇用政策

イレーン・チャオ労働省長官は12月8日、現在の雇用情勢について、ブッシュ政権の減税政策が景気回復を強く後押ししており、派遣社員を新規に雇用しようとする企業が増加している点、また医療サービスや教育、旅行、建設産業分野で雇用が増加している点などを強調した。その上で製造業分野における失業が増加している点については、今後10年間のうちにバイオテクノロジー分野で300万人、医療サービス分野約130万人、ハイテク分野で80万人という大幅な雇用増を見込んでおり、そうした成長産業への失業者の速やかな取り込みを今後雇用政策の柱として実施すると述べた。そのため労働省は、今後120億ドル(注1)の予算を職業訓練プログラムにあてた上で、産業界のニーズに合った労働者の職業訓練を実施することを計画している。

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