若年失業や雇用の流動化が目立つ最近の雇用情勢と政府の雇用対策
景気低迷の影響で失業率、とりわけ若年失業率の上昇傾向が再び目立つ一方で、早期退職や非正規労働者の増加傾向には歯止めがかからず、雇用の流動化はもう逆らえない流れとなっている。このような雇用情勢を踏まえ、政府は通貨危機後初めて中期雇用政策基本計画(2004~2008年)を策定し、最重要政策課題の雇用創出に全力で取り組む方針を明らかにしている。
以下、最近の雇用情勢と政府の雇用対策を詳しく見てみよう。
若年失業や雇用の流動化が目立つ最近の雇用情勢
まず、景気低迷の影響で雇用情勢が厳しさを増すなか、若年層へのしわ寄せが目立つ。統計庁によると、2003年10月の失業者は76万5000人で、前年同期より12万6000人増え、失業率は2.8%から3.3%へと0.5%上昇した。そのうち、15~29歳層の失業者は35万6000人で失業率は7.3%に上るのに対して、30代は3.1%、40代2.0%、50代1.9%にとどまるなど、若年層ほど景気低迷による新規採用抑制の影響を大きく受けていることが分かる。特に若年層の場合、学校卒業または中退後初めて就職するのにかかる期間は平均12.4カ月で前年同期(11.7カ月)より長くなっている。そのほかに、厳しい雇用情勢を理由に求職活動を断念した者は2003年10月現在9万4000人で前年同期の4万8000人より倍以上増えている。
第2に、景気低迷が長引くにつれ、新規採用は減る反面、退職者数は増える傾向が続いている。労働部によると、従業員5人以上の事業所で2003年8月現在新規採用したのは12万4000人で前年同期より3.9%減少したのに対して、退職者数は13万3000人で前年同期より9.9%増加した。これは退職者数が新規採用の数を9000人上回ったことになる。事業所規模別に見ると、従業員5~9人事業所(7000人)、100~299人(5000人)、30~99人(1000人)などのように中小企業では退職者数が新規採用の数を上回っているのに対して、従業員500人以上の大手企業では新規採用の数が退職者数を2000人上回るなど、中小企業ほど雇用情勢が厳しさを増していることが窺える。
第3に、企業の随時雇用調整に伴い、早期退職の傾向が広がり、雇用者から自営業者や家族従業者などの非雇用労働者への労働力状態変化の傾向が強まっている。例えば、労働部によると、2002年末現在退職などの理由で雇用保険の被保険者資格を失った者は男性212万4334人、女性128万335人、など合わせて340万4669人で2001年より5.3%増えた。その内訳を資格喪失事由別に見ると、転職・自営業創業が107万6833人、会社都合による退職が33万6486人、契約期間満了・工事完了による者が19万6699人、廃業・倒産・工事中断などによる者が16万9916人、経営上の理由による整理解雇が2万8853人、定年退職が1万2731人、懲戒解雇が1万1195人などの順となっている。定年退職は全体の0.37%にすぎず、大半は自己都合か会社都合による早期退職で占められている。
第4に、早期退職や整理解雇などの際に対象者の選定基準として年齢より査定を重視する傾向が広がっている。特に通貨危機後年俸制や成果主義人事制度を導入する動きが広がり、その前提となる査定の納得性を高めるための工夫が積み重ねられるとともに、査定がひいては従業員の自発的な早期退職を誘導する手段として用いられることが広く見受けられるようになった。その影響で、早期退職の対象は30代半ばまでに広がっている反面、中途採用の際にも30代半ばまでを優先するところが増えている。このような早期退職および中途採用の低年齢化傾向は、通貨危機後急成長中の就職斡旋市場にそのまま反映されている。例えば、就職斡旋専門のジョブリンク社の場合、求職中の会員数は1998年の3500人から2003年9月末現在150万人に増え、求人企業数は98年の800社から2003年9月末には17万社に上っている。特に求職相談者のうち20代、30代の急増ぶりが目立つ(1998年の14.3%、16.9%から2003年9月現在32.1%、36.2%へ)。
第5に、雇用の流動化とともに、労働市場の二重構造の深化が著しい。まず目を引くのは正規労働者と非正規労働者の間における二重構造である。統計庁の「経済活動人口付加調査(毎年8月基準)」によると、2003年6月から8月までの3カ月間の平均賃金は正規の常用雇用者の場合195万8000ウォンで前年同期より10.7%増えたのに対して、非正規の臨時雇い労働者の場合103万2000ウォンで6.3%増にとどまり、日雇い労働者の場合は75万9000ウォンでむしろ0.1%減っている。正規の常用雇用者の平均賃金を100とした場合、非正規の臨時雇いと日雇いはそれぞれ52.7、38.8にとどまり前年同期(54.9、43.0)に比べて正規と非正規の賃金格差はさらに開いている。このような二重構造は最近正規から非正規への雇用調整の傾向が目立つ金融部門でも確認することができる。例えば、韓国非正規労働センターが発表した「金融労組非正規職実態調査」によると、金融労組傘下支部の正規社員数は2003年1月から6月末までの半年間で4586人(4.6%)減ったのに対して、非正規社員数は7395人(22.1%)増えた。その結果、全社員13万6803人のうち、非正規社員は4万836人で29.8%を占めるようになった。そして非正規社員の平均年収は1730万ウォンで正規(3717万ウォン)の46%、平均月給は122万ウォンで正規(295万ウォン)の41%にとどまっている。特に高年齢になるほど正規と非正規の賃金格差はさらに広がるようである。
もう1つの二重構造は大企業と中小企業の間である。労働部によると、2003年7月現在までの賃金上昇率を事業所規模別に見ると、従業員500人以上の大手事業所は14.9%で最も高く、次いで10~299人9.3%、30~99人8.0%、300~499人6.4%、10~29人6.1%、5~9人5.3%などの順となっている。そして5~9人の中小事業所の賃金を100とした場合、500人以上の大手事業所のそれは193.9上り、2001年同期(170.4)、2002年同期(177.6)より規模別賃金格差はさらに開いている。
政府の雇用対策
以上のように、景気低迷に伴い雇用情勢が厳しさを増す一方で、労働力需給のミスマッチ(高い進学率と中途・通年採用方式)による高学歴若年層の高い失業率、随時雇用調整による早期退職の増加、労働市場の二重構造の深化など、通貨危機後特に顕著になっている雇用の流動化の流れが雇用関係や労働市場の姿を大きく塗り替えている。
政府は通貨危機から今日まで大量失業という緊急事態に対処するための急場しのぎの失業対策(短期失業対策事業、中高年および若年層向け就職支援事業、雇用保険3事業の拡充など)をそのつど繰り返すことにより、失業率を2~3%台に抑えるとともに、ソーシャルセーフティネットを拡充してきた。しかしながら、このような急場しのぎの失業対策では、「雇用の流動化を容認しながら、雇用の安定化をも図る」という新たな雇用政策課題には有効に対処することができなくなっている。このような問題意識から、政府は通貨危機後初めて2004年から2008年までの5年間にわたっての中期雇用政策基本計画を策定するに至ったようである。その主な内容は次のとおりである。
まず、政策目標:第1に、労働市場の改革により、経済活動参加率(労働力率)を2002年の61.9%から2008年には65%へ引き上げる。特に女性労働力率の引き上げに注力する(49.7%から56%へ)。第2に、雇用保険の適用対象拡大により、失業給付受給率を2002年の18.5%から30%に引き上げる。第3に、生涯職業能力開発体制の構築により、年間300万人に教育訓練の機会を与える。
次に、6つの主要政策課題と計画:
第1に、持続的な雇用創出;
- ITなどの新技術産業と次世代成長産業などを中心に毎年30~40万人分の雇用創出。
- 雇用吸収力の高い中小企業の創業・育成のための税制金融面での支援。
- 福祉や環境、文化などの公的サービス部門における非政府組織による事業支援および高齢者・女性・長期失業者などの雇用支援。
- 高齢者・女性・長期失業者を採用する企業に対する賃金補助制度や転職支援制度の拡大などに取り組む。
第2に、労働力需給のミスマッチ解消;
- 労働力需給調節のための基盤整備に向けて、雇用安定センターでの求職者特性別雇用サービスの開発・支援、求人求職情報ネットワークの拡充、中長期的な労働力受給予測システムの開発。
- 中小企業の労働力確保支援に向けて、経営環境改善支援、賃貸住宅や保育施設などの福利厚生充実化支援、労働時間短縮に伴う労働力補充支援、中小企業の社員教育訓練支援、雇用安定センターでの中小企業向け雇用サービス拡大など。
- 学校から労働市場への移行支援に向けて、職業指導から就職までの求職者別就職支援サービスをパッケージで提供する若年就業支援総合プログラムの推進、若年職場体験プログラムを産学協力プログラムに発展させるために参加企業へのインセンティブ供与、若年層のニーズに合わせた多様な教育訓練プログラムの開発など。
第3に、高齢者・女性・障害者など労働市場における弱者に対する雇用支援;
- 高齢者向けに、採用・解雇の際に年齢を理由に差別されることがないように雇用慣行の改善、高齢者に適合した専門職種の開発支援、中高年に対する能力開発および転職支援サービスの拡充。
- 女性向けに、育児休暇制度の拡大(事業主に対する代替要員の人件費支援、休暇取得要件の緩和および給付額の段階的引き上げ)、女性労働者の母性保護のために流死産休暇および胎児検診休暇制度の導入、民間の職場保育施設に対する支援拡大、産前産後休暇費用の事業主負担軽減、公営企業での女性雇用促進のためのインセンティブ(加点制、採用目標制など)の導入勧告、雇用上の性差別被害救済機構の設置、雇用差別救済および予防に関する法律の制定など。
- 障害者向けに、公共部門で適合職種の開発および法定義務雇用の適用外部門の縮小、民間部門で障害者雇用率の高い事業所に対するインセンティブの拡大および法定義務雇用の適用対象事業所の段階的な拡大、障害者中心の企業モデルの開発・拡大、創業支援プログラムの拡充など。
第4に、生涯職業能力開発体制の構築;
- 労働市場への新規参入から在職、転職、失業などの段階別能力開発支援の拡大。
- 公共訓練機関、民間訓練機関、教育機関などの役割分担および連携強化を通じて能力開発支援のためのインフラの整備。
- 職業能力の社会的評価基準として機能し、在職者のたゆまぬ能力開発を促進する方向へ資格制度の改編など。
第5に、ソーシャルセーフティネットの拡充;
- 臨時・日雇い労働者、高齢者(60~65歳)などへの雇用保険の適用拡大、雇用保険への労働者自主申告制度の導入により雇用保険未加入事業所の最少化。
- 受注額2000万ウォン未満の建設工事や従業員5人未満の農林水産法人、特殊雇用形態労働者などへの労災保険の拡大適用、労災に遭った労働者の職場復帰支援プログラムの拡充、雇用保険と労災保険の適用および保険料徴収業務の統合など。
第6に、雇用の流動化支援のための雇用インフラの拡充;
- 雇用安定センターを能力開発支援のための社会インフラと労働力需給調節の中核拠点と位置づけるとともに、就職斡旋および失業給付を専門的に扱う「一般センター」と、そのほかに能力開発・雇用安定・雇用創出事業など総合的なサービスを提供する「総合センター」に改編。
- 雇用関連情報ネットワークの段階的構築。第1段階として、雇用関連情報(就職斡旋、雇用保険、職業訓練)を個人別・企業別に統合し、雇用保険連携情報ネットワークを構築。第2段階として、若年層・中高年層、女性などの情報利用者別に雇用関連情報を再分類し、総合サービスを提供するための「利用者別雇用関連情報統合サービスシステムを構築。第3段階として、公共機関と民間部門の雇用関連情報を共有するための統合情報システムを構築。
このような中期雇用政策課題と関連して、高学歴若年層や中高年層などの雇用対策をめぐっては早くも現行制度の限界を補うための新たな試みが見られる。例えば、高学歴若年失業対策の新たな試みとして、全国経済人連合会と教育部、大学関係者などは10月15日に「教育改革特別委員会」を開いて、2004年2月末から大学3年生後期、4年生前期在学生を対象に6カ月間のインターンシップ制度を実施することで合意した。いままでは同制度の実施企業が少ない上、その期間も短かったため、その効果(特に政府の財政支援の実効性)を疑問視する向きが多かった。(海外労働時報2002年2月号参照)今回このインターンシップ制度の主な内容は次のとおりである。
- 毎年2月末から8月末と8月末から翌年2月末まで、年2回実施。
- 教育時間は事前教育200時間と現場実習800時間合わせて1000時間。勤務時間は午前9時から午後6時まで週5日間。月30~35万ウォンの手当が支給される。
- インターンシップを修了した場合、大学では単位(8~15)として認められ、当該企業では採用の際に優遇される。
そして中高年層の雇用促進のための新たな試みとしては、
- 従業員300人以上の企業を対象に社員の退職年齢が平均定年(57歳)を下回る場合、定年延長計画を労働部に提出し、再雇用の指導を受けるようにし、これを守らない場合は、行政上の制裁を加える旨の通達を出す、
- 「労働者の募集・採用・解雇の際に年齢を理由に差別してはならない」という差別禁止規定を雇用政策基本法に新たに盛り込む、
- 企業側の高齢者雇用に伴う人件費負担を軽減するために賃金ピーク制(55歳を過ぎて一定の年齢に達した場合、雇用を保証する代わりに賃金引き下げを認める)を導入する、
などが注目される。
しかし、その一方で、盧武鉉政権の選挙公約でもある非正規労働者保護関連法案をめぐっては労使政委員会では労使間の合意が得られなかったため、政府が同委員会の話し合いの結果を踏まえ、2003年末をめどに法制化を目指すことにしていたが、経営側の強い反発に遭い、先送りを余儀なくされている。
2004年1月 韓国の記事一覧
- 若年失業や雇用の流動化が目立つ最近の雇用情勢と政府の雇用対策
- 不法ストの責任を問う損害賠償および資産仮差押訴訟をめぐる政労使の動き
関連情報
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